2007,04,15, Sunday
『座頭市物語』(1962年・S37)
京都文化博物館・映像ホール(映画美術監督内藤昭・追悼特集)にて、当時を懐かしむ年齢層に囲まれての鑑賞。 いつもDVDの“チャプター見”(平手さん集中)をしていたせいで通しで見るのは初めてだったのだが、飯岡・笹川の両親分、それに群がる子分達の外道なふるまいを知るにつけ(笹川の親分が病床の平手さんを訪ねたのは、わざと彼を決闘場へと誘い出すための魂胆があったからと知って今さらながら相当ムカついた)、市っつあんと平手さんの束の間の友情の清らかさが際立って胸が熱くなった。 ルックス的にも状況的にも実に絶妙な時期に平手さんを演じたのだなあと、改めて天っちゃんの薄幸の美人ぶりに感嘆。セリフ回しもギリギリOKだ。 *映像ホール横のギャラリーで、本編をいいとこどりしたダイジェスト映像が見られたのは眼福。 *同じくギャラリーに飾ってあった、口の端に血糊をつけて懐紙片手にこっちを向いてニヤリと笑っている未見のスチール写真(スナップ?)もやたらと眼福。 *原作(ノヴェライズ本)について ![]() 子母澤寛の原作を元にした、映画の座頭市シリーズの第1作目~4作目までのノヴェライズ本。巻頭に第1作目の映画スチール(平手造酒=天知茂のスチールもちゃんと1枚有り←釣りのシーン)と、勝新さんの序文。 子母澤氏の原作自体はとても短く、平手造酒は座頭市と絡むこともなく「出入りで死亡」くらいしか書かれていないが、第1作目の脚本から書き下ろしたらしい「心友を斬る」は、映画の名場面を思い出しつつじっくり味わえた。
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2007,04,05, Thursday
『あぶく銭』(1970年・S45)
“ヒゲ松”こと松五郎(勝新太郎)、“爺さま”こと万蔵(藤岡琢也)、“ガキ”こと三郎(酒井修)の悪名高き賭場荒らしトリオは、磯部組と橋本組がシマを張る町へとやってきて、早速ヤーさんの金をかっぱらうなどやりたい放題。 橋本組の若ボンがいじめられているのをたまたま救ったヒゲ松は、代貸・七蔵(高城丈二)の様子から、この組が磯部(成田三樹夫)へ返すための金を何者かに強奪されたことで窮地に陥っていることを知る。実はその金を奪ったのは自分たちであるため、良心の呵責を覚えてそのまま返そうとするのだが、肝心の金は、隠したはずの場所から綺麗さっぱり消えていた。 あわてて賭場で荒らしを試みるも、盗って来たのは札束ではなく領収書。安宿で不貞腐れる三人だが、女に目がないヒゲ松は女中のおしま(水野久美)にひとめ惚れ。病弱の幼い息子を抱えて働くおしまに果敢にアタックするのだが、彼女には忘れられない人(=息子の父親)がいた。 そんな中、食堂をふらりと訪れた着流しに白マフラーの(というより包帯っぽい白布をなびかせた)そのスジの客(天知茂)を見ておしまが声をあげた。「政吉さん…!」彼こそがおしまの想い人だったのだ。彼女に会って驚いた顔をしたものの、俺を追うなといったはずだ、女房にする気はねえ、そりゃほんとに俺の子か? などと実につれない政吉。しかし「だめよ政吉さん、そんな風にわざと言っても」とおしまに図星をつかれて「…おめえにゃかなわねえよ」とのろけモード満開になりかけるのだが、そこへ現われたヒゲ松を見て表情が変わる。 驚いたのはヒゲ松も同じ。この“さむらい政”はかつて彼らに賭場を荒らされメンツを潰されたのを根に持って執念深く自分を付け狙う天敵なのだ。ここで会ったが百年目とばかりにヒゲ松を海岸へ誘いこみ、ドスを抜く政吉。やられたふりをしてハジキを取り出したヒゲ松の前に、追いかけてきたおしまが立ちはだかり、両者はしぶしぶ引き分けた。 一方でなんとか橋本組に金を返したい三人は、磯部の賭場を荒らして金を根こそぎ奪い取り、札束入り鞄を橋本組の玄関に置く。