2006,09,01, Friday
『桂小五郎と近藤勇 竜虎の決戦』(1957年・S32)
桂小五郎(嵐寛寿郎)と近藤勇(大河内伝次郎)のガチンコ勝負、にみえて実は虚無僧・箱持ち・黒頭巾に謎の老人と、七変化を魅せながら女子供にも優しい桂小五郎を演じるアラカンさんのイイトコ取り映画でもあった。 天っちゃん(当時26歳)は新撰組の永倉新八。当然、近藤さんサイドなので、写楽の浮世絵みたいなメイクの大河内さんと、コワモテの土方歳三(江川宇礼雄)の傍らで画面上好位置をキープ。防具に着られているようなスリムビューティーで、大勢での立ち回りになると遠慮してか後ろに下がってしまっているのが丸判りながらも(永倉が斬られるわけにはいかんからだろうが)長州のスパイに対する態度などで後の冷酷ぶりをも彷彿とさせてくれた。強引に拉致する役なれど、子供とのスキンシップもバッチリだ。 箱持ちに化けて近藤さんの密談を盗み聞きしていた桂小五郎の胸倉を掴んだり、刀を突きつけたりする美味しいシーンもあり、アラカン大ファンの天っちゃん(&ウスイ家の人たち)はさぞや嬉しかったに違いない。アラカンさん、胸倉掴んだ天っちゃんの手をぎゅっと握ってくれてるし(「もう手洗えないよ~」「その手触らせろ~!」とか兄弟でじゃれあってそう)。
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2006,08,30, Wednesday
「葬式は俺がやる」(1985年・S60)
幕府から御用金を受けた商人宅に押し入り、皆殺しの上に金を奪う「御用党」なる盗賊たちが跋扈していた。今夜も仕事をさくっと終えた有能な彼らだったが、小柄ながらも眼光鋭いひとりの浪人(ロンゲを後ろで束ねた、相対的に恰幅の良い天知茂)に出くわしてしまいケチがつく。浪人の名は、武州から上京してきたばかりの近藤勇。忍びの技にも動じないふてぶてしい近藤さんに、たまたま物陰から見ていた半蔵(千葉真一)配下のガマ八(大葉健二)も舌を巻く。 ならず者に襲われている娘・美和(佐藤万理)を救った縁で逗留先をゲットした近藤さん、正体を探りに屋敷に忍び込んだガマ八を難なく縛り上げ、救出にきた雲水(=半蔵)と対峙するが、身軽さの面で分が悪く(恰幅がいいから、ではなくて相手が千葉ちゃんだから)引き分けに。ところが翌晩、またもや雲水姿の男が襲い掛かってくる。近藤さんを江戸へ呼び寄せた刀根(黒部・ハヤタ・進)や加賀藩の剣持(北町嘉朗)は、そいつをやっちまえとそそのかすのだが、目つき同様アタマも鋭い近藤さんは片方がフェイクであることに気付いており、なにやらキナ臭い陰謀をかぎつけてもいたのだった。 次の日、近藤さんの為にお茶を点てる美和の仕草がおかしかった。実は美和たちこそが「御用党」一味で、刀根や剣持がその黒幕なのだ。しかしいつのまにやら近藤さんに惚れていた美和に毒殺は無理というもの。彼女の愛に救われた近藤さんだったが、彼を抹殺せんと一味は飛び道具などを用意して迫り来る。そこを助けてくれたのが半蔵。半蔵から御用党の次のターゲットを聞いた近藤さんは、彼らを阻止すべく立ちはだかった・・・! 立ち回りはてんこもりだわ女性に惚れられるわ子供には笑顔だわ、誰が主役ですか、な回(主演の千葉ちゃんより長く画面に映っていたに違いない)。幕末には疎いので良く分からないが、近藤勇ってこんなひとでいいのか? 新撰組なんか要らんだろう、こんなに強けりゃ! *数年後、新撰組を作ってからまた半蔵と出会う、というようなナレーションが流れていたが、天っちゃんが生きていたらそういう話も出来ていたんだろうかと思うと残念だ(初回放映は1985年6月) *タイトル「葬式は俺がやる」の意味が掴めなかったのだが(たしかに放映の1ヶ月後にお葬式だったんだけどそれは関係ないとして)・・・俺と組まないか、と近藤さんに言われたときの半蔵の答えにヒントがあったのだろうか? それとも美和さんのためのセリフ? *千葉ちゃんの歌(エンディング)を初めて聴いたが・・・天っちゃんの方が上だと思っていていいんだろうか
