2009,07,14, Tuesday
『たそがれ酒場』(1955年・S30)
戦争後に絵筆を折った画家、辛い事件をきっかけに落ちぶれた老ピアニスト、訳あり過去を隠して踊るストリッパー……大衆酒場で繰り広げられる、さまざまな人間模様を酒場のセットだけでじっくり見せてくれる佳作。さすが鐘の鳴っている頃の新東宝は良い作品が多い。 軍隊が懐かしい鬼塚(東野英治郎)が軟弱そうな大学ゼミ生とその先生らしきお気楽集団に文句を垂れる開始28〜9分ごろ、突如玄関から猛ダッシュで画面手前まで走ってくる青年(天知茂)の姿。「聞け万国の労働者〜♪」と外で労働組合のストか何かをやっているようだったから、その関係者かもしれないが、アリスの兎並みに焦りながら階下へひょいと飛び降りた青年。その後ろから追いかけてくる背広のおっさん。「……分からん!」我々の気持ちを代弁するかのように鬼塚が呟いて出番はおしまい。 クレジット表記はあるが(その他大勢組だが真ん中キープでちょっといい位置)台詞は一切ない超高速出番。しかし意味が分からないなりにもハッと気になる存在感を醸し出していてお得でもある。 *一瞬だけ皆の注目を集める猛ダッシュ労働青年(黒ハットが東野さん) *6年後のTV版では、丹波さんが演じたチンピラ兄貴・森本役をゲットした模様。恋敵に左手をフォークで刺される森本、こっちも6年間で培ったワル演技で目だってそうだ。
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2009,06,10, Wednesday
『黄金奉行』(1958年・S33)
冒頭から本編の10分の1くらいの時間をかけて悠長に逃走していたにも関わらず結局江戸で殺されてしまった隠密は、とある金山を探索中だった。松平伊豆守(高田稔)は大岡越前(嵐寛寿郎)に、金山で密かに小判を作って幕府転覆の資金にしようとしている金山奉行・大久保内記(富田仲次郎)の身辺捜査を依頼。かくして越前は、南町同心の池田大助(天知茂)、伊豆守配下の隠密・お照(魚住純子)らと共に大久保のテリトリーに潜入、悪の一掃に乗り出すのだった! *大岡越前の腹心の部下で、名前を冠したスピンオフ小説もあるくらい有名な池田大助役。流しの芸人に扮して御座敷で小粋な唄を披露したり(2度。ただ残念なことに高い確率で別人の吹き替えか)、短筒片手に乱闘したりと大活躍なのだが、この大岡さまは天狗の血が入っているだけに(?)変装に恋に殺陣、どれをとってもワンマンショー状態なので、大助クンは懐刀というよりは体裁の良いパシリ仕様に見えなくもなかった。ただ、それでも子供の時からのアラカン・フリークの天っちゃん(とウスイ家の皆さん)には幸せだったに違いない。 *薬屋の忠兵衛だと言い張る大岡さまと、大久保に言い寄られているところを救われてから彼にぞっこんの芸者・小梅さん(宇治みさ子=ヒロイン)との痴話喧嘩状態の間に「まあまあまあ」とべらんめえ調で文字通り画面の真ん中に割って入るあたりに大物感が。お固い役人とくだけた旅芸人の演じ分けなどはこの頃からほぼ完成していたようだ。 *ヒロインが宇治みさ子さんだけに、隠密のお照さん(魚住純子)の影が薄かったのがもったいない。斬られながら大久保の印籠を大助に投げる健気な最期のシーン、スチールでは抱きよせてもらって絶命、という構図だったにも関わらず、仕事(大岡さま)命の大助クンは印籠受け取ったら速攻で自分だけ逃げのびようとしていたのがちと残念だった。 *たぶんこれが神山左門さまなら、金山に潜入した岡っ引きの役も嬉々として自分でやっちゃうんだろうなあ。 *アラカンさんの右腕、しかも正義の味方役なので『稲妻奉行』みたいにDVD化されてほしいところだが、映画自体が少々間延びしていて面白味に欠けるのがネックか?
