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影法師 寛永寺坂の血闘/龍虎相搏つ
『影法師 寛永寺坂の血闘/龍虎相搏つ』(1949年・S24)
*続編「龍虎相搏つ」の公開は1950年

幕府の御金蔵が破られ、蔵番の宇津木が切り殺された。同僚の仙波龍之介(阪東妻三郎)は、ほのかに思いを寄せていた宇津木の妻・千賀(入江たか子)のためにもと下手人探しに奔走する。やがて市中に出回るニセ小判。すべては幕府を牛耳る柳沢一派の命を受けた小山田鉄心(山村聡)が浪人たちを集めて仕組んだことであった。

その小山田一味の中に、仙波そっくりの影法師・天堂左近(阪東二役)がいた。横笛と黒猫を友として悠然と構え、小山田のやり口に不満を漏らす根っからの悪党ではない天堂に、仲間のお夏(山田五十鈴)は恋心を抱いている。

やがて敵味方として相対する仙波と天堂。ふたりの決着、そして恋のゆくえは…? はたして柳沢一味の野望は潰えるのか?

*ワイズ出版「天知茂」で薫兄さんと勲兄さんの記憶が食い違っている「『御用!』の仕出しで水をかぶって肺炎に」エピソードの作品名、公開時期から撮影時期を推測すると、7月の「四谷怪談」(勲兄さん説)よりも、吐く息が白かった薫兄さん説の本作品ではないかと思われる。実際、続編「龍虎相搏つ」のクライマックスで、雨の中の「御用!」シーンがあるのだが、兄さんたちが言うように、暗くて顔なんかとても分からなかった。ただ、人がわんさかあふれている日中のお江戸の町が随所に映るので、そこを探せばいるのかも。

バンツマさんを兄のように慕う鶴田浩二さんがいたり、山田五十鈴さんの帯を「あ~れ~」とくるくるほどく山村聡さんがいたりする映画で、どこにいるのかすら分からないノボル君18歳。彼らと堂々と渡り合えるようになる2~30年後を考えるとこれもまた感慨深い。

*(2009.11.8追記)1983年放送のトーク番組「素敵なこの人」によれば、肺炎に罹ったのは「夏の暑い時期でね」とのことだった。ということは、こちらではなく7月公開の「四谷怪談」の方なのかもしれない。

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| 映画::清水次郎長 | 11:07 PM | comments (x) | trackback (x) |
『海よ俺ら(おいら)の歌に泣け』
『海よ俺ら(おいら)の歌に泣け』(1961年・S36)

(TCC試写室にて鑑賞)

シャイだが歌が滅法うまいフェリー乗りのアキオ(白根一男)はみんなの人気者。あるとき歌手が夜逃げした楽団の代理を頼まれてショーに出演、コーディネーターのキヨハラ(小松方正)の強い勧めで歌手への道を進むことになる。

頑固な父親の反対を押し切って楽団メンバーについていったアキオだが、売れないドサ回りが続くばかりで一向に芽が出ない。そんなある日、海にむかってタイトル曲をまるでマイクがあるかのように歌っている彼の歌声を、大手音楽プロの部長が耳にするものの、ひとあし違いで会えずじまいに。

やっと東京に出て、親切なママと娘のマリ(万里昌代)のいるバーの2階に住み込むメンバー。アキオファンのマリが新人歌手のオーディションの話を持ってくるが、海の前でないとアガるらしいアキオの出来は散々、しかも審査に加わっていた件の部長がちょうど彼の番のときに席を立っていたというイタタなすれ違いもあって、当然のごとく落ちてしまった。

キヨハラの母が危篤になったり、出演予定だったショーでごたごたが起きたりで、とうとうメンバーたちは流しで日銭を稼ぐ生活に。郷里の知人に会ってしまったアキオは自分の今の境遇に打ちひしがれ、ひとりで歩いているところをチンピラ(泉田洋志さんら)に絡まれ、殴り合いの喧嘩になる。その喧嘩を高見の見物としゃれこんでいたこじゃれたスーツの男(特別出演:天知茂)がやおらアキオの助太刀をかってでると、カッコいいんだか悪いんだか見てるこっちが恥ずかしいんだかで正視しづらい殴り合いをしばらく続けて敵を撃退。