帰宅した七蔵がその鞄を手に取った拍子に磯部組の連中が押しかけてきた。お前があの三人を使って金を奪ったんだろう!とあらぬ疑いをかけられた揚句に集団リンチにかけられ、七蔵はあえなく命を落とす。 さらに、轢死に見せかけようと線路に七蔵の死体を置いている現場を見てしまったおしまも襲われ、政吉の腕の中で犯人の名を告げて息を引き取ってしまった。彼女の亡骸を前にしばし無言のヒゲ松と政吉は、豪雨の中を磯部組へと乗り込み、大乱闘の末に仇を討つのだった。 ひょんなことから最初に奪った事の元凶の金も見つかり(←ヒゲ松なじみの芸者・蝶子:野川由美子がこっそりネコババしていた)、それを持って悠々と引きあげるヒゲ松に政吉は声をかける。「おめぇとの決着がまだ残ってるぜ」渋い顔できびすを返し、政吉の胸元に札束をねじ込むヒゲ松。「残ってるのは、おめぇの子供よ」 それは香典代わりだ、(決闘なら)いつでもヤルぜ。最後にキメて去ってゆくヒゲ松を、政吉は呆れたような、でもホッとしたような、なんとも複雑な表情で見送った…。 *えらく意味深だった白マフラー、ヒゲ松との決闘シーンでおもむろにばっと外してそれから影も形もなくなった。なんだったのか。 *かつて(=松竹下加茂時代)雨の中の撮影で肺炎を起こして生死の境をさまよった天っちゃんだが、20年も経つとすっかり肉も付いて(むしろ付きすぎの感があれど)モロ肌脱いでの立ち回りは見ごたえがあった。こういう乱闘では殺されやしまいかとハラハラするのだが(東映作品なら絶対死んでたと思う)、薄幸な役目をぜんぶ高城さんが担ってくれたおかげで事なきを得たようだ。 *豪雨の中ずぶぬれで歩くヒゲ松の後ろから、赤い番傘&雨よけ付きの下駄で歩く政吉。律儀(デリケート?)な感じがさむらいなのか。
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2007,04,03, Tuesday
『剣聖 暁の三十六番斬り』(1957年・S32)
柳生十兵衛(辰巳柳太郎)から秘伝を授かった荒木又右衛門(嵐寛寿郎)。弱きを助け強きをくじく天狗のおじさんならぬ又右衛門さんは、河合又五郎(丹波哲郎)に父を殺された義弟の渡辺数馬(和田孝)の助太刀をして伊賀・鍵屋の辻で大暴れする。無声映画のチャンバラもどきのBGMが盛り上げてくれるクライマックスの三十六人斬りは、観客が彼に求めたものに堂々と答えてみせるアラカンさんの役者魂も垣間見られて圧巻だった。 長い間“伊賀モノ”だった身にとっては『荒木又右衛門』やら『鍵屋の辻』やらはすこぶる身近な言葉なのだが、又右衛門&数馬の他にあとふたり味方がいたというのは恥ずかしながら知らなかった。若いほうの岩本孫右衛門、それが今回の天知茂の役柄である。 又右衛門さまの中間(ちゅうげん)らしい孫右衛門は、廊下に控える年長の武右衛門(討ち入り仲間:広瀬康治)とは違い、庭先からタタタと駆け寄り「旦那様! ○○様がお越しになりました!」と声をかける下っ端くんとして登場。又五郎を追って4人で旅を続ける途中も、店の主人に聞き込む(ウソをつかれてるのに正直に信じる)・宴会に興じる又五郎一行の様子を探る・橋の上で見張るなど、旦那(=アラカン)様の完全なるパシリ仕様で、「ハイッ!」と軽やかに返事をしてタタタと駆け出す姿だけがやけに印象深かった。 実はこの映画の撮影が結婚式/新婚旅行とかぶっており、本人は奥様よりアラカンさんを選びそうな勢いだったようだが、撮影所のほうで調整してくれて事なきを得たらしいので(「奥さんこんにちは」参照)、ひとりだけ偵察その他で姿が見えないシーンが増えたのかもしれない。 しかしそのせいで、鍵屋の辻の茶屋(のちの『数馬茶屋』←今でもある)に着くなり「そこの先の長田橋で(見張っておれ)、いいな」とアラカンさんに命じられまたしてもタタタと走っていったのはいいが、味方の3人の末期の酒盛りに混ぜてもらえず、又五郎が来たのを大急ぎで知らせに戻ったらすぐさま「行け!」と追い出されるという、ちょっと可哀相な扱いも見られた。しかも戦闘になるとあっという間に怪我して戦線離脱。二刀流でばっさばっさ斬りまくる(@江戸の牙)のはあと22年も先のことだから仕方が無い。 *武右衛門は死亡したが、孫右衛門くんは生き残り70余歳まで長生きした模様( 青空文庫「鍵屋の辻」直木三十五より)