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2009,05,22, Friday
『女真珠王の復讐』(1956年・S31)
同僚・木崎(宇津井健)との結婚を間近に控えた香川夏岐(=なつえ:前田通子)は、専務・浅沼(藤田進)のお供で渡米することになった。しかし木崎は社長殺しと1500万強奪の罪で逮捕され、共犯を疑われた夏岐に、親切ごかした浅沼が襲いかかる。すべては浅沼と彼の手下、野口(丹波哲郎)が仕組んだ謀略だった。浅沼の魔手から逃れようとして海に落ちる夏岐。バストも露わに流れついた孤島には、難破したカツオ釣り漁船の乗組員5名がいた。 漂着して1年ものあいだ島で暮らしていた男盛りの乗組員たちは、久々に見る女性(しかも豊満ボディー)に目が血走る一方。「バ、バナナは精がつくだ」「タロイモは盛り盛りくるだよ」と勧めながら自分たちがムラムラきてしまった船長(芝田新)以下3名が夏岐の寝込みを襲おうとする中、良識ある年長者の石塚(沢井三郎)と、彼の娘婿(予定)の山内雄三(華奢で少年っぽい天知茂25歳)だけは仲間を敵に回して彼女を守ってくれるのだった。 だがある日、石塚と雄三の隙をついて(というより悠長に沖でぽちゃぽちゃやっていたせいで)夏岐は再び3人に襲われる。ところが男たちは仲間割れを始めてしまい、残った1人も駆け付けた雄三と揉み合う内に崖から転落した。優しいんだか天然なんだか分からない夏岐が海に飛び込み彼を探そうとしたところ、あたりが真珠貝の宝庫であることを発見。かくして2年後、生き残った善人たちはざっくざくの真珠を金に換え、浅沼一味に復讐するために帰国する。 女真珠王・ヘレン南と名を変えて石塚や雄三と凱旋帰国した夏岐は、今や社長と専務に収まっている浅沼と野口に圧力を掛け始めたが、死刑を求刑されていた愛しの木崎が脱獄、夏岐も野口に正体を暴かれる。強欲で口の軽い野口を取り込み浅沼に証拠を突き付ける夏岐。彼の反撃でピンチに陥った彼女を救ったのは木崎だった。嫌疑を晴らして固く抱き合う恋人同士を、雄三たちは温かい目で見守った。 *初の“いい人キャラ”での大役。女性を襲う藤田進さん、ってのも珍しいと思ったが、孤島でギラつく壮年男たちの中で唯一の清純派。まあ、可愛い婚約者のアキちゃん(遠山幸子)が日本で待ってる、いってみれば波平さんと一緒に流れついたマスオさん状態なので悪いことはできなかったのだろうが、「僕はただ、あなた(=夏岐さん)と同じように不正を許せないんです」なんて台詞を邪気のかけらもない真摯な顔つきで言っちゃう役柄にびっくりだ。ワルぶらなくて良い分、見た目も相当に可愛らしいので、キミは孤島で1年間大丈夫だったのかと貞操を案じたくもなった(余計なお世話) *クレジットの最後のほうで後の奥様・森悠子さんの名前が。水泳部で国体出場経験があるという悠子さん、どうやら前田通子さんが華麗なダイブで海へ潜って真珠採ったりするシーンのスタントをこなしていた可能性が高い。初のヌード女優を担いだ(お姫様抱っこじゃなかったのが残念だが、当時のあの折れそうな体型では無理だろう)初の男優が旦那なら、初のヌード女優のスタントは奥さま、ということになるのかもしれない。だから孤島で前田さんにアタックしなくても事足りていたのか天っちゃん!(これも余計なお世話) *今回もいかにもな役柄だった丹波さんとの身長差。もっとあるのかと思っていた(暴言)…それにしても、立ち方や着こなしにまだまだ改善の余地がある25歳である。
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2009,04,01, Wednesday
『火線地帯』(1961年・S36)