アキオの歌を店で聞き、すっかり惚れ込んだらしい彼、「俺の友達のキャバレーで歌ってみないか」とアキオを誘ってくれた。…のはいいが、キャバレーでは新しく楽団を入れたばかりで空きはなかった。仕方ない、でも夢を諦めるなよ――そう言って肩をぐっと掴んで励ましてくれた男の言葉に少しは慰められ(たかどうかは不明だが)下宿に戻ったアキオを、マリが待っていた。なんと、あのすれ違い部長がとうとうアキオを探し当ててくれたのだ。

部長のおかげで大きな歌謡大会に出場することになったアキオとメンバー。観客の中には、わざわざ来てくれた父親や家族、そしてマリがいた――。

*とにかく情報のない作品だけに、いったいどこに出てくるのかと(フェリーの船長か?逃げた楽団の歌手か?ドサ回り先の興行主か?オーディションの面子か?等等)ワクワクしながら見ていたら、親切な通りすがりとして颯爽と登場。でも実質なんの役にも立ってないほんとに通りすがりだったのがさすが特別出演というべきか。無垢なアキオに親切ごかして近づき、なにやら怪しいところへ売り飛ばす男、とかだったら面白かったのだが(笑顔は胡散くさかったんだけどなあ←何を期待しているのか)。ともあれ、あれこれ想像しながら楽しく見られたのは良かった。

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| 映画::新東宝 | 10:55 PM | comments (x) | trackback (x) |
『叛乱』
『叛乱』(1954年・S29)

ニ・ニ六事件の顛末を、首謀した青年将校たちの熱情やその弊害などを絡めて描いた渋い作品。

クーデターを声高に叫ぶ栗原中尉(小笠原弘)たちとは違い、任された兵たちのことを思い逡巡しまくった安藤大尉(細川俊夫)。だがいったん決意してからは誰よりもやる気マンマン、事件後、叛乱軍として討伐されることになり、撤退する将校も増えてきた中でもひとりで気を吐いていたのだが、とうとう自分の兵たちの解放を決意する……というラスト近くで登場するのがおそらくノンクレジットの天知茂。

占拠した山王ホテルの庭で、撤退を告げる安藤の言葉を聞く兵士たち。一番手前になにやら日本人離れした鼻筋の兄さんがいる。アップになると微妙に別人っぽく見えたりもするのだが(相対的にふっくらしているせいか?)、涙を流しながら歌う彼らの声を背に部屋に入り、ピストル片手に自殺を図ろうとして仲間に止められた安藤に「中隊長どの、死なないで下さい!」と真っ先に必死に訴える右端の人物はどうもそうらしかった。

公開は1954年1月。主演デビューはおろか、まだ虫も喰ってない頃(『潜水艦ろ号未だ浮上せず』参照)だけに微々たる出番が辛いが、それもあと数か月の我慢だ天っちゃん!

*『ろ号』といい『トラン・ブーラン』といい、同期の小笠原弘さんがスパークしていた年でもある。しかしこの作品であれだけ目立っていたにも関わらず、goo映画などではクレジットが完全に抜け落ちているのは謎。

*鶴田浩二さんがいたり新国劇の両巨頭がいたり、出演者がかなり豪華。しかも監督は、途中交代したとはいえ佐分利信!(←実はけっこう好き)

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| 映画::新東宝 | 10:52 PM | comments (x) | trackback (x) |
『静かなり暁の戦場』
『静かなり暁の戦場』(1959年・S34)

「アジアをアジア人の手に」をスローガンにマレー半島を進む日本軍。英語が話せる国井中尉(本編では「少尉」と呼ばれていたような気がする:天知茂)は、捕虜となったインド人将校の尋問にあたることになった。仏典を大事そうに携帯した、軍医だというそのぽっちゃり将校・パトナイク中尉(S・プラカーシ・ガンディ)の信仰心とインド独立への固い意志を察した国井は彼を上官の暴力から護り、さらに彼を追ってしゃしゃり出てきたフィアンセのカムラ(エリーズ・リヒター)の存在も黙認してやるなどして、“友人”のスタンスでインド人捕虜たちと接する。

本隊は前進することになり、国井は一人、数十名の捕虜たちの監視役に回された。彼らの歌う独立を願う歌に胸打たれたロマンチスト国井は、友情の証として自らの大事な軍刀をパトナイクに預けた。パトナイクとカムラもまた、この隙に逃げ出そうぜ、と画策する者たちを説得、国井の信頼に応えた。