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2007,03,02, Friday
『婦系図より 湯島に散る花』(1959年・S34)
1959年といえば、『女吸血鬼』『東海道四谷怪談』の二大怪作で怪演したほか、丹波さんに縛られたり(『無警察』)インド人に苦労したり(『静かなり暁の戦場』)しながらも主役に返り咲き、そのままトップ・スタアの仲間入りを果たした記念すべき年である。その年の締めくくりに回ってきたのが、天下の二枚目の役というわけだ。 幼くして両親と死別、大学教授の酒井先生(佐々木孝丸)宅で育てられ彼の右腕となった業界の光源氏こと早瀬主税(天知茂)は、就職祝いに設けられた宴の席で芸者の蔦吉(本名=お蔦:高倉みゆき)と出会う。お猪口一杯で酔いが回った可憐な早瀬をお蔦は酒井先生公認で朝まで介抱し、そのまま二人は同棲する間柄に。芸者を辞めて甲斐甲斐しく尽くすお蔦だったが、娘の妙子(北沢典子)を自分の嫁にと考えている恩人の酒井夫妻(しかも夫人は病身)に対して、早瀬はなかなか話を切り出せないでいた。 ある日、彼らの関係がひょんなことから(妙ちゃんを狙う直助チックな悪党=河野を演じる江見俊太郎の奸計により)新聞沙汰になり、そこまで深入りしていたとは知らなかった酒井先生が大激怒。ワシのため、そして夫人のためにもお蔦とは別れてくれと迫る先生を前にして、愛する者よりも恩人との歳月の長さを重んじてしまった早瀬は、湯島天神の境内で泣く泣くお蔦に別れを切り出し、独り九州へと旅立つことに。 数ヶ月後。世界史の翻訳を無事終え名を挙げた早瀬氏上京予定か、と書かれた新聞を見たお蔦は駅へ駆けつけるが、待てど暮らせど早瀬の姿は見えず(ガセだった模様)、とうとう高熱を発して病の床についてしまう。偶然立ち寄った妙子は瀕死のお蔦の様子に心を痛め、早瀬との仲を許すよう父を説得。だが、駆けつけた父娘の前で、先生に早瀬の姿をみながらお蔦は息を引き取った。 一方、花畑でお蔦と祝言をあげている最中にお蔦が消えてしまう、という不吉な夢をみて胸騒ぎに襲われていた九州の早瀬は、ほどなく受け取った酒井からの電報に打ちのめされ(画面がぐるぐる回ったりびよ〜んと伸縮したりして彼の衝撃度をビジュアル化)、お蔦への真実の愛を貫かんと、風吹きすさぶ断崖から身を投じるのだった。 *カメラワーク(ツーショットだと大抵早瀬がうなじ側)といい小道具(ピンクのひらひら枕がやけに強烈)といい、お蔦=高倉みゆきさんをいかに綺麗に撮るかにウエイトが置かれていた感のある作品とはいえ、早瀬=天っちゃんもなかなかの二枚目ぶりを発揮していた。だが優男であろうとするあまりか、特に湯島天神のくだりなどお蔦がらみのシーンでの台詞回しが普段以上に軽く(可憐に?)なっていたのがイタかった。ラスト、飛び込む時の独白なんかすごくうまいのに、メロドラマなシーンはどうにも人を赤面させる天っちゃんだ。 *お蔦の後輩芸者役で三原葉子ねえさん。着物でもボリュームたっぷりだ。脱がないが。 *リピートしてみたらラストの独白もやっぱり恥ずかしかった。
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2007,02,17, Saturday
『軍神山本元帥と連合艦隊』(1956年・S31)