競馬場で梶川組の上前をはねていた伸一(吉田輝雄)と健次(鳴門洋二)はヤーさん達に追われ、逃げきれた、と思った瞬間、先程サクラのような行為で売上に貢献(?)した、水玉リボンを巻いた黒いハットと黒シャツがイカす“黒の男”(←予告編より)・黒岩(天知茂)に呼び止められて分け前を要求され、もっとでっけえ勝負をしろよとお前が言うかな諭され方をする。 そんな折、ナイスカーに乗ったナイスバディー・ゆみ(三原葉子)と知り合い意気投合したふたりは、彼女のパトロン、重宗(田崎潤)の子分になった。最初の仕事は、梶川組が落札した100丁のハジキを強奪すること。腕自慢の伸一がブツを運ぶ車のタイヤを撃とうとした時、なぜか車はパンクして急停止、伸一たちはなんの苦労なくブツを手に入れた。しかし、パンクさせた張本人で一部始終を目撃していた黒岩(=自分の商品をちゃっかり取り返すつもりだったハジキのバイヤー)は当てが外れて憤慨、梶川組の存在をちらつかせながら重宗に談判する。 一方、重宗の子分・中本(成瀬昌彦)は、伸一と健次が梶川と共謀して裏切ったと決め付け、ふたりを狙った。追われる原因を作った男ながら、黒岩と組むことになった伸一は、南米で牧場主になるという(黒岩の)夢の実現に向けてハジキを取り戻そうとするのだが、弟分の健次が中本に捕まってしまう。重宗の後釜を密かに狙う中本はボス殺しを要求、さらにはホの字のゆみに、重宗を誘いだすよう圧力を掛ける。伸一を愛し始めていたゆみは「みんな殺されちゃえばいいのよ!」と梶川組に電話を掛け、重宗たちと梶川(大友純)の共倒れを願った。 割に合わない、と乗り気ではない黒岩だったが、ゆみのために突っ走った伸一に付き添い取引場所へ。かくして巻き起こる銃撃戦の後、ゆみが凶弾に倒れ、重宗らは梶川組に皆殺しにされた。そして乗るはずの南米行の貨物船は、無情にも出港してしまう。黒岩にとってはやはり割に合わなかった最後の仕事――しかし、健次の妹で最初から伸一命の幸子(佐々木孝子)には、嬉しい結末だったようだ――。 *仕草と服装がこれ以上ないくらいキマっている黒岩、ねっ転がっておでこにグラスを乗っけていてもカッコ良さに満ち溢れていた。残念なことにセリフ回しだけはどうにも軽すぎてトホホな具合なのだが、それに目を塞げば(耳を、か)、弟分のバックアップに回りながらその実自分が一番おいしいとこどりしている天っちゃんの颯爽たる姿が拝める作品である。
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2009,02,20, Friday
『坊ぼん罷り通る』(1958年・S33)
化粧品会社を営む父の旧友、大友(由利徹)を訪ねて東京へやってきた大阪の坊ぼん・水島光一(高島忠夫)が、持ち前の傍若無人な坊ぼん気質で恋に仕事に歌にとハッスルする青春映画。 光一の機転で売り出された新製品・シロクナールの人気はうなぎ上りだが、何者かによって大量に横流しされ安価で出回っていることが判明した。腰が低くて実直な倉庫主任の田村さん(写真)は知らないと言うのだが、どうやら最近、増田という怪しい男(天知茂)と羽振りよく遊んでいる姿が頻繁に目に付く販売課長の佐々木(並木一路)が怪しい。 佐々木の脅しに屈せずに調べを進めた光一は、たまたま田村さんの留守中に机に入っていた老眼鏡を掛けてみて、それが伊達メガネであることを発見。そして帳簿を見て確信する。田村さんと佐々木はグルだ! 「おい水島、おめえのガン付けしたとおりよ」 詰問された田村さんはガラッと態度を変え、おもむろに口髭を取り、眉を取り、カツラを外す。そこにいたのはなんと増田。乱闘の末、ナイフや銃を持ってる連中を素手でノックアウトした光一は会社を救い、社長令嬢のみゆきさん(高倉みゆき)とゴールインするのだった(という部分はどうでもいい)。 *あまりに地味な登場シーン(写真)と極上の爺さん演技にまんまと騙された。見た目の風格はともかくセリフ回しがまだ軽い増田より、田村さんの喋くりの方が自然に思えたくらいだ。 *子分たちから“おやっさん”と呼ばれ、おねーちゃんたちを従えてワルの貫禄十分な増田だが、自分で変装して横流しを指示しているマメさがいかにもで微笑ましい。 *いけてる(?)増田の画像集: ・おねーちゃんにネクタイ直してもらってる図 ・バレそうで焦る佐々木の小物ぶりを鼻であしらう図 ・「俺はね、涙もろいんだぜぇ?」椅子に逆向きに座り、泣きの入った佐々木を眺める図 ・ワルですと言わんばかりの顔でピストルを構える図 (おまけ)この身長差で殴り合っておりました
