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タクシーなみの走りっぷりとよぺったあ 18号 : 1964(S39)9月1日号:33歳
私と車 天知茂(俳優)
タクシーなみの走りっぷり

このところ、映画、テレビ、舞台と仕事に恵まれて忙しい日々です。お蔭で僕の愛車、クラウンはタクシーなみに走りっぱなし。最初から実用一点張りでタクシー代わりに買ったわけですから、走らなくなったら困ります。車を買ったのは4年前。それまでは、もっぱらタクシーを利用していましたが、結婚後、ワイフが免許を持っていたので買うことに決めました。最初はヒルマンでしたが、どうも狭いんで大きいのにしようと、スタイルのいいクラウンにしたのです。

ところが、買った次の日、このクラウン、僕の顔をみて恐くなったのかキャブレターが故障。そのうち、顔はオッカナくても心は優しいことに気がついたのか、今では快調に走ってくれています。それにしても故障の時、トヨタのアフター・サービスがとってもよく有難かったものです。

今では車のない生活は考えられませんが、4年前までは、車に対する興味は全然なかったのです。結婚後、ワイフに教えられて免許を取ったのですが、免許証より先に車が到着、乗るわけにもいかず、ワイフが楽しそうにスイスイ運転する横で指をくわえているのは残念でした。やはり車は、自分で運転してこそ楽しいというものです。

免許をとって以来、無事故を誇っていたのですが、昨年大事故をやっちゃいました。

仕事の帰り、前日よりの寝不足でつい居眠りしたのです。本当に数秒の間だったのですが、ハッと気がついたら目の前に車が駐車していて、ハンドルを切る余裕もなく真正面へガシャーン。

幸いスピードを出していなかったので、ケガひとつせずに助かりました。スピードを出していたら無キズどころかとても命も危ないところだっただろうとゾーッとしました。

その事故以来、スピードはもちろん、安全運転をモットーにしています。ちょっとした油断が思わぬ事故を起こすというのは、仕事のほうでも同じですね。現在、新橋演舞場の8月公演で、長門勇氏と「道場破り」で共演中ですが、舞台はお客さんの反応が直接肌に感じられてすごく緊張します。演技中のちょっとしたミスもお客さんは許してくれませんから。仕事は、映画、テレビ、舞台と欲張っていますが、俳優として、3つの仕事を特別に意識したりしません。型にはまるのはいやなのです。もちろん、雰囲気や演技の点ではずいぶん違っています。それぞれのいい点を吸収するためにも、3つの仕事を平行して出来る限り続けていきたいと思っています。

*トヨタの社内報みたいな雑誌のエッセイ。「大事故」のことはワイズ出版の本にも書かれてあったが、のどかな大事故でよかった。

*(2009.4.5追記)1963年7月13日付読売新聞の記事によると、ぶつかったのは郵便局の前に停まっていた郵便輸送車。助手席に同乗していたのは当時の付け人・宮口二郎さん(まだ本名の頃)とのこと。事故が起きたのは午後2時50分、昼下がりの居眠り運転だったようだ。

(2008年4月8日)
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