2009,01,21, Wednesday
「陽気な未亡人」(1983年・S58・11月22日OA)
八代将軍になった吉宗(鹿賀丈史)の母ゆり(=浄円院:山田五十鈴)と嫁(側室)のたえ(斉藤慶子)が梅干し持参で大奥を訪れた。場所柄構わずカントリースタイルを崩さない二人は大奥の庭を耕して畑にする始末。困惑する月光院(江波杏子)の頼みで偵察に訪れた間部(トメ位置奪回:天知茂)は、自ら野良作業に勤しむ吉宗に不穏な胸騒ぎを覚えた。「あの汗が、怖い…」 覗き見するデカダンスなふたり(=月光院&間部)の存在は、ゆりと吉宗に気づかれていた。「あの男(=間部)が側にいては、月光院さまの切り髪もけがれ果てようのう。お気の毒なことや」(いやどっちかというと彼女の魔性が原因なのだが)母の呟きに、吉宗は近々決着をつけると約束する。 間部は天英院(加賀まりこ)に、吉宗を大奥へ誘う骨抜き作戦を暗に促すのだが、今回ばかりは吉宗の対応の方が素早かった。彼は大奥に自分の許可なく男子が入ることを固く禁じたばかりか、側用人の役職を廃止する、と宣言したのだ。万事休した間部は、がくりと頭を下げるしかなかった。 この命令に当然憤った月光院は吉宗に詰め寄ったものの、「二人とも人の手本とならなあかんお人やさかい…ふっつり諦めなされ」とゆりに諭される。想いがあるうちに断ち切った方が、後の生きるよすがになる――ゆりの言葉を噛みしめる月光院。 一方、側用人から雁間詰に配置換え(左遷)させられ陰鬱がどんより増していた間部はある日、周囲の反対を押し切って大奥に入り、所領の高崎に戻らせてほしいと吉宗に直に申し出て許可を貰う。健在で、と言う吉宗に「かつての名もなき能役者めよ、と白い目を向けられ続けた越前の引き際、とくとご覧下さりませ」とひとさし舞おうとして振り向くとそこには涙目の月光院が。「月光院様にもお健やかに…想いを抱き、消え失せまする」それだけ言って「船弁慶」最後の部分(弁慶舟子に力を合せ〜)を舞いながら(謡は吹き替え)、間部は厳かに退場してゆくのだった――。 (このあと月光院も吹上御殿へ移り、紀州ファミリーとの微笑ましい交流のあとで“陽気な未亡人”・天英院もまた別れの舞を舞って退場するところまで続くが、ワタシ的にはここがセフィニ〜♪) *“金襴緞子から木綿の世界に”をポリシーに質素倹約を敢行する吉宗に完敗、とうとう画面上から姿を消してしまう間部。往生際悪く足掻く事すら潔しとしない、エベレスト級自意識の持ち主らしい壮麗な引き際だった。 *大奥改革を終え、紀州親子が「さっぱりしましたな」と言い合っていたが、たしかに間部&月光院の濃密といおうかいかがわしさ全開といおうか、大層おどろおどろしいコンビがいなくなると雰囲気がガラッとライトに変化していた。 *能役者といえば翌年(1984年)の「真夜中の鬼女」(能役者・宗山役)、いつかぜひ見てみたい。原作はもしや泉鏡花の「歌行燈」なんだろうか?