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2008,11,18, Tuesday
『毒蛇のお蘭』(1958年・S33)
京都の料亭「菊水」の一人娘・志乃(小畑絹子)は、掏られた密書入り財布を届けた縁で勤皇の志士・安川(中村竜三郎)とほんのり良い仲に。だが江戸へ行かねばならぬ安川と涙で別れた夜、料亭が新撰組に急襲され両親惨殺。奉公人のお梅(山下明子)と二人で安川を頼って江戸(もう東京)へ向かったはいいが、箱根山中で親切ごかして近づいてきた口元と髪型が胡散臭い色男・ざんぎり源次(天知茂)の毒牙にかかり、お梅は馬車で輪姦、志乃は源次に青姦され隠れ家に連れ去られてしまう。 オレは蛇のような女が好きだから、こいつの体に毒蛇を彫ってくれ、との源次の命を受けた彫辰(沢井三郎)によって、背中一面に“源次の情婦”としての烙印を余儀なくされる志乃。だが泣く泣くそれを承諾した途端、スリ、美人局、賭場荒しなどなど、どこぞのスイッチが入ってしまったかのように「毒蛇のお蘭」として悪事に手を染めてゆく。 警察に追われ、源次と離れ離れになった後も、かつて騙した大館(林寛)の囲い者になり若い書生をたぶらかすなど毒婦ぶりに拍車がかかっていたお蘭は、書生をそそのかして主人と相討ちさせ、金庫の中身をごっそり頂戴しようとしたところでふたたび源次(こちらもちゃっかり後家さんをたぶらかしジゴロ状態)と再会。冷血爬虫類同士で意気投合、大館が保管していた銀座の宝石商のご落胤の証拠品を武器に大金をせしめようと画策する。しかし源次がお蘭とよりを戻した事に激しく嫉妬した後家のお信(若杉嘉津子)が「うらめしや伊右衛門どの〜」と(違)土壇場ですべてを暴露、とうとう源次とお蘭は大乱闘の末、逮捕された。そして取り調べにきた警察署長は、なんとあの愛しの安川だった…。 *可憐な京娘から魔性の姐御に変貌する小畑さんを愉しむ作品。彫辰さんの刺青が凄かったからかもしれないが、よっぽど源次の調教が効いたとみえる。 *いわば色悪版ヒギンズ教授な源次。初めはお蘭に対してクールな態度を崩さなかったものの、思っていた以上の変貌を遂げた彼女に驚き、クライマックスでは「お前だけでも逃げろ!」と命綱の拳銃を手渡してしまったあたりに敗因をみた。生脚をちらつかせて一生懸命抗っていたが、やっぱりあのあと死刑になっちゃうんだろうなあ。
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2008,11,07, Friday
『女間諜(スパイ)暁の挑戦』(1959年・S34)
なかなかの美男子ゆえに特務機関「むらさき機関」に配属され、“岸井隆”の変名で中国でスパイ活動をすることになった元陸軍中隊長(天知茂)。重慶側のスパイと目される京劇スター林晃彩(リン・コウサイ:三原葉子)に接触を図り、彼らの組織を一網打尽にするのが彼の任務である。「いいな、女におぼれてはイカンぞ!」出発前にそう忠告され、北京で直属上司の“三津井雪”(高倉みゆき)から具体的な指示を仰いだ岸井はここでも「晃彩におぼれてはいけません!」ときつくダメ出しされる。 晃彩に近づいた岸井はすぐさま彼女と仲良くなるが、憲兵の怒りを煽って逮捕された。