そんな折、橋の修理を任されて捕虜たちと汗を流す国井。だがパトナイクは、日本軍の戦車が通り、再び同胞たちの血が流れるかもしれないその橋の完成を修理にも行かずに(って、一応医者だから待機して)鬱々と見守っていた。あなたらしくないわ、インド独立のために前向きになってと励ましてくれるカムラと熱いチュウを交わした瞬間、指令部の上官が国井と帰還。何やっとるんだー!と至極まっとうに激怒した上官は、こんな状況でも2人をとりなそうとする国井もろともパトナイクをぶん殴って去る。「どこの国にも悪い人はいるものです」お前が言うかな台詞をぬけぬけと吐くパトナイク、その言葉にウルウルきてサンキュー言っちゃう国井、二人の絆は(見る側のツッコミをよそに)ますます深くなるのだった。

そうこうしているうちに英国軍との戦いは激しさを増し、親友の須賀(杉山弘太郎)率いる偵察隊など二隊が続いて全滅してしまった。次はお前が行って来いと部隊長に命じられた国井は、勝算ゼロにも関わらず捕虜たちに別れを告げて出撃を決意。ところがパトナイクが、敵軍にいるインド兵の説得をかって出た。部隊長は、残りの捕虜たちを人質にすることを条件に彼の提案を承諾、パトナイクは数名の志願者と、またしてもしゃしゃり出たカムラを連れて英国軍のトーチカへと向かう。

案の定といおうか、トーチカに近づいただけで蜂の巣にされかけて倒れるパトナイクとカムラ。待てど暮らせど彼らからの連絡はなく、国井は捕虜たちと先頭に立たされてトーチカへと前進することに。しかし、夜明けの戦場の静けさを破ったのは美しいインドの調べ。パトナイクの説得で投降したインド兵たちの輪の中で、国井は喜びをかみしめるのだった。

*インドと日本の架け橋となるべく、英語を駆使して奮闘する生真面目な将校役。主役のうえに芸術祭参加作品、おそらく天っちゃん的には同年の『東海道四谷怪談』以上に頑張ったのではないかと思われるが、そんな彼の一生懸命さに比べると、パトナイクがどうにもあっさり気味で、およそ戦地とは思えない雰囲気を醸し出していたのが気になった。緊張感のないぽっちゃり体型には目をつぶるとしても、もうちょっと苦悩を顔に出せよパトナイク! 戦場で女性とべたべたいちゃついてる場合じゃないだろパトナイク!(カムラもうろちょろすんなよと言いたい)。

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| 映画::新東宝 | 10:50 PM | comments (x) | trackback (x) |
『黒と赤の花びら』
『黒と赤の花びら』(1962年・S37)

(TCC試写室にて鑑賞)

悪質な船の保険金詐欺を捜査中に遭難、死亡したとされる同僚・西条(安井昌二)の死の謎を追う、海上保険調査員の田代雄二(かなりの痩身だが髪型はイケてる天知茂30歳)。五百円で何でもオーケーと請け負うOKの松(大友純)から、真相を知っているらしい男・百瀬の所在を聞き出すが、部屋に入ると男は死んでおり、不審な先客がいた。彼女・笹本アキ子(上月左知子)は西条のフィアンセ。西条の死が信じられないアキ子もまた百瀬を訪ねてきたのだが、そのときには死んでいたらしい。慌てて部屋を出る二人だが、西条の形見のシガレットケースを落としたアキ子のためにもう一度戻ると死体は忽然と消えていて、なんと翌日、離れた場所で轢死体となって発見された。

OKの松が次に教えてくれたのは、百瀬に貸しがあったというスタジオ経営者の花田(丹波哲郎)なる人物。のらりくらりとはぐらかす花田、そして花田のスタジオにいたモデル(扇町京子)が接近してきたものの、ヤク中の彼女は何か話す前に田代の目の前で殺されてしまった。そんな折、田代はとあるクラブ(その名も「宇宙人」)で、西条が乗船していた船の航海長、冒頭でいかにも悪い奴然とした行動に出ていた蛭間(細川俊夫)に遭遇する。面と向かって鋭く核心をついた田代は蛭間の手下たちに襲撃されるが、間一髪でかわした。