国を愛し人を愛し、そして平和を愛しながらも悲劇へと突き進まざるを得なかった連合艦隊司令長官・山本五十六(佐分利信)の業績を、彼の内面にスポットを当てながら描いたセミ・ドキュメンタリー。セットは多少しょぼくても、これでもかと挿入されるリアル映像の迫力と、実際に戦争経験してます世代のキャストたちの演技は、今の時代には到底出せない重さを感じさせてくれる。 まだ第二次大戦前、ロンドンへ軍縮交渉に向かう五十六長官と青年将校・三島(宇津井健)を、大勢の人々が見送った。その中に紛れている着物姿の怪しい二人組。大柄なのは右翼・東亜会の会頭・黒川(丹波哲郎)、「強硬交渉を頼むー!」と声を張り上げている小粒なほうが大石(天知茂)だ。どうやら彼らは迷惑な人々らしく、「沢山見送ってくれましたねえ」といつもバカがつくほど朴訥な青年・宇津井=三島将校の感想に対し、「あんなのが憂国の士では、日本も危険千万な話だ」と五十六長官はばっさり斬り捨てていた。 まさかこれで出番が終りなのか?と危惧したものの、その困ったちゃんズは物騒な手下を2人追加して、帰国した五十六長官の家に押しかけてきた。若いときから尊大な丹波さん(黒川)が偉そうな口調で長官に詰め寄る隣で「この国家の難局に、あんたのような腑抜けに政治を任しておくことは出来ん!」と虎(=丹波)の威を借る背広姿の大石くんだったが、もちろん五十六長官が黙っているわけはなく、「国賊とは貴様らのような奴らのことを言うのだ!」と一括され、眉根にぴしぃっと横ジワが。ドスを抜く手下の横で指をぽきぽきっと鳴らすフリ(?)をするも、見た目が見た目だけにただ揉み手しているだけにしか見えないあたり(写真)に小粒感がただよう、キレやすい大石くん(と兄貴分の黒川さん)の出番はこれにて終了。 *高島忠夫氏や宇津井健氏が青年将校としてそれなりに活躍の場を与えられている戦争映画の中で、ある意味で目立つ(というか浮いている)ヒールの役割をあてがわれた実悪&色悪コンビ(by 鹿島茂「甦る昭和脇役名画館」)。昔からちっとも変わっていない丹波さんはともかく、25歳の天っちゃんは真剣そのものなんだけどまだどこか不安定な感じがつきまとっていて、役が付き難かったのがなんとなく頷けた。
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2007,02,11, Sunday
『悲恋の若武者』(1962年・S37)
西郷どんを慕う若者たちが西南戦争(田原坂の戦い)に突き進む悲劇を描いた、橋幸夫主演のアイドル映画。 青雲塾のアイドル塾生・天野(橋幸夫)が塾長の娘・志保(三条江梨子)とデエト中、前髪をはらりと垂らした行商人風の男が飛び込んできた。ショバ代を払えと迫る追っ手から逃れているらしい彼を助け、傷の手当てをしてやる天野&志保。二人のラブラブな様子に微笑みを浮かべ、丁寧に礼を言って男は立ち去る。 やがて、志保ちゃんを好いていた古株塾生が天野へのジェラシーから官軍に寝返って塾長先生を殺害、志保ちゃんを拉致。助けにきた天野は官軍に捕まり、あわや銃殺刑か!というところで止めが入った。近づいてくる黒ブーツの男。「こうして会おうとは思わなかったね。・・・私だよ」なんと、いつぞやの行商人は、官軍の米ノ津駐屯隊長・成尾壮一(天知茂)だったのだ! 明治なモミアゲ(前髪は相変わらずハラリ)の成尾は、薩摩で凝り固まっている天野クンに、これから伸びる若い芽をむざむざ枯らしたくはない、もっと視野を広く持ちなさいと上京を勧める。が、説教臭い台詞に反発した若人・天野クン、礼もそこそこに志保ちゃんと一緒に出て行ってしまった。 しかしボディブローのように成尾の言葉がコタえてきたのか、いっちょ東京さ行って見るか~、という気になった天野クンだったが、時すでに遅く、同僚の友情に応えたりしているうちに激戦地・田原坂に身を置くことに。後を追ってきた志保ちゃんが例の古株塾生ともみ合って死亡、天野クン(アイドルなので死なない)が亡骸をお姫様抱っこするシーンでエンド・マークと相成った。 *『座頭市物語』『斬る』ときて3本目の大映出演作。勝新さんや雷蔵さんと対等に渡り合うだけでなく、アイドル映画に付き物の物分りのよい中堅俳優としての役割も無難にこなしていた天っちゃん31歳。ノッている(が、出番はショート)。