岸井にああ言いながら自分が彼におぼれかけている雪は上司の大佐(竜崎一郎)に即時釈放を願い出るが、これも作戦の一つだと却下される。事実、激しい拷問(バケツの水ぶっかけとか、半逆さ吊りでビシバシとか)を10日ほど受けた後で部屋に転がり込んできた岸井の姿に晃彩は胸キュン、二人の親密度は急上昇。中隊長時代を知る部下に出くわす小ピンチもあれど、思惑通りに進んでいることに岸井は不遜にニヤつくのだった。 京劇の研究会に出かけるからお部屋で待っててネ、と鍵を託して外出した晃彩を追った岸井は、彼女がアジトで日本人参謀の暗殺計画に加担している姿を目撃。急ぎ雪に連絡を入れるも相手はなかなか出てくれず、そうこうするうちに晃彩が帰ってしまい、やむなく電話を切り部屋へダッシュで戻った。ところが岸井が通報しなかったせいで参謀は殺されてしまった。あいつ(=岸井)は役に立たんと言う大佐に雪は必死に彼を弁護、私はキミを信じてるから、と再チャンスを与える。そんな二人の密会を、重慶側のスパイ・謝天成(江見俊太郎)がじっと見つめていた。 再びアジトで、大将を列車もろとも爆破する計画を盗み聞きする岸井。アジトの場所を雪に知らせた彼だったが、晃彩からもらったライターをうっかり落としたおかげで謝の疑惑を決定的なものにしてしまう。憲兵たちを引き連れた雪がアジトへ駆け付けるともぬけの殻、おまけに時限爆弾がセットされていて、多数の死傷者が出た。すべては岸井が晃彩の色気に迷って裏切ったせいとされ、雪は彼を殺せと命じられた。 だが岸井に(一方的に)ゾッコンな雪には彼が殺せない。逃がそうとしてくれた彼女に、ボクを信じてくれているなら、大将が列車に乗る時刻を教えてほしいと頼む。岸井はその情報をネタに、自ら敵の懐に飛び込む策を打ち明けた。必ず助けに行くから待っていてほしい、雪は自分のペンダントを託し、彼が重慶側スパイたちに連行されるのを見送った。 岸井のネタに食いついたスパイ一味は、雪たちによってほぼ全滅。だが隠れ家に逃げ帰った謝は岸井を射殺しようとし、それを庇った晃彩が死亡。雪が駆け付けたときには岸井もまた銃弾に倒れていた。「雪さんすまない、ボクは晃彩を…」と呟き絶命した岸井の手を、雪はそっと、傍らに倒れている晃彩の手の上に重ねてやるのだった…。 *……で「完」にはならず、スパイをやめて日本へ帰国する雪が思い出のペンダント(ロケット仕様だからもしかしたら岸井の写真でも入ってたかもしれない)を海へ投げ捨てるシーンでエンドマーク。やはり主役は「女間諜=雪さん」だったらしい。 *特務機関の若き切り札・色仕掛け要員の岸井クン。葉子ねえさんとはむちゅーむちゅーとキスしまくってるし、高倉さんには(『東支那海の女傑』同様、やはり苗字を呼び捨てにされていたが)ひたすら可愛がられてるし、天っちゃん実に役得。特に上官である雪さんの恋心を知ってか知らずか「雪さんは、ボクを信じてくれているんですか…」などとかすれ声で俯き加減に囁いちゃったりするあたりの妙な色気に往年の年上キラーぶりを垣間見た(高倉さんは年下なんだけども) *ただ、最初の方、晃彩をたらし込み、彼女の見ていないところでニヤリと笑う顔がいかにも悪人面なので、ラストの純愛展開が唐突に思えなくもなかった。今までこっちのほうが本職(?)だったから仕方ないか。
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2008,09,07, Sunday
『のんき裁判』(1955年・S30)
