2007,04,14, Saturday
「冥土の便り」(1966年・S41年・12月14日OA)
午(うま)の日、越後屋の愛妻が自害した。平次(大川橋蔵)の調べでは死因に不審な点は見当たらなかったが、涙に暮れる越後屋の元へ複数の字を切り貼りした奇妙な手紙が届く。思い知ったかざまあみろ、めいどより(内容は誇張)と書かれたその手紙を届けにきたのは、眼光するどい素浪人・田波和之助(天知茂)。手紙は女に預かっただけだ、丸顔で面長の(←ありえない)、などと風貌に輪をかけて胡散臭いことを言ってのける田波を、もちろん平次は怪しい奴として完全マーク。 次の午の日。上州屋の娘が、参拝に出かけたお稲荷さんの狐石と鳥居の下敷きになり死亡。これも事故死と思われたが、平次は先の越後屋の件と関わりがあると睨んだ。またそれを見越したかのように田波が現われ、お前には命をかけて愛する者がいるか、その者が殺されたらどうする、などと深い問答をふっかけて怪しさを倍増させる。そして再び表れる切り貼り手紙。寺子屋も開いていて(だから複数の字の切り貼りも余裕で可能)どこから見ても容疑者然とした田波は、それでも悪びれる様子はない。 調べを進めた平次は、田波には江戸詰め時代に清香という名の恋仲の芸者がおり、その彼女が1年前の午の日、舟遊び中に溺死したことを知る。同舟していた3人の男が戯れに船を揺らしたせいで清香が落ちたのだと、当時の船頭は証言した。その3人のうち2人が先の越後屋、上州屋だったことまで掴んだ平次は、最後のひとり・武蔵屋に直行、愛娘の身辺の警護を強化する。 また午の日がやってきた。池に落ちた石は掬えるが、それが砂ならばどうする、お前たち(=お上)には掬えまい、とまた濃密な問答を繰り広げつつ、ちゃっかり平次を土蔵に閉じ込めて武蔵屋に向かった田波だったが、思いいれたっぷりに歩みを進めていたためか、抜け出した平次に先回りされ襲撃は未遂、投げ銭をかわして遁走する羽目に。 そしてまた次の午の日。お札参りに出かけた武蔵屋の娘を今度こそ襲った田波。越後屋の妻は心理戦で自害に追い込み、上州屋の娘は朽ちた鳥居を上手く利用し事故死に見せかけた知能犯のはずの彼、なぜか彼女にだけはストレートに辻斬りを敢行するのだが、お品さん(宮園純子)の投げ縄と平次の連続投げ銭に阻まれた。俺が(お上の)犬ならお前は化け物だ、愛する(した)者の霊を傷つけているだけじゃないか! 平次の叫びに、問答好きの田波の手がはたと止まる。「あいつ(=清香)は喜ばないというのか…」虚ろな目で背を向けた田波は腹に刀を突き刺し、愛しい女の名を口にしながら川へ飛び込むのだった…。 *平次VS田波の濃厚なやりとりが続く脚本は、天っちゃん御用達の宮川一郎氏。不必要に(いやファンにとっては必要だが)アップが多いカメラワークも嬉しい。 *復讐に燃える男というよりは、愛する女の死霊に憑りつかれたかのような、どこか精神的な危うささえ漂わせる男・田波。伊右衛門@四谷怪談といい、同時期(66年11月公開)の愛染@無頼剣といい、ステロタイプではない悪を演じさせると絶品だなと思う。 *「冥土」とつくと死亡するわけだな<#339「冥土の土産」参照(#284「白い粉」は死んでないので)
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2007,01,22, Monday
「冥途の土産」(1972年・S47・11月3日OA)
呉服屋の跡取りでありながら放蕩三昧を尽くした揚句に盗っ人に成り下がり、島送りとなった“霞の清次郎”(天知茂)。今は務めも終え、カタギの人足として真面目に働いている彼の目下の心配事は、生き別れになった妹の消息だけだ。 ある夜、彼を雇ってくれた材木問屋に強盗が入り、主人が殺された。錠前破りの手口にピンときた清次郎は、昔の盗っ人仲間からその男・重吉(高橋長英)の居場所を聞き出し訪ねてみるのだが、なんとそこにいたのは妹のお峰(岡田由紀子)。重吉をまっとうな人間だと信じて疑わない彼女は、急に現われたかつての極道兄貴を(内心はいざ知らず)嫌悪感を露わにしてなじるのだった。何も言えずその場を去った清次郎は、重吉を見つけ足を洗うよう勧めるのだが、聞き入れてもらえない。 再び別の材木問屋が襲われる事件が発生。平次親分(大川橋蔵)は、寺建立の入札を巡って新興の但馬屋(中山昭二)が暗躍しているのではないかと推理する(←当然ながらビンゴ)。盗賊あがりの但馬屋が、邪魔なライバルを蹴落とそうと更に強盗殺人を画策する中、やはり義兄の顔が怖かったらしい(ウソです)重吉がお峰を連れて逃亡を図った。が、すぐに重吉だけ捕らえられてしまった。それを兄貴のせいだと思い込んだお峰は清次郎に散々わめき散らし、苦悩度MAXの彼は平次が止めるのも聞かず単身で但馬屋に乗り込んだ。