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『狼男とサムライ』
『狼男とサムライ』(1984年・S59)

狼男とサムライ1


製作時の金銭問題のゴタゴタでストレスが溜まった故に寿命を縮めたのではとさえ噂されている問題の遺作映画(日本未公開)を、ようやく鑑賞。

時は16世紀。何世代も続く呪わしい運命に苦悩する狼男・バルデマル(ポール・ナッチィ)を救えるただひとりの賢人として世界に名が知られている医者・貴庵(=きあん)が天知茂。彼だけを頼りに遠くジパングまで来たバルデマルを、貴庵は果たして救えるのか・・・?

ものすごくB級かつトホホなものを想像していたら、案外、いやむしろ天っちゃん的にはかなり見どころが多かった。新東宝時代からそうだが、天知茂という人はたとえどんな役であろうと大真面目に取り組み、あくまで限られた状況の中で最大限に自分を生かそうとする。「オレがオレが」の唯我独尊になる一歩手前できちんと枠に収まる、その職人芸がここでも堪能できた。

医者風、というより佐々木小次郎風のりりしい若サマ鬘で、アップになるとソフトフォーカスがかかって美しさに拍車がかかる(←笑ってはいけない)、医者としては正直いって頼りないが剣の腕はすこぶる立つ貴庵さん。詳しいあらすじは下記サイトの的を得たレビューにお任せすることにして、見どころシーンを列挙してみると:

*素顔で睨み勝ち*
夜の京都で殺戮の限りを尽くしていたバルデマル(満月で狼男に変身中)と初顔合わせのシーン。口から血を滴らせ、野獣と化したバル氏と睨みあう貴庵さん。やがてすごすごと引き下がったのは、狼男の方だった。そりゃこんな目つきでにらまれたら怖いわな。ちなみにバル氏は別の場面で虎と闘い勝っていたので、虎<狼男<天知茂という強弱関係が成り立っているのがよおく分かった。

*温泉でどっきり*
町の人殺しまくりのバル氏に、まあここはひとつ温泉にでもと呑気に勧めて自分もちゃっかり入ってる貴庵さんに、刺客(くの一その他)が襲い掛かる。ここは素面のバル氏&かいがいしく世話をしている貴庵の妹・茜の二人を襲うのがスジではないのか? と疑問が沸くが、くの一たちにだって好みがあるんだろう。お腹にサラシを巻いた褌姿(いわゆる六尺褌というやつでせうか)で際どい立ち回りを披露する白い素肌の美女・・・もとい貴庵さんには、正直クラクラだ。

*きあんは 銀の刀を てにいれた!*
調合した薬が効かないため、バル氏の病を治すことをあっさり諦めた切り替えの早い貴庵さん、古文書に載っていた「狼男をやっつける方法(=彼を愛する者が銀の刀で胸を貫く)」に基づき、銀の刀探しに化け物屋敷へ白馬に乗ってお出かけ(キラキラのまさに佐々木小次郎ルックで)。襲いくるゾンビやら悪霊やらアマゾネスやら土蜘蛛やらを「なんでこんなバケモノたちと俺が」なんて怨み言(←想像)は微塵も顔に出さず、華麗な殺陣でざっくり打ち倒してゆくさまは、もはや贔屓目でしか物が言えないが実に見事で美しい。ただ、カメラが一定の位置に据えられているらしく、アクションが嵩じてくるとすぐに後ろ向きのアングルになってしまうことが多くて、なるほどこれで天っちゃんがキレたのかもしれないと思った(「Memoirs of a Wolfman」参照)。

その他、足場の悪い河原での一騎打ちやら切腹の介錯人やら、やたらめったら目立っているうちにクライマックス。銀の刀は私が使います、と志願する妹を制止し、「私にはこの銀の刀と強い精神力があるから大丈夫だ」と、白地に南無妙法蓮華経の江戸の牙スタイルで最後の対決に臨む貴庵さん。さっき読んだ古文書の内容をちゃんと理解してるのかどうか疑問である。

もっとも、あわや!というところで現れてくれた茜さんがバルデマルを刀で貫き(それがスジだろう)、討たれたバル氏はとても穏やかな顔であの世へ旅立った。しかし、バルの爪で肩を裂かれてた貴庵さん(狼男に傷つけられたら呪いが移るとかいってなかったか?)、どうやらバルの子を身籠ったらしく、お腹を押さえて妖しげな表情で満月をみつめる茜さん(呪い継承?)の兄妹にこれから何が起こるのかを想像するとうっすらホラーな終わり方といえた。まあ、「狼男のサムライ」なんていう続編が作られなかったのは幸いだろう。

意外と楽しめたものの、フィルムの完成を待たずして天っちゃんが急逝したせいで、貴庵の声が別人の吹き替えなことだけが残念だ。といっても、声を当てているのは彼を良く知る弟子の宮口二朗さん(ゾル大佐@仮面ライダー)なので雰囲気は合っているのだが、あの顔にはやはり、あの押し殺したような低音ボイスでなくちゃ物足りない。

追記:歌は唄っていなかった。それじゃ「映画のために作った歌」@「Memoirs of a Wolfman」というのは一体・・・。

*もしかして、「ふたりづれ」(「江戸の牙」のエンディング)かなにかを唄って、その説明で「牙」とか言ったからナッチィ氏サイドが勝手に狼男を連想したのか?

*(2007.1.28追記: 「完全版」あり。そこではがっちり唄ってます

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『女帝』
『女帝』(1983年・S58:にっかつ)

当時世間を騒がせていた三越事件の再現ドラマで、七越百貨店の営業部長から社長に上り詰める山田(大木実)と、愛人の"女帝"・みき(黛ジュン)の栄光と挫折がロマンポルノ風に描かれていた。

前から目をつけていた老舗和菓子屋の女社長・桂子(新藤恵美)に泣きつかれてこれ幸いな山田氏が、和菓子屋の得意先である名古屋の百貨店社長に談判しにいく場面で登場するのが、百貨店に融資している中部銀行頭取・杉浦康義(天知茂)だ。

天下の七越さんが間に入ってくださるならもう少し融資させていただきますよハッハッハと葉巻をスパスパ吸いながら(眉根の皺ナッシング)楽しげに座敷で山田氏らと語らっている杉浦頭取。なるほど今夜は徹底的に宴会ですかそうですか・・・って、出番それだけですか頭取! 大木氏や川地民夫氏(=山田氏の懐刀・青野)もなんだか嬉しそうにハアハアしてた(させてた)のに、どうせなら気兼ねせずに(って誰にだよ)やることやっちゃえよ!と怖いもの見たさでツッコンでいたのだが、お堅い職業ゆえ(?)か、傍系の話だからか、山田氏いわく「徹底的な宴会」が描かれることもなく、舞台は東京に移ってしまった。

しかし、その後のアハンウフンなところはがしがし早回ししていると、山田氏に捨てられ、今は青野とねんごろな桂子さんの「(山田氏の横暴ぶりを)杉浦頭取も見かねておられるわ」発言。うわあ、やはり真打はこれからだったのかーと喜んだのもつかの間、彼らと共に無言で車を降り、有力者の家の玄関をくぐるだけのシーンに登場しておひらき。アップにもならないのにソレと分かってしまうあたり私も成長したものだ(って、髪型とか歩き方とか、ちらっと顔みせたりするところが普通に目立ってはいたが)。

恐怖のカービン銃』で主演デビューしただけあって、こういうセミ・ドキュメンタリー系には食指が動いたのだろうか。はっきりいって出てこなくても筋にはなんら影響ない役だとは思うが、これも特別出演の醍醐味ということで。

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