〈悪〉のエンターテイナーたちバラエティ : 1979(S54)5月号:48歳
「白昼の死角」のすべて
〈悪〉のエンターテイナーたち
天知茂・福永検事
人間には人並みじゃないことをやってみたいという願望がある。ドラマは人の出来ないことをやるから夢があるんだ。最近の日本映画がつまらないのは夢がないからだよ。そうさ、〈悪の夢〉だって十分に魅力的なんだよね。
◆昭和6年3月名古屋生まれ。ご存知TVの「非情のライセンス」等のハードボイルド・ヒーローで有名だが、過去、「東海道四谷怪談」「地平線がぎらぎらっ」の傑作に主演している。
実は高木さんの原作が出たとき、すぐ読んでね、ああ鶴岡を演ってみたいと思った。それから何年たったのかな、今は年からいって無理ということで、検事側にまわってしまった、残念だよ(笑)。僕は昔から宮本武蔵をやるなら佐々木小次郎の方が……といった癖があって、ピカレスク・ロマンものをどんどんやってみたかったんだな。アイラ・レヴィンの「死の接吻」とかね。日本には歌舞伎における“白波もの”のような伝統があるのに、日本映画は昔からこのジャンルをモノにするのがヘタで、企画の幅を徒に狭めていたんだ。ようやく、面白くユニークなものが生まれる地点を見つけたわけだ。成功させたいね。こういう悪党たちがスクリーンに跋扈するドラマをどんどん生むことによって、演技の水準もあがるんだ。悪にまわる方が、人間は多面的だし、難しいし、だから演りがいが出るんだ。
*原作は1959年〜60年に週刊スリラーにて連載されていたそうなので、その当時だったらさぞ色悪な主人公・鶴岡が演じられたろうにと思うと(なにしろ伊右衛門の頃である)まさしく残念だ。
*悪の多面性については一家言ある天っちゃん、ここでも持論をがしがし語っているが、今回の貴方は悪人サイドじゃなくて正義の番人なんですが(はなっから「悪のエンターテイナー」にカテゴライズされているあたりがなんともはや)。
(2007年11月20日)