立っているだけで絵になる男週刊大衆 : 1965(S40)12月9日号:34歳
ズバリこの人 突如参上
立っているだけで絵になる男
―『悪の紋章』で現代の悪に挑む天知茂―
*黒っぽい半コートを羽織り、タバコをくわえてあさっての方向を見ている、実に絵になる全身像の写真つき
◆天知茂に是非突如参上してくれ――という手紙が、読者の皆さんから多数寄せられていた。それも全部が、女性の方なのである。男に感じとれない何かを、彼は発散しているようだ。
◆「天知茂さんの眼に、男の色気を感じる」とかつて本欄で園まりが語ったことがある。あの大きな瞳と眉間にきざまれるシワが、トレード・マーク?というわけか。
◆立っているだけでムードを出す男――そんな風に思われる。テレビ・ドラマ『悪の紋章』ロケで九十九里浜にいた。砂浜に立っているだけでサマになる。
◆名古屋の出身である。昭和二十九年、新東宝のニュー・フェイス。この年、中日ドラゴンズが優勝したことが、彼の芸名につながっている。(*実際は昭和二十六年のニュー・フェース)
◆即ち、当時の中日監督が天知俊一。そしてフォーク・ボールの名投手が杉下茂というわけ。
◆この人の芝居は、わりとアップが多い。いきおい眼で演技することになるので、人よりまばたきをする回数が少ない。撮影が終わると目が充血するそうだ。
◆博打もダメなら酒も全然イケない。現代の悪に挑戦するドラマが多いこの人だが、素顔はいたって真面目。趣味も買い物と、意外におとなしい。
(一問一答)
――スターになれる顔、なれない顔があるって言いますけど、この言葉をどう受け取りますか。
(静かな、低い声がかえってくる)「ぼくはね、役者になれる、なれないっていうのは、根性だと思ってるんです。いわゆる“ヤッタルデエ”がないと駄目なんじゃないですか」(と言って、自分の引用した言葉にテレたのか、ニヤリと笑う。すぐ真面目な表情にもどって)「それでもって、途中で消えてゆくか、ものになるか決まるわけなんだから……」(言葉をついで)「もしスターになれる顔、なれない顔があるとしたら、そのポイントは眼ですね。スターになった多くの先輩諸氏の顔を見ても、みんないい眼をもってるでしょう」(そう言い終わったあとであの特徴のある大きな眼がギョロリと動いた)*貴方の眼もステキです
――米1キロの値段をご存知なりや。
(苦笑ぎみに)「いや、知りません。あのォ、一体にぼくは、ものの値段を知らないんです。直接自分で買う……たとえばタバコみたいなものは別として、そうじゃないものは……」
――“バク才”はある方ですか。
(首をふって)「これが全然駄目なんです。まったくないんですね」(ひとりごとみたいに)「まるでツかないんだなァ。勝負ごとはあまり好きじゃないんで、たまにウチで麻雀をやるくらいですが、勝ったことないんですよ。女房の方がうまいんです。麻雀でも競馬でも……。ぼくは黙って見てる方で……」
――現代の“悪”について。
(口元をギュッとひきしめる。瞳が光って)「社会悪と言うことですか。そりゃもう、いろいろとあるでしょうが、ぼくが最も憤懣やるかたないのは、汚職ですね。しかもこう……ずうっと追求していっても、いつも最後はしり切れとんぼに終わっちまう……なんて言うんでしょうか、悪い奴ほどよく眠る、って言うんですか、大物はいつだってつかまらないで、ノホホンとしてられる……このことが一番腹が立ちますね」
――18歳の若者が、盆栽いじりをしているのを見たら……。
(首をかしげて、困惑の表情。何と答えていいのかわからない、といったようにこちらを見つめていたが、ようやく)「さあてね、そんなに早くから、落ち着いちゃっていいもんですかねェ」(そのまま絶句)*こんな意味不明な質問にもちゃんと答えようとしているあたりが真面目だ
――女性ファンがものすごく魅かれるというあなたの眼の魅力について、一席ブッて下さい。
(テレて困ったように笑い出した。右手を頭にあてて)「いやあ……そういうふうに言われても……自分の眼っていうのは、そうしょっちゅう見てるわけじゃないんで……先天的なものについて言われても困りますね。ただ、芝居の上でね、ぼくはわりとアップが多いんで、結局、眼技って言うんですか、眼で演技をすることになるんですけども……その時はやっぱり意識しますね。それにぼくは、わりとアップ好きなんです。ただね、眼の芝居だと、普通の人より目ばたきする回数が少なくなるんですよ。だから朝から夜までの強行撮影の場合は、さすがに疲れて、眼が真ッ赤になっちゃいます」