田代はアキ子と共に花田の事務所に忍び込み、彼の恐喝の事実を掴む。そこへ飛び込んでくる弾丸と、花田を心配する電話。どうやら花田は何者かに狙われているらしい。田代が恐喝された教授の代わりに取引場所(駐車場)に出向くと、花田ではなく「宇宙人」で怪しい踊りをくねくねと披露していたダンサー(その名も「ガガーリン」:三原葉子)が現れる。そこでタイミングよく運ばれてきた新聞には、花田らしき男の溺死体があがったと出ていた。驚く二人。実は花田の実の妹・まさみだったガガーリンは協力しそうな顔をしながらも田代をとある場所に連れ込み、ある会社の名前だけ告げると彼を監禁して逃亡する。

そのころ、当のその会社にはアキ子が潜入していた。不審な挙動にでた彼女は蛭間の手に落ち海上へ。その船の船長は死んだはずの西条だった。学歴詐称して調査員になったという負い目が高じ、ミイラ取りがミイラになってしまったという西条に愕然とするアキ子。さらに彼の傍にはガガーリン=まさみの姿が。アキ子を襲った蛭間ともみ合い彼を撃った西条。とそこへ、(展開上微妙にタイミングが遅かった気もしないでもないが)セーターの毛糸をほどき、腕時計を窓から垂らして子供に見つけてもらう、という少年探偵団レベルの脱出劇を披露した田代が颯爽と現れた。一緒に戻ろうと西条を説得する田代だが、蛭間の放った銃声で鳴り響くサイレンを聞いた西条はもはやこれまでと、ガガーリン=まさみの手をとって海の藻屑と消えた。

すべてが終わった埠頭にて。残されたアキ子は本当に形見となったシガレットケースを海に投げ入れると、ふっきるように歩き始めた。そんな彼女の肩にそっと手を当て、田代もまた埠頭(と映画)を後にする――。

*新東宝亡き後に作られた「大宝」配給作品。助監督だった山際永三さんのお話によれば、当時の上映館は全国で10あまりしかなかったとのことで、新聞の縮刷版でも1963年の10月と12月にTBSでTV放映されているのが確認できた以外は情報がなく、でもワイズ出版の天っちゃん本ではやたらとかっこいいスチールが多く収録されていてずっと気になっていた幻の映画をありがたく鑑賞させていただいた。出だしが笑っちゃうほど悠長で、こんな調子で真相なんて暴けるのかと心配したものの、田代と一緒に驚いたり反芻したりしているうちにいつのまにかクライマックス。でも正直、出番は多いけどいなくても(アキ子さんだけが真相を捜し求める話にしても)よかった役だよなあ、と思ったりもして。やっぱガガーリンは田代とくっついてくれないとつまらないなあ(そこか)。

*原題は「海の罠」だったものの、これじゃあ地味すぎるからってことで、当時はやってた歌「黒い花びら」(by水原弘。天っちゃんも好きだったらしい←「五十年の光芒」で読んだ気が)あたりから拝借したらしい。余計意味がわからなくなってる気がするが、妙な勢いだけは感じる。

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| 映画::新東宝 | 10:44 PM | comments (x) | trackback (x) |
『たそがれ酒場』
『たそがれ酒場』(1955年・S30)

戦争後に絵筆を折った画家、辛い事件をきっかけに落ちぶれた老ピアニスト、訳あり過去を隠して踊るストリッパー……大衆酒場で繰り広げられる、さまざまな人間模様を酒場のセットだけでじっくり見せてくれる佳作。さすが鐘の鳴っている頃の新東宝は良い作品が多い。

軍隊が懐かしい鬼塚(東野英治郎)が軟弱そうな大学ゼミ生とその先生らしきお気楽集団に文句を垂れる開始28〜9分ごろ、突如玄関から猛ダッシュで画面手前まで走ってくる青年(天知茂)の姿。「聞け万国の労働者〜♪」と外で労働組合のストか何かをやっているようだったから、その関係者かもしれないが、アリスの兎並みに焦りながら階下へひょいと飛び降りた青年。その後ろから追いかけてくる背広のおっさん。「……分からん!」我々の気持ちを代弁するかのように鬼塚が呟いて出番はおしまい。