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2009,01,21, Wednesday
「吉宗と肝っ玉母さん」(1983年・S58・11月15日OA)
幼君・家継が風邪をこじらせ病の床に就いた。我が子を案じ心乱れる月光院(江波杏子)に「人の命は一寸先は闇。今この越前とて、この場において命を落とすやも…」と不穏な口をきく間部(天知茂)は、万が一に備えて次の将軍の人選を考えておかねばとあくまで冷静。そして二人の意見は「紀州の吉宗だけは願い下げ」で一致した。特に、誰もが一目置く自分に廊下で頭を下げさせ道を譲らせた吉宗(おまけにクレジットのトメ位置までも略奪:鹿賀丈史)に対して、間部は反感を抱いていたのだ。 「あの男が八代様になっては、わしの夢が崩れる…この手から天下の権が零れ落ちる…」 昏い憎悪の眼差しを燃やす間部、その胸に月光院はぴっとり寄り添うのだった(子供が心配でも魔性が勝ったらしい)。 将軍後見職(=次の上様)を決めるために徳川御三家の長を呼び出し、老中たちは喧々囂々。間部のイチ押しは尾張大納言・徳川継友(堀内正美)なのだが本人が今一つぴりっとせず、年嵩の水戸の綱条(佐竹明夫)は副将軍で充分という。そして紀州の田舎を駆けていたそのままの質素な格好で母ちゃん(山田五十鈴)と茶屋で見初めたヨメ(斉藤慶子)を連れて上京した吉宗は、皆の意見に従うからといって別室へ引っ込んだ。 その吉宗にさりげなく毒入り茶を届けさせた間部だが飲んでもらえず目論見は失敗。月を見上げている吉宗の背後を通りかかり、頭の影をむんずと踏もうとした時にもさっとかわされ、またもやムカッときた間部は「始末せよ。ただし、殿中ではならぬぞ…」 と黒装束で軒下にいた助川(毒入り茶を持って行った茶坊主もばっさり始末:宮口二郎)に吉宗暗殺を命じるのだが、吉宗シンパの紀州黒潮隊(内田勝正ほか)らの妨害に遭いこちらも未遂に終わった。 一方、六代将軍の正室・天英院(加賀まりこ)は、間部が継友を推しているのを知って阻止せんと家宣の遺言書まで偽造した右腕の綾小路(南美江)の頑張りに応えるため、地位を利用して吉宗プッシュに回る。母の言に従い欲を捨てていた吉宗だが、「大奥の費用(三十万両)を半分にしたら後見職を引き受けると言ったわよね!」と彼女に突っ込まれ引き受けることに。 土壇場で逆転された間部は「月光院さまの御意向も受け賜わらねば!」と急ぎ立つが、その瞬間、しゅたっと手裏剣を足元に投げつける吉宗(実は畳を滑っていったが、次のカットではちゃんと刺さっていた)。それは助川たちが襲撃に使っていたものだった。「動くまいぞ、越前!」だが一瞬“畜生バレたか”という顔をしたものの、間部はすぐに懐紙に手裏剣を載せて吉宗に差し出し、ポーカーフェイスで相手を直視。「恐れながらここは殿中、このようなもの、お納めあってしかるべきかと存じまする」 息詰まる場の空気を変えたのは、家継臨終の知らせだった。これにより吉宗は次期将軍に。葬儀の段取りでも質素倹約を持ち出し、棺が何の変哲もない白木であることに怒り心頭の月光院は吉宗をぶちのめしに向かうが、逆に諭されて泣き崩れる。それをじっと見ていた間部は、黙って奥へと引き下がるのだった。 *カントリー精神と和歌山弁を江戸に持ち込んだ自然児・吉宗に、相変わらずの澱んだオーラで対抗する間部。あからさまにヒールな挙動を繰り返していたにも関わらず、嫌味や開き直りを超越した表情で吉宗に対峙してのけた手裏剣シーンはすごかった。なんでそこでそんなカッコいい顔ができるんだ! *山田五十鈴さんとの共演は『風雲金比羅山』以来だと思うが(というか、あれは共演とは言わないだろうが)、あいにく今回も絡みはなかった。
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2009,01,19, Monday
「永遠の処女」(1983年・S58・11月8日OA)
