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あまりに日本的な孤独の男週刊TVガイド : 1966(S41)3月11日号:35歳
今週の表紙
アクションシリーズ第二回
高城丈二 天知茂
あまりに日本的な孤独の男
川喜多和子

ジェームズ・ボンドやナポレオン・ソロの敵が悪によって世界征服を目ざしている者たちであるのにくらべ、日本のいわゆるサスペンス・メロと呼ばれているドラマの主人公は個人的な因果関係から生まれた敵と対決している。――からどうのこうのいうつもりではない。ただ因果関係というところが、非常に日本的であると思うのです。

「アスファルト・ジャングル」にしても「悪の紋章」にしても、また「悪魔のようなすてきな奴」にしても、みなこれは仇討ちの物語ではありませんか。自分自身の敵、あるいは親兄弟の敵に復讐すべく、昔でいえば仇討ち状をふところに白装束を身につけて波瀾万丈の旅に出るといったものが、現代社会を舞台に描かれているのです。

外国にだって、仇討ちの話はたくさんあります。「ハムレット」などものすごい復讐物語だし、イタリアのオペラなど、どれを聞いても、ベンデッタ(復讐)という言葉が聞えてくるみたいだ。しかし考えてみると、外国の現代の小説には個人的な復讐をテーマにしたものが、あまりないように思えます。「岩窟王」のような物語は十九世紀までの大時代のものであって今は見当たらない。だからといって今だにそのような話が続々と書かれている日本が時代遅れだというのではありません。ただ復讐の話はよほど日本人の性格に合っているというか、日本人はよほどそういう話が好きなのだと思うのです。

復讐を心に誓った男、つまり復讐物語の主人公は、とても孤独です。仕事として命令を受けながら動くのではなく、感情、すなわち相手に対する怒り、憎しみを自分の行動をささえる唯一のものとして、他人にとってはどうでもいいことに単独で挑むほど孤独なことはないでしょう。孤独なタフ・ガイ――天知茂や高城丈二の持ち味が、十分生かされる役柄だと思います。

日本人の好きな、いいかえれば日本的な物語の主人公は、日本人らしさを持っていなければなりません。天知茂と高城丈二が共通してもっている泥臭さは、その点彼らの演じる役にぴったりだといえましょう。泥臭い、といったのを悪い意味にとらないで下さい。バタ臭いという言葉の反対のつもりなのです。スマートだとかシックだとかいうことが、すべて西洋臭さを良しとし、日本的といえば歌舞伎の世界の延長みたいな古風なものを指す今日、泥臭さを持ち、泥臭さを表現する俳優さんがいることはいいことだと思うのです。
(筆者・映画評論家)

*表紙写真はこちら(『表紙を飾った天っちゃん』)。記事には銃を構えて背中合わせになっている天知&高城コンビの写真つき。

*当時大流行していた「0011ナポレオン・ソロ」の登場人物(ソロ&イリヤ)のスマートな洒落っ気(秀逸な吹き替えのお蔭も多分にあると思うが)に比べると、たしかに“泥臭い”という言葉が似あう二人。でも荒唐無稽な“悪の組織”を追っているよりも、復讐や私怨に燃えている主人公の方がリアルでいいんじゃなかろうか。

*ちなみに同号の「テレビ人気投票ベストテン」の番組部門で「悪の紋章」は第9位(1位が「ナポレオン・ソロ」で2位「逃亡者」)、男性タレント部門では、天っちゃんが8位、高城さんが13位にランク・インしていた(1位は坂本九、2位はデビッド・ジャンセン)。

(2007年2月16日:資料提供・naveraさま)
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