カアちゃん大いに語る/奥様からきいたタレント旦那の裏表
純代夫人「ムードニ弱イ、ワンマンネ」と語ること
「役者である自分とパパである自分とを、はっきり区別している。ですから、外づらは余り良くないって聞きますが、家ではテレビを見た娘の千景に“パパ、昨日、変なオバちゃんと仲良くしてたネ…”といわれてニヤニヤする良き夫です」
純代夫人が語る天知茂が臼井登という本名に戻った時の姿。
仕事には几帳面な反面、私生活はこれと打ってかわってたいへんなズボラさだそう。横のものは縦にもしない。下着、靴下、ハンケチといった身のまわり品は新しいものをドンドンおろして汚れたのは袋に突っ込んだまま。
無口で、無趣味でとり立ててこれといった癖もなければ特徴もない平凡な亭主ではあるが、犬好きとおしゃれだけは、誰一人知らぬ者はないくらいだということだ。
どんなに寝坊していても犬を寝床にほうり込んでやると、大きなギョロリとした目を細くして起き上がってくるそうだ。
「犬の方でもわかると見えて、パパを見るとどんな犬でも尾を振ってついて行く」
純代夫人はいささかあきれ顔でいう。
なかでも、驚かされるのは、犬の口をあけるのが上手なこと。見かける犬を片っ端からつかまえては口をあけ中をのぞき込む。
「歯を見るとゲンがいい、なんていってます」
この特技だけはどんな犬好きでも、そうやたらに出来る技ではないそうだ。こんなあんばいだから、1年半ほど前、愛犬のコロこと通称ポンちゃんが死んでから操を立てていまだに替わりを買おうといわないんだとのこと。
おしゃれもまた犬好き並み。チャコール・グレー、モス・グリーン、シルバー・グレーの洋服類はいうまでもなく、特製別あつらえの帽子だけでも30個は揃えているそうだ。
大阪では一時たいへんな流行ぶりだった“シャネル・ハット”は「虎の子作戦」(フジテレビ)で虎の子一家が愛用したためもあるが、この帽子をかぶることを提唱した天知のイカス恰好がうけたからという話だ。
純代夫人のことばによると天知にはもうひとつ見逃せない特徴がある。ムードに弱いセンチメンタリストなところ。
12年前、新東宝の第一期ニューフェイスとして同期だった夫人と結ばれたのも、
「仕事のこと、生活のことなどチョイチョイ相談したりしていたんですが、たまたま縁談を持ち込まれて困り、パパのところへ行くと、“そんなら、僕とどう”とプロポーズされたんです」
純代夫人は述懐する。それっきりなんにもいわず、はじめは冗談かと思ったが、いま考えてみるとそれも、なにかと相談に乗っている時のムードで察してくれ、といいたかったんじゃないかしら、と純代夫人は笑う。
影のあるドライな役が多い天知だが、こと実生活ではなんとなくはっきりしない。
めったに訪れることのない両親が来ても雑談はおろか、挨拶もそこそこ。たったひとこと「ヤァー」といった切り。
「日本映画でおもしろいのをやっているから、一緒に行ってらっしゃったら」
夫人が気を利かせても、
「僕は洋画がみたい…」
天知の返事だ。
家が手狭になったので、そろそろ転居をと相談をもちかけても浮かぬ顔つき。税務署の対策から家計のやりくりまで“お金”ということばは絶対“タブー”。
それでいて「そろそろ、コンテッサもあきたからクラウンに買い替えるよ」そういってサッサと乗りかえてしまうのだそうだ。
「なんでもストレートにいわれるのがきらいなんですネ。両親や家族のこと、あるいは家のことなど、私にないしょで結構、気にして心配したり、飛びまわっているんですが、それを口に出していわずに、お互いになんとなくムードで察し合おう、といった気持ちでいるらしいんです。ワンマンはワンマンですけど、そういった性格を逆に利用すれば、困ることもありません…」
とは純代夫人が12年目にして得た天知茂ならぬ臼井登操縦法ということだ。
*1964年はシリアス/コミカル、両方の演技で芸の幅を広げていたせいもあって、こういう微笑ましいエピソードが自然に出てくるのが嬉しい。それにしても明智センセイのわんこ激ナデ(ファッション劇場参照)はやっぱり素だったのか(「よおし、これだけ撫でたら次は口あけて覗き込んでも大丈夫かな」とか思ってたりして)
(2009年3月28日)