クレジット表記はあるが(その他大勢組だが真ん中キープでちょっといい位置)台詞は一切ない超高速出番。しかし意味が分からないなりにもハッと気になる存在感を醸し出していてお得でもある。

一瞬だけ皆の注目を集める猛ダッシュ労働青年(黒ハットが東野さん)

*6年後のTV版では、丹波さんが演じたチンピラ兄貴・森本役をゲットした模様。恋敵に左手をフォークで刺される森本、こっちも6年間で培ったワル演技で目だってそうだ。

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| 映画::新東宝 | 10:43 PM | comments (x) | trackback (x) |
『東京博徒』
『東京博徒』(1967年・S42)

浅草は浅草寺。べらんめえ調で威勢の良い声を張り上げるテキヤの綾吉(田宮二郎)は一匹狼ながら町の人気者。シマを仕切る花笠組とのいざこざも単身でカタをつける男気に、古着屋のおやっさんの姪・島子(藤村志保)はゾッコン、ふたりはいつしか恋仲に。だがおなじ時期に島子に一目ぼれしていた花笠組の大幹部・志村(天知茂)は当然それが面白くない。綾吉のせいで競馬の払戻金のちょろまかしがバレ、意外と律儀なボス(=志村)にどつかれてもっと面白くない子分の高木が綾吉を執拗に襲う一方、志村は博打好きのおやっさんの借金を膨らませ、「島子を差し出せば帳消しにしてやる」と持ちかける。姪より店が大事なおやっさんは島子を売るが、彼女は家出。店を組にとられたおやっさんは店に放火、挙句のはてに自殺してしまった。

花笠組の追及を逃れて大阪に潜伏していた綾吉は放火の件を知り浅草に舞い戻り、おやっさんの死に直面する。そして知人に匿われていた島子と無事再会するが、花笠組に島子を奪われ、意地に凝り固まった志村との対決を強いられた。サシで決闘するふたり。だが高木に脇腹を刺されピンチになった綾吉に縋りつく島子を見た途端、熱が冷めたように志村は背中を向けるのだった。

*和服も洋服も常にパリっと上物をキメて、全うな極道稼業(?)に精を出しているらしい大幹部の志村(でも組長じゃないので中間管理職どまりか)。金と権力に物をいわせて女を奪おうとする嫌味な役、のはずなのだが、とにかくこの時期の天っちゃんの外見がイイ男すぎるのか、はたまた新東宝時代なら十八番だった蛇のような狡猾さは八重歯と一緒に置いてきたのか、敵役というには人間が出来すぎていて、作品に不思議な中途半端さを添えていた。志村はもっと悪くなくちゃあ、綾吉の立つ瀬がないだろう!そもそも島子にそれほど執着してる風でもなかったし(新東宝の彼ならとっくに押し倒してピンクのライトだ)。しょぼくれ@犬シリーズしかり日草@夜の勲章しかり、どうも天っちゃんは田宮さんと接するときは彼より一回り余裕のある演技で受けるようで(年下相手だからか?)、いつもはそれでとてもいいコンビなのだが、今回に限っては主旨がちょっとずれてしまった気がする。

*舞台は浅草だが、「ひらかたパークでロケがあり、父親が出演していました」というメッセージ紹介があった。大映京都の作品だし、綾吉と島子がデートしてたのは花やしきじゃなくてひらパーだったようである。


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| 映画::大映with田宮二郎 | 11:48 PM | comments (x) | trackback (x) |
『黄金奉行』
『黄金奉行』(1958年・S33)

冒頭から本編の10分の1くらいの時間をかけて悠長に逃走していたにも関わらず結局江戸で殺されてしまった隠密は、とある金山を探索中だった。松平伊豆守(高田稔)は大岡越前(嵐寛寿郎)に、金山で密かに小判を作って幕府転覆の資金にしようとしている金山奉行・大久保内記(富田仲次郎)の身辺捜査を依頼。かくして越前は、南町同心の池田大助(天知茂)、伊豆守配下の隠密・お照(魚住純子)らと共に大久保のテリトリーに潜入、悪の一掃に乗り出すのだった!