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2006,08,26, Saturday
「ニューヨークから来たスパイ」(1966年・S41年・6月11日OA)
企業コンサルタントの津村(主人公:成田三樹夫)の父と懇意だったカメラ会社の社長・等々力が不可解な転落死を遂げた。それと同時に、いつもあくどい企業買収を仕掛けてくる太陽グループ(=津村の宿敵)の息がかかった男が社内に潜り込み、跡を継いだ長男や社員たちを懐柔し始めたという。次男から相談を受けた津村が調べを進めると、その男は数日前に空港で再会した大学時代の知人、ビクター竹内(天知茂)だった。 在学時にアメリカ国籍を取得、渡米してから産業スパイとしての修練を積んでいたらしい竹内は、等々力の会社を乗っ取る使命を帯び、ニューヨークから来日したのだ(*ビクターだからといってカタコトで喋ったりガイジンっぽい動きをしたりはしないので悪しからず)。なんとか買収を阻止しようとする津村だったが、ソツのない竹内の手管に翻弄され後手に廻るばかり。しかし、会社の命運もこれまでかという直前で、津村は竹内の犯した微細なミスを突き、形勢を逆転させる・・・。 使命の為なら手段を選ばぬ(女も泣かす)やり手のスパイながら、仲間がしでかした人殺しや強盗を容認するほど性根は腐っておらず、本当は企業買収なんて嫌な仕事だと思っているんだと心情を吐露したりする、実に味のあるライバル役。負け惜しみを言うんじゃないが俺も(ミスに)気付いていたさ・・・などとさらっと(ぬけぬけと)呟いてから笑顔で津村を称えてみせる余裕のある敗北の仕方にも大物感が漂っていた。実際、「大物ですねえ!」とか「凄い奴だ・・・!」とか、レギュラー陣の持ち上げ方がハンパではなく、見た目は小粒なのに(それは言うな)扱いはやたらと大きかったのが印象深い。66年当時、天っちゃんは既にお茶の間のスタアとしての地位を確立していたからか、はたまた成田ミッキーの顔の怖さと迫力に負けてないのは彼くらいのものだからか(でも背は負けていたなあ←だからそれは言うな) *「ザ・ガードマン」の単細胞ドラマーとか、「泣いてたまるか」のニコニコお巡りさんとか、まったく1966年というのは芸風の広さに目を見張る年だ(映画でもショボクレから愛染まで、という凄さ) *2009.5.4追記(朝日新聞縮刷版より引用)『光学機械の中堅メーカー等々力光学を乗っ取ろうとするたくみな作戦の前に津村はあぶない』…ちなみに朝日新聞での副題は朝・夕刊とも「ニューヨークから帰ったスパイ」になっていた。
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2006,08,24, Thursday
『二百三高地』(1980年・S55)
ロシアとの勝算薄い闘いに挑もうとしていた日本。戦争の長期化・泥沼化を防ぐためにアメリカを抱き込む算段の伊藤博文(森繁久弥)は、時の大統領セオドア・ルーズベルトとハーバード大で同窓だった貴族院議員の金子堅太郎(肩書きとお髭が立派な天知茂)に仲立ちを依頼した。 ところが面相の割には控えめかつ消極的な金子。アメリカはロシアと縁が深く、日本有利に事を運ぶ可能性は、政治上、経済上、社交上非常に低い、せめて半分くらいの見込みがなければ到底無理ですごめんなさい、と顔を伏せる。 しかし、その自信なさげな様子に業を煮やした伊藤博文から「ダメだ! 君はね、成功しようと思うからだめなんだよ。命を賭してやるんだよ、金子く~ん!」とタバコを投げつけられ両肩を3度ほどがしっと掴まれゆさゆさ揺すぶられたおかげで「閣下・・・!」と感極まって(手荒い扱われ方に、ではないはずだが)アメリカ行きを決意。『金子はただちにアメリカに向かって旅立った―』というナレーションと共に映画からも旅立ってしまった金子くんだった(出番短いよ!) *おそらく『デマカセ紳士』以来の森繁さんとの絡み。