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2007,02,06, Tuesday
『竜虎一代』(1964年・S39)
文明開化の音が聞こえ始めた北九州。川船頭を束ねる石岡一家に拾われ、親方(山本礼三郎)の後継者として育てられた組頭・縄手清治(天知茂)には、親方の友人の娘・雪子(藤純子)という美しい許嫁がいる。しかし雪子の父・松橋(柳永二郎)が川船頭の敵といえる鉄道事業を興したことから家同士の関係が悪化、祝言は延び延びになっていた。 そんな折、松橋が何者かに襲撃され死亡。父の跡を継がねばならぬ雪子は、商売敵となってしまう清治に婚約解消を申し出た。お互いの手に愛のペア・リングが光ったまま、次第に疎遠になってしまう二人。石岡一家を父の仇と付け狙う(実はその通りなのだが、清治だけが知らされていない)血の気の多すぎる雪子の弟・新一(千葉真一)、また雪子の側にのほほんと居座っているワケありの流れ者・草刈信次郎(主役:鶴田浩二)の存在も、清治にとっては心穏やかではない(実は信次郎にはおくみさん=佐久間良子というイイ女がいるのだが、清治が知る由もない)。 松橋の死により潰えるかと思われた鉄道工事は意外に順調に進んでいき、仕事を奪われる立場の川船頭たちの動揺は広がる一方だった。彼らの生活を守るため、清治は船と鉄道の共存を市役所に懸命に掛け合うのだが、おエライさん連中は彼の提案を無視(彼らが鉄道で金儲けを目論んでいることを清治は知らない)。石岡親方は清治の青い理想論に堪忍袋の緒を切らし、彼を遠ざけて鉄道工事の妨害を企てようとする。 石岡一家の若い衆が線路にダイナマイトを仕掛けたことを知った清治は、投げ文でそれを雪子に伝えた。だがその後馬で現場に駆けつけると一足遅く、橋は爆破、新一は刺され重態。清治は彼を抱えて暴走する機関車から飛び降りたのだが、介抱の甲斐なく新一は命を落とした。清治がその場にいたことで、線路爆破は石岡一家の(というより清治の)仕業だと断定されてしまう。 おまけに、工事を手伝う内にすっかり鉄道にハマっていた信次郎(主役)がキレて石岡一家に乗り込んできた。松橋襲撃の際に居合わせた彼、唯一見かけた般若の刺青の男を見つけるとずばーっと斬り伏せ、そのまま石岡親方に刃を向けた。親方を庇って信次郎の前に立ちふさがった清治は、彼にサシの勝負を挑む。 清治と雪子がいまだに愛し合っていることを知っているはずの信次郎だから(それにやはり鶴田さんだから)なんかこう丸く収まるような態度に出てくれるんだろうかとの期待も空しく、やるかやられるかの極限の中、信次郎のドスが何の落ち度もない清治を貫いた。リングが光る右手を地に這わせて、殺される理由は何一つないのに清治は絶命。信次郎は東京から彼を追ってきた刑事(加藤武)に捕縛され、「縄手…すまん」と呟いて親方はピストル自殺。 後日。護送される信次郎の側を、鉄道完成を祝う機関車が過ぎていった。そこには、指のリングをじっと見つめる雪子の姿があった…。 *勇ましい船頭の若親方ルックでも(薪割りなんかもやってたけれど)どことなく線の細い書生風の清治。親方を大事にし、船頭たちにも親切で、雪子の死んだ父の霊を灯篭流しでそっと供養してやるような良い男振りなのに、親方や子分達、はたまたフィアンセの雪ちゃんにも、ウラの事情をまったく教えてもらえない可哀相な奴であった(愛されすぎてか?)