重吉を逃がすためにわざと彼の右手を傷つけ、俺の方が錠前破りは上手いぜと、強盗の片棒担ぎを申し出る清次郎。 だが清次郎はカタギを捨てる気はなかった。錠前破り直前になって反旗を翻した彼に強盗一味のドスが襲い掛かる。先刻からの切ないまでのいい奴ぶりから察するに、実にやばすぎる状況だ。でも銭形平次だからそこはそれ、と思っていると都合よく平次親分が現われてくれた。颯爽と応戦する平次親分。そこで決め手の銭が・・・なんと、不発! そんなことアリなのかと驚いている内に、ドスを喰らって清次郎バッタリ。「お峰・・・重吉・・・良かったなあ・・・これで冥途の土産ができた・・・ぜ」かくして極道の限りを尽くした(らしい)男は、平次親分に看取られながら最愛の妹のために命を落としたのだった・・・。 *「いかにもなシチュエーションだ」と思っていたらやっぱりか、な回。まあ生き残っても邪魔だもんなあ兄貴。しかし、重吉探しの堂々たる捜査っぷりは「島帰りの人足」というよりは「囮捜査中の左門さま@大岡越前」ってな感じだった。そんなだから平次親分まで銭投げ損なっちゃったのか(違)。 *落命シーンだけ目にした母「あらー、風呂上りみたいにテカテカしてはるわね。元気そうで」。オカンそれはいちおう脂汗流して苦しんでるんだよ!ちょっと恰幅良すぎだからってソレは無いよ! *「誰かに抱かれながら死ぬ」というパターンに、今回のはギリギリ入るか・・・?(ちょっと微妙な気もするが)
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2006,11,03, Friday
「白い粉」(1971年・S46・10月13日OA)
近ごろ急に心証を落としていた河内屋(梅津栄)が首を吊った。平次(大川橋蔵)は死体が握り締めていた赤い油紙に着目、紙に残った白い粉の分析を、町で評判の蘭方医・伊藤北陽(天知茂)に依頼した。白い粉をつけた小指を舐めハッと顔色を変える、というありがちなシーンを大真面目にこなしてくれた天っちゃんもとい北陽は、この粉がご禁制の麻薬・モルヒネだと断言し、なぜか出どころをしきりに聞きたがった。 ご禁制の麻薬が巷に出回っていることを憂慮し、中毒患者とおぼしき人たちを洗い出した平次だが、患者は既に北陽が引き取ったと知り驚く。そして粉を売りさばいている上方のバイヤー・弥六(芦屋雁之助)を発見した時も、一足先に北陽が接触を図っていた。 だが北陽は、薬事方与力の佐久間(金田竜之介)に面会した後、引き取ったばかりの患者を家に帰してしまった。不審を抱いた平次が夜中にこっそり北陽の屋敷に忍び込むと(不法侵入じゃないのか親分)、棚にはモルヒネの赤い包みが。問い詰める平次に北陽は「三日待ってくれ、そうすれば全て終わる」と嘆願する。 ところが平次が根負けして彼の頼みを聞き入れた矢先、弥六が何者かに殺されてしまった。有無を言わさず北陽をしょっぴく平次。しかし北陽は町の人たちから非常に愛されており、「センセーを返せー!」と平次サイドがすっかり悪者扱い。しかも佐久間まで乗り出し横槍を入れてきたため、釈放せざるを得なくなる。 釈放された夜、北陽は佐久間宅を訪れた。実は弥六を使って町に麻薬をばら撒き金儲けをしていたのは佐久間だった。どうしてもモルヒネを入手しなければならない理由があった北陽は、弥六から真相を聞きながら、あえて沈黙を守ったのだ。その代償のモルヒネをケチ臭く出し渋った佐久間に北陽は懐刀を向けた(が、あっけなく床に倒される)。あわやと言うところで平次親分の必殺武器が飛び出し、佐久間は御用に。 モルヒネだけはちゃっかりゲットした北陽は平次を誘い医院へ向かう。北陽は、足に傷を負った少年の手術に使いたいがためにモルヒネを必要としていたのだった。手術成功後、北陽は平次の前に両手を差し出した。使い方によっては人の命を救うことができ、一方では人生を狂わせる麻薬。どちらも目の当たりにした平次は複雑な気持ちを隠せなかった・・・。 ・・・と、ここでエンドマークでも良かったと思うのだが、「私は立派な人間ではない、立派な医者ですらないのだ・・・」と呟いた北陽が、少年の傷はそもそも彼の誤診が原因で、その失敗を密かに挽回する二度目の手術にモルヒネが必要だった、と告白するオチがつく。この一捻りで、麻薬使用の是非という重いテーマが北陽の個人レベルの苦悩話になってしまった感があるが、「悩める天っちゃん」(あとやっぱり子供に優しい天っちゃんとか)は堪能できる作品。
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| TVドラマ(時代劇)::銭形平次 | 12:18 AM | comments (x) | trackback (x) | |