25年の月日を経ても、(森繁さんに)良い様にあしらわれる、という力関係はあまりかわっていないようだった *『デマカセ紳士』並みにショートな出番だったにもかかわらず、DVD表紙ではやたらと目立った位置にいる金子くん(こんな感じ)。これぞネームバリュー? *天っちゃん出演作で唯一リアルタイムに映画館で観た映画(当時9歳)なのだが、さすがに彼の出番は記憶になかった。途中でこれでもかと畳み掛けるさだまさしの『防人の詩』、今だと気恥ずかしい、というよりむしろ少々あざとさを感じてしまうけれど、当時は心にぐさぐさ突き刺さったのをしっかり覚えている(そして今も条件反射で泣けてきたりする)
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2006,08,17, Thursday
『太平洋戦争 謎の戦艦陸奥』(1960年・S35)
戦艦・陸奥(むつ)副長の伏見浩介中佐(天知茂)は、艦長(物静かだがちょっと得たいの知れない沼田曜一)や部下・松本(頭一つ分デカい菅原文太)たちの信望も厚く、陸奥が恋人と公言してはばからない“コチコチの海軍”@叔父さん(=海軍将校)談。 戦争末期、僚友艦がミッドウェイ海域で撃沈されるなか、陸奥だけに帰艦命令が下る。海軍の象徴として、陸奥は無傷でいなければならなかったのだ。しかし、呉に停泊した陸奥を破壊し、日本国民に精神的打撃を与えようと暗躍する組織があった。僚友艦を見殺しにした罪悪感、戦闘に加われない疎外感を抱いた乗組員の心のスキをつき、組織は色々と仕掛けてくるのだが、あわやというところでなぜか突然現われて乗組員の気持ちを和ませる伏見中佐(本人無自覚)のおかげで陸奥は事なきを得ていた(が、乗組員のほうは結局のところ溺死・爆死など悲惨な最期を遂げる羽目に)。 一方、将校クラブのマダム・美佐子(小畑絹子)は、陸奥の技師であった父が設計図盗難の罪を着せられ銃殺されたことから陸奥を憎み、組織に加担する一人だったが、伏見に出会い、愛してしまったことで板ばさみになる。そして伏見もいつのまにか、外泊の多さを艦長が心配して松本に偵察させるほど、美佐子にのめりこんでいた。 陸奥の火薬庫に時限爆弾を数発仕掛けることに成功した組織。伏見を死なせたくない美佐子は、爆破当日に彼を呼び出そうとするのだが、ボス(ドイツ人)にばれて部屋に軟禁される。約束の時間になっても現われない美佐子を伏見は必ず訪ねてくるだろう、そこを射殺してやれというドイツ人の魂胆だったが、部屋に現われたのは、伏見の伝言を携えた部下の松本だった(なんでこんな大事な場面でお前なんだ文太!とツッコミたくなるシーンだ)。銃撃戦となり美佐子は被弾、松本の腕の中で(なんでこんな大事な場面で…以下同)「陸奥が・・・陸奥に・・・」と呟き絶命した。ショックは分かるが、ちゃんと言わなきゃ分からないよ美佐子さん! 予科練たちが実習に乗り込んだその日。歓迎会の途中で席を立ちアンニュイに甲板に佇む伏見に、松本は美佐子の死を告げた。驚愕する伏見に、時限爆弾が見つかったとの知らせが追い討ちを掛ける。タイムリミットが刻々と迫る中、必死に残りの爆弾の捜索を始める乗組員たち。そうそう、その箱の中だ! その棚の一番下! もうちょっと・・・というところで「よし、捜索を止めろ。これ以上は危険だ、全員退避!」って伏見中佐、そりゃないでしょうに(涙)かくして、美佐子が命がけで守りたかった男は、爆弾の至近距離で最愛の陸奥と共に海へと沈んでいった・・・(艦長以下ほぼ全員死亡) とにかく「いい人」の伏見中佐だが、結果的に何の役にも立っていない(しかも無駄死)あたりが寂しいというか、善人役の天っちゃんってのは物足りないものだなあと実感。 *やはり伏見が美佐子にクラっときたのはこの一言「あなたの後姿、まるで白鳥が悶えているみたいだわ…何か苦しんでいらっしゃるのね」が原因か? (こっちがクラッときた) *「平和のための戦争などありえない」名言を残して去った平和主義の叔父さん(細川俊夫)が素敵。 *当時のポスターの下半分は思いっきり誇張(というより詐欺)です