悩殺罪だとかハート窃盗罪だとかで新東宝のスタアたち(高島忠夫、小林桂樹、丹下キヨ子、森繁久弥etc)が続々と実名で法廷に担ぎ出され、裁判長(藤田進&大河内伝次郎)や検事(田崎潤、田中春男、堺駿二)、弁護士(笠置シヅ子、曉テル子、坊屋三郎)たちと喧々ゴウゴウたる騒ぎを巻き起こす、新東宝8周年を記念してのオールスター映画。 撮影が忙しくて出廷できないという若山富三郎さんたちを訪ねて「移動裁判」としゃれこんだのんき裁判所の面々は、時代劇(次郎長シリーズ)のセットでスタアと喋ったり自分が出演したり(←大河内さん)やりたい放題。ちゃっかり大立ち回りまでやってのけた大河内さんに監督(三浦光子)と助監督(江川宇礼雄)はカンカン。(本来の役者の)鳥羽陽之助くんはどこだ、呼んで来い!って話になって、三浦さんがコワいんで女優さんたちと歓談していた鳥羽さんを「鳥羽さあん、出ですよぉ。あんたがいないんでみんな大騒ぎですよぉ〜」と弱り顔(と声)で呼びにきたのが助監督(クレジットでは一応役名はそうなっていた)の天知茂クンだった(こんな感じ)。 高島さんはもてもてスタア役、久保菜穂子さんはニューフェースに憧れる藤田裁判長の娘、宇津井健さんは撮影所でムーディーな場面の真っ最中と、同期の面々はけっこういいシーンをもらっていて、そんな中ではちょっと寂しい出番ではあったが、裏方さんもまずまず似合っていた。 *gooでは助監督=和田孝さんとなっているが、和田さんは出てなかった気がするなあ。あと、三原葉子ねえさんがどこにいたかが分からなかったのが残念(舞妓さんのシーン?) *スタアが実名で隠し芸大会(?)を繰り広げる大映の『スタジオはてんやわんや』(1957年)も面白かったが、こちらもみんなすごく楽しそうで、現場の良い雰囲気が漂っていた。大河内さんの横でボケてツッコんでコケてる田中春男さんのキャラがいい!
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2008,08,28, Thursday
『初笑い寛永御前試合』(1953年・S43)
綺麗どころと踊り三昧の家光公は、ご意見番の大久保彦左(古川ロッパ)に諌められ、免許皆伝のツワモノたちを募って御前試合を催すことに。 免許がないがズル賢さは人一倍ある穴沢玄達(益田キートン)は、試合に勝って生駒一心斉(江川宇礼雄)の道場と一人娘・弥生(光岡早苗)をゲットするために策略を巡らせ、小柄勝負で一心斉の右手を使えなくしたほか、上京してきた侍・竹内直人(森川信)の免許状をスリの勘八(堺駿二)に狙わせた。 ところが竹内の免許状は、ひょんなことから一心斉の愛弟子・布袋市兵衛(花菱アチャコ)の手に。人の難儀を放っておけない市兵衛は竹内捜しに奔走、それを追う玄達一味やら竹内と訳アリの女スリ・お浜(藤間紫)、そして勘八の母(清川虹子)などが入り乱れ、むちゃくちゃでござりまするがな〜な展開が幕を開ける…! 一心太助がマイク持って宣伝カーに乗ってたり、ジンギスカンVS猿飛佐助なんていう試合があったり、時代考証そっちのけのストーリー展開に脱力(でも面白い)。 ところで柳生役で出ているらしい天っちゃんだが、確かにクレジットのほぼ最後あたりに名前が出てきたものの(こちら)、試合のジャッジ・柳生飛騨守(こちら)はどう見ても別人だ。それではと目を凝らしてみたところ、応援団の中にそれらしい姿を発見した(ほとんど同じショットだが、とりあえず3枚: その1・その2・その3)。 しかし、クレジットされてて出番がコレだけというのも解せないのでもう一度見直してみると、どうやら冒頭で「殿、大久保様がおみえになりました」と告げに来る家来がそうなのではないかという気がしてきた(その1・その2)。顔はほとんど分からないが、ちょっぴり胡散臭げな鼻にかかった声がそれらしいなあと。 どちらにせよ、まだまだ仕出しクンなのであった。
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2008,08,04, Monday
『南郷次郎探偵帳 影なき殺人者』(1961年・S36)