(冒頭、#31の禁男の園の濃密シーンなどが微妙に別アングルで回想されたあと)将軍生母として権力を誇る月光院(江波杏子)と男の壮麗な野望を達成した間部(天知茂)の蹴落としを図らんとする老中一派の謀略により、月光院の右腕・絵島(神崎愛)や宮路(加茂さくら)たち十数名は芝居見物・役者との乱交の咎で大奥を追われ、絵島を真剣に愛してしまった生島新五郎(田村亮)もまた罪人となった。 ショックを受け、老中に糺しに行かんばかりの月光院だが、この見え透いた陰謀のターゲットが自分たちだと勘付いた間部は自重を促す。彼には、得意の眼力で生娘とみた絵島がそう簡単に男と情けを交わすとは思えなかった。ここで騒いでは藪をつついて蛇を出すことになる。「秘すれば花、秘さざれば花ならず。この花を知っているのは絵島ただ一人…」絵島も心配、しかし自分たちが夜ごと臥所を共にしていることがバレるのはもっと心配。不安そうに背後からぎゅうっとしがみ付いてくる月光院の手を、間部はしっかりと握り返した。 牢に繋がれ、関根(菅貫太郎)らのネチっこい拷問を受け続けた絵島は、ついに譫妄状態となり胸に秘めた新五郎への愛を口にするようになる。しかし秋元但馬守(綿引勝彦)や土屋相模守(林彰太郎)ら老中が最も知りたかった月光院&間部の逢瀬のことは一言も漏らさずじまいで、とうとう死罪を言い渡されてしまった。 ところが、二人の老中は「絵島の命を助けてやれというのに間部は聞いてくれぬ!」と間部にむずかりハンストする上様を目の当たりにし(させられ)、間部と月光院が最後の切り札を出してきたことを悟る。かくして絵島は減刑され遠投、生島も三宅島へ流されることに決まった。 別々の土地へ流されるふたりにせめて最後の逢瀬を、との懇願に渋い顔をしたままの間部に「そなたには小伝馬町の牢役人を動かすほどの力もないのか!」と詰め寄る月光院。「そなたは近頃、我が身の保身ばかり考えておる。人は頂上にのぼりつめると、失うものを惜しむばかりのいじきたないブタになるものじゃな!」明智ばりの冷静さを保っていたもののさすがにカチンときた間部は月光院の手をぐっと掴んで引き寄せたが、途端にヘナヘナとしなだれかかり、泣き落としにかかった彼女の魔性には逆らえなかったようで、便宜を図ってやるのだった(籠に幽閉されたまますれ違う絵島と生島の哀しい別れでセフィニ〜♪) *いってみれば自分たちの代わりに絵島&生島が罰せられたわけだが、懲りるふうでもなく濃厚に密着していたコワモテ・カップルであった。
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2009,01,12, Monday
「暴かれた禁男の園」(1983年・S58・11月1日OA)
時は(2話分ほど)流れ、51歳で6代将軍・家宣が死去。お喜世の方(いしだあゆみ→江波杏子)は剃髪し、月光院を名乗ることになった。だが彼女の魔性は治まることはなく、剃髪式の際にも、母にすがろうとする鍋松君を膝に乗せた間部詮房(“越前守”に出世:天知茂)と粘着気味の視線を絡ませていた。 やがて鍋松君は7代将軍・家継に。まだ5歳ゆえ、ほんの近所にある東照宮の御霊屋への参拝も「母さまと行く〜!」と駄々をこねる始末だが、御霊屋は女人禁制。土屋相模守(林彰太郎)たち老中は間部にお守を押し付け、将軍を参拝させなかったらお前が責任を取れと、彼の蹴落としを図ろうとする。しかし、子供ウケする間部は家継を抱っこして平然と御霊屋へ現れ、「御前にておわす。お控えめされい!」と老中たちを一喝、頭を下げさせるのだった。 ある日、月光院の右腕として大奥を仕切っていた絵島(神崎愛)が主人に呼ばれてみると、あろうことか月光院は裃姿の男(=間部)の胸に身体を預けていた。しかもそのあと「わらわは今夜、越前と臥所(ふしど)を共にします」と高らかに宣言した月光院は、間部と自分との浅からぬ関係を語り(中の人が違うので回想映像は無し)、彼の夢を果たしてやった自分には何も残っていないではないか、だから今からは女(おなご)として生きようと思う、好もしい男とふたり、互いに肌と肌を合わせ喜びを分かち合う、これ以上の喜びはあるまい、などと憑かれたように絵島に同意を求める。カタブツだが忠誠心の篤い絵島は混乱しつつも、襖の陰からじっと聴き耳を立てていた間部と月光院にOKを出さざるを得なかった。 …そして禁男の園の禁を破ってふたりはいちゃいちゃ、その声を聞きながら少女時代のトラウマが蘇り心乱れる絵島。一方、大奥建て増しの便宜を図ってもらいたい栂屋善六(北町嘉朗)から賄賂をもらった交竹院(田中明夫)が年寄・宮路(加茂さくら)と結託、御法度だが黙認されている芝居見物に絵島を誘いだし、あの生島新五郎(田村亮)に引き合わせる。そこへ、絵島の色紙を貰いたかっただけなのに宮路に足蹴にされてキレた松永弥一郎(河原崎長一郎)が訴状をしたため、間部に敵愾心を燃やす秋元但馬守(綿引勝彦)がそれを取り上げ、間部追い落としのために絵島の失脚を画策せんとし、かくして絵島生島事件は幕を開く…というところで「続く」。 *出番は前半だけ(しかもセリフは数語)にも関わらず、相変わらず濃厚なオーラを放っていた間部越前守。月光院さまとのラブシーンは意外と地味だったが(下半身責めがお得意らしかったが)「お控えめされい!」の時の勝ち誇った表情のブラックさは際立っていた。あの表情はこの役ならではだろう。