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2006,08,08, Tuesday
『黄線地帯(イエローライン)』(1960年・S35)
刑務所生まれで孤児院育ちのニヒルな殺し屋・衆木(=もろき)一広(黒いレザーコートが決まりまくりの天知茂)は、阿川(大友純)という男から「貧乏人を困らせる血も涙もない奴」を消してくれと依頼を受け、一人の男を射殺するが、礼金代わりにパトカーを呼ばれ窮地に陥る。彼が殺したのは不正取引撲滅に精を出す神戸の善人税関長。阿川に騙されたと知った衆木は、逃亡の際たまたま電話ボックスで見かけた女性・エミ(赤い帽子&靴と白いコートのカラーが映える三原葉子)を拉致、彼女の行き先が神戸と知り、阿川への復讐のため共に駅へと向かう。 一方、エミと電話でいちゃついていた恋人の新聞記者・俊夫(朴訥さが売りのハンサム・タワー吉田輝雄)は電話が途中で切れたことに不審を抱いて駅まで行くが、見つけたのは自分が贈った赤いハイヒール片足分(=エミがわざと落としたもの)。ダンサーの職を探す彼女が応募した芸能社はダミーで、どうやら裏には大掛かりな黄色人種専門の人身売買組織(=イエローライン)が絡んでいるらしいと突き止めた俊夫は、デスク(老けメイクの沼田曜一)の許可を得て神戸へと調査に赴く。 衆木を裏切った阿川と、そのボスで表向きは社会事業家として名のしれた松平(中村虎彦)がイエローラインの総元締めであったことから、衆木・エミ・俊夫の運命は、神戸の裏街(?)・カスバへと収束していくのだった…。 スタイリッシュなギターの音色(音楽:渡辺宙明)に乗って繰り広げられる、無国籍でドライな映像の数々。偶然が偶然を呼び寄せる展開と、三人の際立った違いが面白い。典型的な巻き込まれ型の吉田さん(一動作ごとの指ぱっちんが恥ずかしい)はともかく、 「女の約束と貞操を信じる奴は低脳だ」 「恋愛か・・・そんなものは足の早い食い物みてえなもんだ。ちょっと放っときゃよ・・・ちょっと放っときゃ、すぐ腐っちまうんだ!」 なんていうセリフもクールにこなす、いつもながら情念MAXの目つきの天っちゃんと、人質に捕られてもあっけらかんと楽天的な(でも逃げる算段もちゃんと考えている)葉子ねえさんのコンビが素敵で、ほんのり良い仲になりかけていた矢先のビターかつリアルなクライマックスが忘れがたい印象を残してくれる。そしてやっぱり天知茂には似合うのだ、裏切られ怒りに燃え、束の間の優しさに包まれながらも破滅に突き進む姿が。 *スパニッシュ系のギターも良く似合う天っちゃん。やはりスペインと縁があるのか *連れ込みホテルのやり手マダムに、若杉嘉津子さん(四谷怪談のお岩さん) *ドライな映画とはいえ、ちゃんと三原葉子ねえさんのセクシーな踊りを堪能できるあたりが新東宝だ
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2006,08,05, Saturday
『まむしの兄弟 懲役十三回』(1972年・S47)
昭和11年・神戸。刑期を終えたゴロ政(菅原文太)は、彼の帰りを待ちわびていた弟分の不死身の勝(川地民夫)と共に、刑務所で知り合った“金スジをバッサリ斬ったハクい兄弟分”を訪ねて東京は浅草方面へと繰り出した。のだが、単純で騙されやすい(つまりバカ)な二人はスリにあったり殺し屋と間違えられたり、散々な目に遭う(でもバカなのでそれなりに順応して楽しんでいる模様)。 吉原を牛耳っている東竜会の組長・岩淵(goo映画のあらすじでは天津敏となっているが小池朝雄)にひょんなことから見込まれた政は、なさぬ仲の菊村一家の連中を痛めつけてくれと頼まれる。