。しかしなにもこんな悩める薄幸青年を二度も刺して殺しちゃうことないだろ鶴田さん(信次郎)! それに石岡の親方も、彼にすまながって自殺するくらいならタイマン勝負の時に止めてやれよ! *鶴田さんに虎の刺青があったから、タイトルから察するにてっきり天っちゃんには竜の刺青があるのかと思っていたのだが、最後まで脱いでくれることはなくて残念だった。 *資料本にはドスを抜いた千葉ちゃんと対峙するスチールが2枚ほどあるが、そういうシーンはなかった(まだまだボーヤな千葉ちゃんなので器が違ったというべきか)。
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2007,02,04, Sunday
『男の勝負 仁王の刺青』(1967年・S42)
喧嘩っ早さが元で破門された九州男児の浪曲師、“暴れマサ”こと菊地政五郎(村田英雄)は、兄弟子(中山昭二)と別れ来阪。押しかけ女房のお袖(藤純子)と職を探すが、破門された者を雇ってくれる興行師はいない。そんな折に地元侠客の山根組とねんごろになり、ヤクザの世界に入ることを決意する。 大阪を仕切る侠客には、山根(明石潮)のほか、石津(天津敏)、石津の弟分の浦辺(名和弘)、そして滝井伊三郎(先のメンツに比べると、親分というよりは呉服屋の若旦那のような雰囲気の天知茂)がいた。自分ちの若い衆をボコボコにした政五郎とサシの勝負に出たり、ある時はクレーンで吊り下げてリンチしたりと、最初は対立していた伊三郎だが、政五郎の漢(オトコ)気に感心したらしく、いつしか心を許す関係に。 政五郎が米騒動の責任を取りムショ入りしている間に、山根組のシマを乗っ取りたい石津と浦辺が、山根のゴミ船の人足を囲い込み営業停止に追い込むという嫌がらせに出た。進退窮まったお袖ら山根一家に救いの手を差し伸べたのが伊三郎。彼はやがて出所してきた政五郎と義兄弟の盃を交わし、山根組襲名披露のために奔走してやるのだった。 政五郎のかつての師匠や兄弟子も招かれ、芝居道楽な若旦那もとい伊三郎親分が企画した浪花節興行は襲名披露と相俟って盛大に開催された。が、心労が祟ってお袖が急死、おまけに石津&浦辺の極悪コンビが出席予定の芸人を拉致監禁、興行はたちまち途中キャンセルの危機に陥る。愛妻を失い傷心の政五郎に事情は告げられぬと、伊三郎は単身で石津の下へ掛け合いに向かった。 ところが、証拠がないとうそぶかれた揚句「眼ぇ三角にしよってからに、大層なこっちゃなあ」と軽くいなされ(元々そんな眼なんだから堪忍したって下さい>天津さん)静かにブチ切れた紋付袴の若旦那(親分)、ワイは命を張ってきたんや、オノレが死ぬかワイが死ぬかじゃあ!と匕首を抜いてテーブル越しに石津に襲い掛かった…!のだが、彼のリーチよりテーブル幅の方がはるかに広く失敗(も少し考えてから襲えよ)、かくして石津や浦辺の子分らと乱闘になり、かなり善戦したものの数には勝てず、四方八方からメッタ突きの憂き目に遭ってしまう。 床に倒れてからも踏まれたり蹴られたり、瀕死のカメ状態の伊三郎に、浦島太郎ならぬ小浪竜次郎(政五郎に恩義のある、石津一家の客分:鶴田浩二)が見兼ねて助け舟を出した。彼の説得に石津はしぶしぶ芸人を渡すことを承諾し、それを聞いた伊三郎は竜次郎の腕の中で安堵したように息を引き取った。今度はオマエが政五郎をヤる番だぜとの言葉を背に、竜次郎は伊三郎の亡骸を背負って静かに部屋を後にした…。 その後、仁王の刺青を引っさげて政五郎が弔い合戦に向かい、渡世のしがらみに縛られた竜次郎とのひと悶着を乗り越えて、二人して(あ、サブちゃんもいたなあ)にっくき石津たちを斬り捨て(石津と相討ちになった竜次郎は仁侠映画っぽい台詞を吐きながら雪の中で絶命)、政五郎は息子たちとの涙の別れを経てお縄となるのだった。 *前作「男の勝負」の弁次郎は陽気な二枚目半だったが、どこかインテリ臭を漂わせるキレ者の伊三郎親分。冷静沈着で、いざというとき頼り甲斐があり、友(きょうだい)思い。そんなすこぶるイイ人のなで肩の若旦那を一人で敵地へ行かせるってのはどういうことだよ子分衆! *ようやく「誰かに抱かれて死ぬ」天っちゃんに遭遇できたわけだが、ずっと見てたんならも少し早くなんとかしてやって下さいよ鶴田さん(泣)