*大岡越前の腹心の部下で、名前を冠したスピンオフ小説もあるくらい有名な池田大助役。流しの芸人に扮して御座敷で小粋な唄を披露したり(2度。ただ残念なことに高い確率で別人の吹き替えか)、短筒片手に乱闘したりと大活躍なのだが、この大岡さまは天狗の血が入っているだけに(?)変装に恋に殺陣、どれをとってもワンマンショー状態なので、大助クンは懐刀というよりは体裁の良いパシリ仕様に見えなくもなかった。ただ、それでも子供の時からのアラカン・フリークの天っちゃん(とウスイ家の皆さん)には幸せだったに違いない。

*薬屋の忠兵衛だと言い張る大岡さまと、大久保に言い寄られているところを救われてから彼にぞっこんの芸者・小梅さん(宇治みさ子=ヒロイン)との痴話喧嘩状態の間に「まあまあまあ」とべらんめえ調で文字通り画面の真ん中に割って入るあたりに大物感が。お固い役人とくだけた旅芸人の演じ分けなどはこの頃からほぼ完成していたようだ。

*ヒロインが宇治みさ子さんだけに、隠密のお照さん(魚住純子)の影が薄かったのがもったいない。斬られながら大久保の印籠を大助に投げる健気な最期のシーン、スチールでは抱きよせてもらって絶命、という構図だったにも関わらず、仕事(大岡さま)命の大助クンは印籠受け取ったら速攻で自分だけ逃げのびようとしていたのがちと残念だった。

*たぶんこれが神山左門さまなら、金山に潜入した岡っ引きの役も嬉々として自分でやっちゃうんだろうなあ。

*アラカンさんの右腕、しかも正義の味方役なので『稲妻奉行』みたいにDVD化されてほしいところだが、映画自体が少々間延びしていて面白味に欠けるのがネックか?

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| 映画::新東宝 | 10:42 PM | comments (x) | trackback (x) |
『女真珠王の復讐』
『女真珠王の復讐』(1956年・S31)

同僚・木崎(宇津井健)との結婚を間近に控えた香川夏岐(=なつえ:前田通子)は、専務・浅沼(藤田進)のお供で渡米することになった。しかし木崎は社長殺しと1500万強奪の罪で逮捕され、共犯を疑われた夏岐に、親切ごかした浅沼が襲いかかる。すべては浅沼と彼の手下、野口(丹波哲郎)が仕組んだ謀略だった。浅沼の魔手から逃れようとして海に落ちる夏岐。バストも露わに流れついた孤島には、難破したカツオ釣り漁船の乗組員5名がいた。

漂着して1年ものあいだ島で暮らしていた男盛りの乗組員たちは、久々に見る女性(しかも豊満ボディー)に目が血走る一方。「バ、バナナは精がつくだ」「タロイモは盛り盛りくるだよ」と勧めながら自分たちがムラムラきてしまった船長(芝田新)以下3名が夏岐の寝込みを襲おうとする中、良識ある年長者の石塚(沢井三郎)と、彼の娘婿(予定)の山内雄三華奢で少年っぽい天知茂25歳)だけは仲間を敵に回して彼女を守ってくれるのだった。

だがある日、石塚と雄三の隙をついて(というより悠長に沖でぽちゃぽちゃやっていたせいで)夏岐は再び3人に襲われる。ところが男たちは仲間割れを始めてしまい、残った1人も駆け付けた雄三と揉み合う内に崖から転落した。優しいんだか天然なんだか分からない夏岐が海に飛び込み彼を探そうとしたところ、あたりが真珠貝の宝庫であることを発見。かくして2年後、生き残った善人たちはざっくざくの真珠を金に換え、浅沼一味に復讐するために帰国する。

女真珠王・ヘレン南と名を変えて石塚や雄三と凱旋帰国した夏岐は、今や社長と専務に収まっている浅沼と野口に圧力を掛け始めたが、死刑を求刑されていた愛しの木崎が脱獄、夏岐も野口に正体を暴かれる。強欲で口の軽い野口を取り込み浅沼に証拠を突き付ける夏岐。彼の反撃でピンチに陥った彼女を救ったのは木崎だった。嫌疑を晴らして固く抱き合う恋人同士を、雄三たちは温かい目で見守った。