麻薬王・神崎(晴海勇三)が出所直後に殺害された。「先生早く来て下さい。私も殺される…!」弁護を担当していた青年弁護士・南郷次郎(天知茂)は、彼の情婦・東野文江(吉田昌代)からの切羽詰まった電話を受けてホテルへ直行するが、時すでに遅く、文江は冷たい躯となっていた。 彼女の遺した切符とヤクの原料がどっさり入っていた黒い鞄(カラ?)を持ってロマンスカーに乗る南郷。隣りに乗り込んできて鞄を交換した怪しい青年(文江の弟:鳴門洋二)はタクシーの男(=麻薬王をバラした沖竜次)に襲われ、「芦ノ湖でボートに乗って」と告げた謎のグラサン女性(宮田文子)の言に従った南郷は、暴走モーターボート(運転は沖竜次)に手漕ぎボートをひっくり返され大ピンチ。その窮地を救ってくれた女性(三原葉子)と実にムーディーな関係(チークダンス有)になりかけるが、彼女は名前も告げぬまま去ってしまった。 文江の勤め先のバーに出向いた南郷は、自分をハメたグラサン女がマダムだと知り問い詰めたところ、背後から(沖竜次に)殴られ、マダムと下っ端の殺人犯に仕立て上げられた。それでもマダムの黒革の手帳をこっそり拝借、事務所に戻るとそこも荒らされ、秘書の金丸京子(水原ユカ)が転がされていたのだが、卑劣な相手に憤ると同時に、俄然ファイトを燃やすのだった。 捜査一課の板チョウさんこと板津部長刑事(坂本武)と仲がよいとはいえ一応コロシの参考人で足止めを食らった南郷は、手帳にあった“女性にしか金を貸さない”「宝城寺商会」を京子に探らせる。まだ少女っぽさが残るが物怖じしない京子ちゃんは、借金の代償として下着を新しくして来いだのというクラブへ向かい、そこで手袋の男(沖竜次)から会員証を渡され小部屋へ案内されかける。それが死んだ青年が持っていたのと同じ会員証だったことから急ぎ南郷に連絡を入れる京子ちゃん。駆け付けた南郷は、手袋男がシメシメとほくそ笑んでいるのも知らず、代わりに麻薬取引と売春が横行する秘密クラブへと潜入した(下着を新しくしたのかは不明)。 鍵付きの小部屋には、なんと芦ノ湖の女性――宝城寺竜子が。偶然の再会の驚く南郷。これ以上関わらないで、と心底彼の身を案じているらしい竜子(またまたムード全開)。だが彼女の足止め策も空しく、後を追いかけた南郷の車は追突され崖から真っ逆さま。にもかかわらず左腕を折った程度で済んだ彼は、竜子と死んだ東野姉弟の故郷へと向かった。 そこで竜子に会った南郷が浜辺でいちゃついているのをじっと眺める双眼鏡の男、彼こそが、一連の麻薬事件の黒幕代議士・本田(細川俊夫)である。本田に恩義があるらしい竜子は、ほとぼりが冷めるまで香港に潜伏しろとの彼の命令に素直に従おうとするが、変装した板チョウさんにより阻止され逃亡、本田の別荘に潜んだところへ、南郷が訪ねてきて心が揺らぐ(またいちゃいちゃ再開)。 拳銃を持った本田に脅されピンチに陥る二人だったが、南郷の機転と板チョウさんの登場で、汚れ仕事を一手に引き受けていた沖竜次(役名は地味に佐藤)ともども黒幕は無事捕縛。板チョウさんの粋な計らいで竜子と二人きりの時間を持った南郷は、罪を悔いる竜子とまたまた熱い抱擁を交わすのだった。 *シリーズ化を見越して作られたにも関わらず新東宝倒産により潰えてしまった(2作目の撮影に取り掛かっていたとかいなかったとか)、珍しく爽やか系の天っちゃん主演映画。彼が主演、それだけで例によって話の筋はどうでもよくなってしまうのだが、事件が(というよりワル担当の沖竜次が)ノンストップで押し寄せてきて飽きさせない作りになっていた。 *ヒロインは、こちらも珍しく影のある女性を演じている三原葉子ねえさん。天っちゃんとはとにかく会うたびにキスドールかあんたらは、ってなくらいにいちゃいちゃしてくれるカップルだ。 *まだ南郷先生のロマンス対象ではない(けれど憎からず思っている)秘書の京子ちゃんの朗らかなキャラもいい感じ。
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