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2007,02,01, Thursday
『空飛ぶ円盤 恐怖の襲撃』(1956年・S31)
(2007.02.01) 準備稿(「宇宙の十字架」)・決定稿(「地球は狙われている」)の他、詳細な解説が掲載されている資料集(猫山れーめさん編)をこちらで入手。 「ニヒル 天知茂」に載っているスチールが面妖な出で立ちにも関わらずやたらと男前だった大杉(天知茂)は、空飛ぶ円盤をやっつける唯一のロケット=R1号を開発した保科博士の助手。準備稿の段階では、ヒロイン(江畑絢子)の父でもある保科博士が最後まで主導権を握っていて、大杉助手は合いの手すら入れさせてもらっていないのだが、決定稿になると、博士はロケットに乗り込む前に怪しげなロボットにやられてしまい、大杉クンが涙ながらにロケットを発進させ、円盤を追うというおいしい展開になっていた。しかも、逃げる円盤をはやく撃っちゃえと示唆する能天気な主人公(高島忠夫)を、この距離で撃ったら地球が消滅するからまだダメですと止める(で、ギリギリの距離まで進めて見事打ち落とす)、人類の平和を守る心正しき科学者然とした人物だった。宇宙で仕切る天っちゃん、いつかぜひ映像を見てみたいものである。 *(2010.2.17追記)16mmフィルムが発見された模様。
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2007,01,28, Sunday
あの『狼男とサムライ』(1984年・S59)の完全版を、ご好意で見せていただいた。
完全版といっても、残念ながら「天知茂のアフレコ版」が存在するわけではなく、日本人キャストが華麗にスペイン語を喋っている(=吹き替え)上に字幕がギリシャ語、という国際色豊かなバージョンで、日本でビデオ化された作品(=日本版と呼ぶことにする)よりも約20分ほど多くの映像が含まれているものである。追加シーンは狼男(バルデマル:ポール・ナッシー)がらみの部分が多いものの、天っちゃん演じる貴庵が夢の中で暴徒相手に立ち回るシーンがあったりで、少しばかり得をした気分になれる。 しかし特筆すべきはなんといっても音(BGM)。舞台がスペインの時には日本版と同じBGMだが、いざバルデマル一行がお江戸に着くと、越天楽のようないかにもガイジンさん好みのニホンの音色が(たとえシリアスなシーンでも)賑々しく奏でられていて、ちょっとしたカルチャー・ショックを受けること請け合いだ。 ・・・もっとも、エンディング曲が天っちゃんと池波志乃さんのデュエット「絆」(しかもフルコーラス)だという最大級の驚きが待ち受けていることは前にも書いたが( 「恋酒」参照)、貴庵の妹・茜(朝比奈順子)とバルデマルのラブラブな逢瀬シーンでもこのムード歌謡(もちろん歌の部分)が唐突に流れ始めるという、そのめくるめく選曲センスには正直脱帽(or脱力)。何もかもこじんまりとまとまっていた日本版よりもいろいろと楽しめる作品だった。 *後から日本版を見直したところ、「絆」のインストバージョンはこちらでも流れていたことが判明。つまりこれが例の「映画のために作った歌」と考えていいのかもしれない(でもその場合なぜ池波さんなのか、という疑問は残るのだが)。
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