*初の“いい人キャラ”での大役。女性を襲う藤田進さん、ってのも珍しいと思ったが、孤島でギラつく壮年男たちの中で唯一の清純派。まあ、可愛い婚約者のアキちゃん(遠山幸子)が日本で待ってる、いってみれば波平さんと一緒に流れついたマスオさん状態なので悪いことはできなかったのだろうが、「僕はただ、あなた(=夏岐さん)と同じように不正を許せないんです」なんて台詞を邪気のかけらもない真摯な顔つきで言っちゃう役柄にびっくりだ。ワルぶらなくて良い分、見た目も相当に可愛らしいので、キミは孤島で1年間大丈夫だったのかと貞操を案じたくもなった(余計なお世話)

*クレジットの最後のほうで後の奥様・森悠子さんの名前が。水泳部で国体出場経験があるという悠子さん、どうやら前田通子さんが華麗なダイブで海へ潜って真珠採ったりするシーンのスタントをこなしていた可能性が高い。初のヌード女優を担いだ(お姫様抱っこじゃなかったのが残念だが、当時のあの折れそうな体型では無理だろう)初の男優が旦那なら、初のヌード女優のスタントは奥さま、ということになるのかもしれない。だから孤島で前田さんにアタックしなくても事足りていたのか天っちゃん!(これも余計なお世話)

*今回もいかにもな役柄だった丹波さんとの身長差。もっとあるのかと思っていた(暴言)…それにしても、立ち方や着こなしにまだまだ改善の余地がある25歳である。

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| 映画::新東宝 | 10:41 PM | comments (x) | trackback (x) |
『火線地帯』
『火線地帯』(1961年・S36)

競馬場で梶川組の上前をはねていた伸一(吉田輝雄)と健次(鳴門洋二)はヤーさん達に追われ、逃げきれた、と思った瞬間、先程サクラのような行為で売上に貢献(?)した、水玉リボンを巻いた黒いハットと黒シャツがイカす“黒の男”(←予告編より)・黒岩(天知茂)に呼び止められて分け前を要求され、もっとでっけえ勝負をしろよとお前が言うかな諭され方をする。

そんな折、ナイスカーに乗ったナイスバディー・ゆみ(三原葉子)と知り合い意気投合したふたりは、彼女のパトロン、重宗(田崎潤)の子分になった。最初の仕事は、梶川組が落札した100丁のハジキを強奪すること。腕自慢の伸一がブツを運ぶ車のタイヤを撃とうとした時、なぜか車はパンクして急停止、伸一たちはなんの苦労なくブツを手に入れた。しかし、パンクさせた張本人で一部始終を目撃していた黒岩(=自分の商品をちゃっかり取り返すつもりだったハジキのバイヤー)は当てが外れて憤慨、梶川組の存在をちらつかせながら重宗に談判する。

一方、重宗の子分・中本(成瀬昌彦)は、伸一と健次が梶川と共謀して裏切ったと決め付け、ふたりを狙った。追われる原因を作った男ながら、黒岩と組むことになった伸一は、南米で牧場主になるという(黒岩の)夢の実現に向けてハジキを取り戻そうとするのだが、弟分の健次が中本に捕まってしまう。重宗の後釜を密かに狙う中本はボス殺しを要求、さらにはホの字のゆみに、重宗を誘いだすよう圧力を掛ける。伸一を愛し始めていたゆみは「みんな殺されちゃえばいいのよ!」と梶川組に電話を掛け、重宗たちと梶川(大友純)の共倒れを願った。

割に合わない、と乗り気ではない黒岩だったが、ゆみのために突っ走った伸一に付き添い取引場所へ。かくして巻き起こる銃撃戦の後、ゆみが凶弾に倒れ、重宗らは梶川組に皆殺しにされた。そして乗るはずの南米行の貨物船は、無情にも出港してしまう。黒岩にとってはやはり割に合わなかった最後の仕事――しかし、健次の妹で最初から伸一命の幸子(佐々木孝子)には、嬉しい結末だったようだ――。

*仕草と服装がこれ以上ないくらいキマっている黒岩、ねっ転がっておでこにグラスを乗っけていてもカッコ良さに満ち溢れていた。残念なことにセリフ回しだけはどうにも軽すぎてトホホな具合なのだが、それに目を塞げば(耳を、か)、弟分のバックアップに回りながらその実自分が一番おいしいとこどりしている天っちゃんの颯爽たる姿が拝める作品である。

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| 映画::新東宝 | 10:40 PM | comments (x) | trackback (x) |
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