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2009,01,06, Tuesday
「女帝への階段」(1983年・S58・10月11日OA)
#27のダイジェスト(むろん湯浴みシーン含む)で開始した今回。間部詮房(天知茂)の狙い通りに西の丸の殿様・徳川家宣(露口茂)は、他の女人とは一味違うお喜世(いしだあゆみ)に一目でぞっこん、めでたく彼女は寵愛を受けるようになる。 明けて正月、5代将軍綱吉が逝去し、家宣は6代将軍に。綱吉に重宝された柳沢吉保(かなり無理のある老け役:あおい輝彦)は家宣に呼び出され、間部&新井白石(山村聡)の特捜師弟に挟まれた状態で、生類憐みの令の廃止を告げられる。抗っても前後の凶悪視線に射抜かれてはなすすべもなく、せめて落髪したい、と申し出たときには既に家宣(と白石)は退出した後。それは順番違い、先に職を辞すべきでしょう私ならそうしますなあ、などとうそぶく間部に、「いずれお手前にも失脚の時が・・・底なしの落とし穴が…それ、すぐそこに待ち受けているやもしれぬぞ」と捨て台詞を吐くしかない吉保だった。 だが未だ権力に未練のある吉保は、男子・大五郎君を産んで以来上様の足が遠のきヒステリー気味のお須免(自分の側室の従妹:松本留美)と共謀、かつてのお喜世の腐れ縁・文次郎(峰岸徹)を利用して、彼女の過去を上様に暴露せんと画策する。相変わらず小物の文次郎は、吉保子飼いの才蔵(遠藤征慈)に唆され、お喜世に濃厚な恋文を書くよう言われてホイホイその通りにするのだが、謎のコワモテ侍・助川(宮口二郎)にバッサリ斬られてあっけなくお陀仏。助川が恋文を届けた殿様は、誰あろう間部その人だった(特捜部恐るべし)。 まもなくお喜世が懐妊した。身辺保護のため、家宣ゆかりの根津御殿行きを勧めた間部は「心に夜叉を」「この闘いに勝ってこそ、天の頂きに上ることができるのです」と彼女を叱咤激励。大五郎君は(虚弱ゆえ)お世継にはなれません、そう言い切る間部に、お喜世は恐ろしさを感じる。 そんな折、間部と白石を連れた家宣が根津御殿を訪れた。「間部をどう思う? 政(まつりごと)一筋で、おなごには全く関心がないらしい」家宣の言葉にここへきたあらましを思い出しながら「つまりません、女に興味のない殿方なんて…!」と言い切り、それでは(間部が)気の毒だと言う家宣にストレートに愛を告げるお喜世。翌日、白石と歓談中に物乞いに打ち掛けを与えたことを(白石が仲の良い間部に言ったらしく)厳しく間部に諌められ「そなたには心というものが欠片もないのでしょ、キライ!私は上様が大好き!」と必要以上に煽ったお喜世だが、よろめいた彼女を咄嗟に抱き止めてくれた間部の半ば理性のたがが外れかかったような視線をもろに浴び、言葉とは裏腹の自分の想いを見られた気がしたのか、なんで今さらそんな眼をするのよ!と腹立たしくなったのか、思わず間部をビンタしてその場を去る。一瞬驚いた間部だが、次第に諦観してゆくその表情はどこか満足気でもあった。 月満ちてお喜世は鍋松を出産。輝くばかりの“お腹様”となったお喜世の参詣の様子を垣間見た父・玄哲(長門裕之)は、奇しくも境内で瞽女となった出奔妻に巡り逢った。娘とは正反対の人生を送りながら悔いはないという彼女に、どちらの道にも仏はいる事を噛みしめる。 その頃、お須免の産んだ大五郎が風邪をこじらせて死去、お喜世が一服盛ったのではとの憶測が流れた。間部を問い詰めるお喜世。「そなたが殺したのですね」しばらく沈黙してから否定する間部(沈黙長過ぎ)を信じることにした彼女は、我が子のため、今こそ心を夜叉に、鬼になると誓う。そのために、そなたのことも特別な殿御からただの家臣とみなします、そう宣言して去る完成品のお喜世を、間部は万感の思いで見送るのだった――(お喜世を思わせる咲き誇るハスの花と共にセフィニ〜♪) *ストイックを通り越してマゾ気すら感じてしまった間部のマイ・フェア・レディ物語、ひとまず完結。彼に敗れてみじめに去った柳沢吉保に未来の姿がオーバーラップしつつも(あれほど惨めではなく、むしろ最後まで壮麗なんだが)、野望を達成した姿に拍手。 *聡さん演じる新井白石とは直接会話シーンはなく、裏で仲良くしてんだろうなと想像するしかないとはいえ、宮口二郎さんを加えた強力タッグがなんとも非ライ的で嬉しかった。
