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天知茂夏姿特別公演週刊サンケイ:1979(S54)9月13日号:48歳
プレー・ワゴン
楽しめる立体劇画
『天知茂夏姿特別公演』
作詞家 山口洋子


長谷川一夫、三波春夫をして、中年ご婦人方の永遠のアイドルであることに異論をとなえる方いらっしゃいますか。

ところがこの世界にも時代の波はヒタヒタと押しよせ、大スター嗜好から、各個性個別嗜好へとおばさまファン気質も移りかわり、わたしゃ橋幸夫がいい、いやわたしは五木ひろし、さては加藤剛の松平健のとかまびすしいなか、断然目立っているのは杉良太郎とこの天知茂のご両所である。

さて、久々に大阪は梅田コマ劇場雲霧仁左衛門を観劇する。芸能生活30周年記念とはいうものの、天知さんの若さには脱帽。もともとポップス体質のこの方は、舞台でマゲものをやっても“老い”を感じさせないのが絶対の強みである。

虚無僧になって出てこようと、覆面をして登場しようと、前列でパチパチと拍手がわくのは宝塚と同じで、連日通いつめている客がいるとみえる。

高田美和好演。小柄なからだから、父親ゆずりの一種の精気を発するようになった。

特筆すべきは我が友、カルーセル女史が因果小僧になっての大活躍で、彼女は何と男役をやっているのだよ。男の因果小僧が女に化けて周りをだまくらかしてゆくのは弁天小僧と同じ類だが、弁天はもともと女形がやるもの。男が女になってその女が男役をやってさらに女形になると――ええいもうめんどくさい、どっちでもええわいこのクソ暑いのに。

いなせできれいで可愛らしくて、遠慮会釈なくステージをはねまわっているところは、天知鮫によりそう金魚といった風情で、こいつばかりは煮ても焼いてもまあ食われへんわなあ。

いい意味で客も演ずる側もキバらずに楽に楽しめる立体劇画。

一方で行なわれている白熱ドキュメント、高校野球甲子園の大歓声とはうらはらにこと面白く進行して一時間半。

ああどんな時代になっても、女がいるかぎり、お好み焼きとあんみつと氷あずきだけは不滅なのであります。

[原作・池波正太郎 脚本・宮川一郎 演出・山本和夫]

*雲霧風ほっかむりのミニ写真つき。

*ポップス体質という言葉が非常にツボ。重厚な顔つきとは裏腹に、意外にフットワークが軽くて大衆ウケする雰囲気があったんだろう。・・・しかしあの杉サマとおばさまキラーの双璧をなしていたとは!(今ひとつ知名度というのがピンとこないのだが、相当すごかったんだろうなあ)

(2007年3月17日)
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