2006,03,12, Sunday
『恐怖のカービン銃』(1954年・S29)は、タイムリーに世間を騒がせていたカービン銃ギャング事件の顛末を忠実に再現した映画で、主犯・大津を演じているのが23歳にして初主演の天知茂。
本編約46分の短さの上に淡々とドキュメンタリー・タッチで話が進行するので(しかも天っちゃんを含めて皆セリフ回しが軽いので)地味な印象は否めないが、特に逃亡生活に入る中盤あたりから、天っちゃんのただならぬオーラがむんむん漂ってくるのが見ものだった。 無防備に畳に大の字になりながら、欲におぼれた相棒たちに向ける虚無的な瞳。愛撫するかのようにカービン銃に優しく這わせる華奢な指。相棒に裏切られボコボコにされ、憤怒に燃え上がる形相。追い詰められるほど零れ落ちるこの妖しい色気は何なんだ。 共に逃避行する愛人・みさお役が、後にお色気路線で大活躍する三原葉子ねえさんなのだが、当時はまだ垢抜けないぽっちゃりさんなだけに、天っちゃんの艶っぽさの方にばかり目がいってしまった。意外に掘り出し物。 ・・・そして初主演作から3年後、天っちゃんは立派な色悪に成長していた。 『暁の非常線』(1957年・S32)での役柄は、表の顔は親分の娘(三ツ矢歌子)目当てに跡目を狙う若き幹部、裏の顔は皆殺しの銀行強盗と、どちらにしてもワルな馬島(まじま)政吉。楯突く者はガンガン消しまくり、保身のためなら子分であろうが情婦であろうが、はたまた好いていたはずの親分の娘であろうが容赦なく切り捨ててしまう、半端でない極悪非道ぶりには感動すら覚えた(小柄な体にぶかぶかの背広、相変わらず少し浮わついたセリフ回しには目をつぶるとして)。 悪事が警察にばれ、ギリギリまで追い詰められてからも笑っちゃうくらいしぶとく逃げる馬島。窮地に追い込まれれば追い込まれるほど醸し出される天っちゃん特有の色気がここでも健在だ。しかも追いかける側の人たち(『地獄』の沼田さん等)が精細と鋭さを欠いているので、そのまま頑張って逃げのびちゃえよ馬島!と密かに応援したくなった。 しかし悪は滅びるのがお約束。クライマックス(goo映画掲載のあらすじはちょっと違うんじゃなかろうか。足をケガしたのは自分でトラックから転げ降りたからだ。ちなみにこっちはどうでもいいが、クラブの名前も「マンダリン」ではなく「モナコ」)で、過去の亡霊に怯えてどうしようもない小物ぶりを露見させ、馬島は自滅する。情けない天知茂、というレアなものまで拝めてなかなか眼福。 親分の娘の周辺人物が集まってめでたしめでたし、なエンディングは、個人的には不要だと思った。馬島で始まったんだから馬島で終わってやんなきゃあ浮かばれないだろう(天っちゃんが)。 2作とも無駄なBGMが一切なく(もしかして予算の関係?)、緊張感に溢れていたのもまた良し。 追記:『暁の非常線』でも「お姫様だっこをする天っちゃん」発見。生涯で何度やったのか数えたくなるなあ。
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| 映画::新東宝 | 01:31 PM | comments (x) | trackback (x) | |