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2009,01,06, Tuesday
「塵に咲く花」(1983年・S58・10月4日OA)
内蔵助以下の討ち入りメンバー切腹の報を聞き、悲しみに打ちひしがれる浅野邸で、TPOをわきまえない文次郎(峰岸徹)と慣れ合ってしまった女中のお喜世(いしだあゆみ)は、不興を買い屋敷を去る羽目に。1年半後、茶屋の女に身を持ち崩し夜の街を彷徨うお喜世に、鋭く艶やかな視線を注いだひとりの侍(天知茂)の姿があった…。 自分自身にも、煮え切らぬ文次郎との腐れ縁にも辟易しているお喜世は、父に貰った短刀を取り出し「いっそ殺しておくれよ」と詰め寄っている内にテンションが上がり、「死んで…!私も後で行くから…!」と抜き身を片手に文次郎を追い回し、隣の座敷にまで乱入。と、そこにいたのは先刻の侍。彼の並みでない眼力に、お喜世はハタと短刀をとり落とす。彼の名は間部詮房(あきふさ)、5代将軍綱吉の世継として西の丸に入ったばかりの徳川綱豊(後の6代将軍家宣:露口茂)に仕える、甲府藩江戸詰の侍である。 間部は七夕の夜、屋形船で星を待ち侘びしこたま酔い潰れていたお喜世のもとへも姿を見せた。「何をそんなに苦しんでいる…?」静かに問う間部に、「抱・い・て…」と呟くお喜世。だが間部は文字通りただ抱き寄せるのみで酔いを覚まさせると、もう一度武家の飯を食う気はないかと彼女を誘うのだった。 ――けがれた悲しみは川へ流すがいい。七夕の笹竹と共にな…。 澄んだ朝方の星を眺めながら、お喜世の心は揺れた。 お喜世の父はかつて侍だったが、ある理由から出家、玄哲(長門裕之)と名乗っていた。寺を訪れ、お喜世を御殿奉公させたいと許しを乞う間部を見た玄哲は、彼が娘に潜む魔性に迷ったことをズバリ指摘、彼女の母も男を惑わせる女で、間男と夜逃げ、それが原因で自分は仏門に入ったのだと告白した。だが、お喜世に惚れていることを正直に打ち明け、自分もそうなる(=頭を丸める)覚悟はできた上での願いだと間部は力説。お喜世は、間部の屋敷へ奉公することとなった。 妻も家族もいない間部には老女中だけが仕えていた。生花の出来栄えを褒める間部の優しい言葉に頬を染めるお喜世。彼は次に、酒と男を断てと注文した。さらに美しく、さらに気高くなるために――言われるまま行儀作法を磨くお喜世が彼の真意を理解したのは1か月後、今後は大奥に仕えよと言われたときだった。 主君・綱豊には正室の煕子(ひろこ:加賀まりこ)、側室のお須免(松本留美)らがいたが、学問好きの綱豊は儒学者・新井白石(山村聡)との勉学時間の方が大事らしいと踏んだ間部は、自分が大輪の花を咲かせたお喜世を大奥へ送り、綱豊の世継を産んでもらいたいと考えていたのだ。 男としての壮麗な夢をお前に賭けた、とまで言われたお喜世だが、間部を愛し、いつかはお情けを、との想いだけで精進してきた彼女にとって、それはあまりに辛い事だった。しかし、たまらず屋敷を飛び出し父の寺に戻ったお喜世は、玄哲の励ましを受けて再び間部の前に姿をみせ、大奥行きを承知する。彼の夢をかなえるために――。 *壮麗な野望のためには目先の情欲をストイックに自制してのける男・間部詮房。お喜世へ向ける、理性と感情がうねり合っているような視線がなんとも強烈だ。 *強烈といえば、「酒と男を断て」シーン。モチ肌全開で湯浴みしてるホの字の男に「男も断たねばな」と言われたお喜世、さぞや訳が分からなかったろう。…というより、なぜまた脱いでるんだ天っちゃん。 今回は誰もお色気要因がいないから俺が、とか思ったのか? モチ肌をぺったんぺったんしたくなったじゃないか!(←何もお喜世はぺったんしていたわけではない) *今回は一瞬だけツーショットになった程度だが、おそらく非ライ第3シリーズ以来、久々(3年越し)の山村聡さんとの共演。新井白石と間部詮房といえば、史実ではこの時代将軍を支えて活躍した最強コンビか。ナイスなキャスティングだ。
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