しかし、政がムショ内で兄弟分の盃を交わした男・弥之助(通称ヤノ:渋い和服の天知茂)は、その菊村一家の代貸となっていた。東竜会とうちはもとは一つの組、何の問題も起こっていないと言う弥之助だったが、本家である菊村の親分が病の床に付いているのを良いことに、先代の追善興行の件で分家の東竜会が(自分たちが仕切りたいために)嫌がらせを続けていることを政たちは聞き知る。 兄弟・ヤノの窮地を救おうと政たちはバカなりに頑張るのだが、その行為は、事を荒立てずに済ませたい弥之助の立場を却って悪くするものばかり。面と向かって「オマエら余計なことしすぎなんじゃい!」と怒鳴ったり出来ない、顔は怖いが相当控えめな弥之助は「神戸へ帰ってくれねぇか、兄弟・・・」とオブラートに包んだ物言いをしてみるものの、バカには通じず、「俺らのこと、バカにしてるんやろ!」と逆ギレされてしまう。 政たちは神戸に帰るどころか、馴染みになった子持ちダンサーが男(村井国夫)に捨てられた挙句借金のカタに吉原(=東竜会)へ売られたことを知り、彼女を足抜けさせるという暴挙に出た。その知らせを受けた弥之助の眉間の皺は縦横にMAX。岩淵の元へ赴いて小指をつめるも「おめえの指なんざ何の値打ちもねえ」と撥ね付けられ、興行権を譲れと迫られる。苦痛を堪えつつそれだけはきっぱり断り(カッコ良さからいうとたぶんここらへんが最大の見せ場)、出て行こうとしたその背に、卑怯にも銃弾が。 政と勝が駆けつけたときには満身創痍で瀕死の弥之助だったが、この落とし前は俺がつける、と(たぶんバカ二人に任せたらロクなことにならないと踏んだせいだと思う)最後の力を振り絞って岩淵を道連れに絶命。兄弟分の死にぶちキレた政たちは「皆殺しや~!」と叫んで文字通り東竜会の皆殺しを敢行、警察が来た気配に「サツが怖うてニンジンが食えるか」と迷言を吐きながら底抜けに明るいテーマ曲(皆殺しのときから鳴りっ放し)と共に去っていった。 *このテの映画では悪人・善人役を問わず死亡率が異様に高い天っちゃんなので免疫はついているが、やはり善人役なのに死なれるのは辛い。しかも主役二人に殺されたようなもんだもんなあ。新東宝時代の恩(?)を忘れたのか、文太! タメ口きくとはいい根性しとるな、文太! 赤ん坊(ダンサーに置いてけぼりにされた)なんか手馴れた天っちゃんに任せておけばいいんだ、文太! *親分は病弱、分家の叔父貴は性悪、そして押しかけ兄弟分はバカ、と辛いことばかりのヤノさんだったが、ひとりだけ強い味方がいた。分家をたしなめ、追善興行を全面的にバックアップしようと申し出てくれた関西の大親分、演じるは嵐寛寿郎。アラカンさんありがとう(でもすぐ大阪に帰ってしまわれた)
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2006,08,03, Thursday
『森繁のデマカセ紳士』(1955年・S30)
♪おいらのペテンは~芸術ペテン~♪ 安っぽい宇宙船内のようなセットで歌い出すペテン師・堀川(森繁久弥)の背後のドアがしゅっと開くと、キャンバスと画材道具を手にし、ベレー帽を斜めに被った画家(スモックも可愛らしい天知茂24歳)が入ってきた。それじゃ僕たち仲間だな!芸術家の心は他人に分かるものじゃない、などとと嬉しそうに言う彼は堀川と握手、一杯やろう・そうしようという話になるのだが、突然ドアから警官が。 警官「こらペテン師!」 堀川「(画家を指して)ほう、あんたはペテン師か」 警官「オマエだ!」 というベタなボケ&ツッコミの後(指差された瞬間の天っちゃんの表情が良い)、警官と画家は画面からフェードアウト。映画開始2分足らずで出番終了(91分もあるのに)。 *天っちゃん的には最初の部分だけを観ておけば事足りるが、実はこの映画、のち(2年後)の奥さま(芸名・森悠子)の名前もクレジットされている。でもどこに出ているのかが分からなかったのでどなたか教えて下さい(女子プロレスのシーン? それとも劇場の観客?)