――持病ありますか。
(すーっとうつむいた。ボソボソとした声で)「軽い喘息の気があるんです。だから冬場になると、ちょっと苦しくて……」
――1日に飲む酒の量。
(すぐさま)「酒、全然いけないんです。好きじゃないんですね……」
――財布に入ってる平均額は。
(ちょっと間をおいてから)「3万円ぐらいかな」(「酒も博打もやらなくて、一体何にお金を使うんです?」とチャチャを入れたら、笑い出して)「さあ、何に使ってるのかなァ……自分でもわからないんですよ。なんだかんだと買ってるようですね。とにかくぼくは買い物をはじめると大変なんですよ。見境なくいろんなものを買って買って買いまくるんだから……」
――最も孤独を感じる時。
(前方をじっと見つめて、真面目に考える。言葉を一つ一つ区切るように)「あのォ……例えば、バーなんかへ遊びに行ったとしますね、すると向こうがすごく意識して固くなったり、おすまししたりするんですね。それまでは、あちらの席でキャーキャー騒いでたんですよ。それがぼくのところへ来たとたん、変わっちゃうんです。ぼくだけが別あつかいになる……そんな時は、やはりぼく自身なんかこう……寂しくなりますね。普通の人と同じようにあつかってほしいんだけど……」
――赤い色での連想。
(じっくり考えてから)「爪ですね」(と答えた。ちょっと驚かされる。すぐ説明がつづいた)「これにはちょっとわけがあるんですよ。あのね」(と少しはにかみながら)「実は、こんどぼく、歌を吹き込むんですけども、その歌の題が『赤い爪』っていうんです。それで……」
――チリカゴの中をかきまわす癖ありや。
(ニコニコと)「そんな癖ありません。だってぼくは、チリカゴなんかに入れないんだもの……。いつもそのへんにほっぽり投げちゃって……いつも女房に怒られてますよ」*盆栽の質問もだが、このよく分からない質問には何か当時の流行があったのだろうか?
――日韓案件の衆議院強行可決について。
(顔がひきしまって)「だいたいぼくは政治家なんか大きらいでね。しかし、あんなことやられると、もちろん腹が立ちますよ、まったく大人のやることじゃないですね。最近の子供の方が、よほど秩序だっていますよ」
――女性に会った場合、最初に見る部分はどこですか。
(スッと)「唇ですね。それも、薄いのより厚ぼったい方がいいですね。もっとも、下手すると、しまらない唇になりますが……」(すると、女の色気もやはり唇に感じるわけですか?)「それもあります。でもぼくは、女に色気を感じるのは、そんな部分じゃなくて動きの中ですね。じっとしている時ではなくて立ったり坐ったりする立ち居振る舞いの中になんとも言えない色気を発散する女の人がいるでしょう」
――タバコを吸いはじめた年齢。
(ニヤリと笑って)「十八の時からです」(実感をこめて)「これがなかなかやめられなくってね。五社英雄さんが言ってましたけど、タバコをやめる方がいいのと、やめなくてもいいのとの差は、ほんのちょっとなんだそうです。五社さんはやめる方をとったんだけど、ちょっとの差ならぼくはやめなくてもいい方をとったんですけども……」 *で、結局ずうっとヘビースモーカー
――役者にならなかったら。
(相変わらず低い声で)「なれたかどうかは別として、絵かきになりたかったんです。小さいころはわりとうまかったんですよ。兄貴がうまかったもんで、その影響があったんでしょう。しかし大きくなるにつれて、だんだん下手になったんで、とうとう役者になっちゃんですけどね」
【写真キャプション】
役者は顔よりも根性ですよ(ちょっとお疲れ気味というか、たしかに役者は顔じゃないんだな、と思わせるような表情)
バク才なんてのは全然なし (眉毛下げて笑いながら手を振ってる)
政治家は大のキライでね (左手の人差し指をくわえて、ヘン!と威張ってるしょぼくれ刑事っぽい顔)
タバコは十八の時から吸っています(デミタスカップを片手に満面の笑み)
(2006年12月7日:資料提供・naveraさま)