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2006,08,02, Wednesday
『顔役』(1965年・S40)
冒頭、大勢のその筋の皆さんが一同に会する中、半オクターブほど高め(軽め)の声でやおら仕切りだすのが、関東は檜山一家のエリート幹部・花岡章(天知茂)。造成地にまつわる関西ヤクザとのいざこざをスライドを交えて長々と説明する独壇場に、ちょっと目立ちすぎじゃないのかと思ったのは我々だけではなかった(いや私は嬉しいが)。殺人の罪で懲役を終えて出所したばかりの檜山一家の最古参・中神正治(主役:鶴田浩二)を差し置いたふてぶてしい花岡の態度が、中神の舎弟で血の気の多い早見恭一(準主役:高倉健)は面白くない。 組の為に臭い飯を喰ってきた中神がまた組長から損な役回り(=関西勢を牽制し、土地所有者を丸め込んで土地を買い占める)を押し付けられたことも早見にとっては実に面白くないのだが、とにかく中神兄さんはめいっぱい辛い目に遭って(小指まで失くして)も黙って耐える。だがどさくさに紛れて檜山組長が関西のヒットマンに射殺されてしまったせいで、跡目争いが浮上。当然のように後釜に座り、弔い合戦を指揮しようとしたちゃっかり屋の花岡だが、さすがに中神はストップをかけた。だが、舎弟の早見が檜山組長と懇意だった社長を土地のことで脅した件が問題視され、組の相談役たちに「早見をやって(=殺して)落とし前をつけろ」と迫られる。 上の命令には絶対服従の中神だったが、さすがに可愛い舎弟は殺し難く(本人も嫌がっているし)、かくなるうえは相討ちでと思うのだが「バカになって俺と死んでくれ」「俺ぁあんな組のために死ぬのはイヤだ」の平行線、ついでに早見の元カノ(三田佳子)が飛び出してきたりでうまくいかない。とそこへ、「いつまでママゴトやってんだい」クールなセリフと大勢の部下を引っさげて花岡が颯爽と(とはいえ暗いので良く分からないが)登場。二人の死体を関西勢に引き渡そうという魂胆の彼と中神たちは撃ち合いを繰り広げた。 だが「出て来い、花岡!」中神の一声(名づけて鶴の一声)に「なにい!」といきり立ちドラム缶の陰から飛び出した途端、撃たれて絶命。名前呼ばれたからってドンパチの最中に立ち上がるウッカリ者とは知らなかったぞ花岡。周りの部下もびっくりの急逝ぶりに加えて、前のめりに倒れた際、ドラム缶が身体(上半身)の上にがらんごろんと落ちてくるという、いろいろとイタイタしい最期だった(気合入りすぎだ天っちゃん)。 関西VS関東のやーさん達がずらりと睨み合う中、中神と早見は向き合って銃を撃ち合った。(gooのあらすじでは二人とも死んだことになっているが)倒れたのは、最愛の兄貴を撃てなかった早見だけ。彼の死をムダにしないでくれ、ってことで手打ちとなり、完。しかし、もう少し待っていれば跡目の座が転がり込んできたんじゃないのか花岡よ(やはりウッカリ者か)。 *早見が中神の赤ちゃんをあやすシーンがあるのだが、健さんの不器用極まりない抱き方を観ているといかに天っちゃんが手馴れているのかよく分かる(この映画では抱っこシーンはないが) *中神と行動を共にする部下に待田京介(わんこやホステス絡みのメルヘンなエピソードが秀逸)、江原真二郎(花岡=天っちゃん側のスパイ)ら。
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2006,07,30, Sunday
『暴圧(大虐殺)』(1960年・S35)
大正12年9月1日。アナキスト・古川大次郎(天知茂:前髪下ろした書生風)が牛メシ屋で関東大震災に遭遇していた頃、「朝鮮人たちが放火しているぞ!」と根も葉もないデマが飛び交い、何の罪も無い朝鮮人たちが暴徒と化した群集に襲われていた。それに乗じた軍部は、朝鮮人や社会主義者を一斉に拘束、殺害するという計画を実行。仲間とアジトにいるところをどうやらひとりだけ捕縛された古川は、女子供まで容赦なく銃殺する軍部の非道を目の当たりにして怒りに震えた(自分は川に飛び込んでうまく逃れたが ←さすがの逃げ足)。 さらに古川たち同志の師である左翼の柱・大杉(細川俊夫)が妻や幼い息子ともども軍に拉致され、甘粕大尉(沼田曜一)らの手により抹殺される。古川は打倒・軍部を誓い、同郷の先輩・高松やその妹・京子(古川とほんのり恋仲)の心配をよそに過激テロに走ろうとする。まずは資金繰りをと、大阪の知人を訪ねた際に外回りの中年銀行員を刃物で脅すが、カバンを掴んで離さないので(当然だ)うっかり殺してしまう。東京に戻り仲間と缶詰爆弾を作って軍の幹部暗殺を謀るが胡散臭い挙動でバレて失敗。軍の追及を避け、半ば不貞腐れてカフェの女給さんとはじめての一夜を過ごしたところ、彼女の父は自分が手にかけた銀行員だと判明。ショックで飛び出し、海辺で眉根を寄せていると、高松と京子に遭遇。古川を救いたい一心の京子は彼の居場所を警察にチクってしまい・・・と、進めば進むほど踏んだり蹴ったり。 それでも懲りずに巨頭会議が開かれる陸軍省に忍び込み、部屋の爆破を目論んだ古川たちだったが、張り巡らせたコードを踏まれた拍子に導火線が外れてしまい、あえなく御用に。「朝鮮人や日本人の同胞を虐殺した奴らはどうして処罰されないんだ! こんな不合理が許されていいのか! 俺達こそ民衆のために戦っているのがわからないのか!」などと叫びながら、古川は護送車に消えていった。 実在の人物・事件を題材にしたセミ・ドキュメンタリーなので、主人公の行動に対してとやかく言うことは控えたいが、なんにせよテロはいかんと思うなあ。 *もっとも、怒涛の不幸(不運)の連続に見舞われる天っちゃんを観ていると、本人と話の展開はすこぶるシリアスなのについ顔が綻んでしまうのだが(不合理が似合いすぎてて) *大杉の通夜の際、「おとうちゃん、おかあちゃん、どうして死んじゃったの。ああんああん」と泣きじゃくる幼い娘・エマちゃんを抱っこして庭先に出た古川、「おじさんと歌をうたおうね」と『月の砂漠』を披露。♪金と~銀との~♪からは彼女とハモるのだが、天っちゃんが低く出すぎてエマちゃんが大変そうだった *眼鏡で変装とか、仮面をつけてバイオリンを弾くとか、本筋とは関係ないところで楽しめる作品でもある(女給さんとの夜のシーンも必要以上に可憐だ←天っちゃんが)
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