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気っぷのいい鬼吉兄ィ週刊漫画TIMES : 1964(S39)5月23日号:33歳
むしる・いんたびゅー No.11
むしられる人 天知茂
気っぷのいい鬼吉兄ィ

むしる人/大辻伺郎/池内淳子/土屋俊忠

天知茂■NET「廃虚の唇」フジ「次郎長三国志」関西TV「愛するゆえに」大映「賭場荒らし」等で大活躍■ニヒルな現代青年から、コミカルな役までと芸域は広い■新東宝からTVへ いち早く転向し成功した人。昭和6年生まれ

女嫌いで
女に
もてる
<俳優>大辻伺郎:フジTV“次郎長三国志”で共演するうち意気投合。鬼吉、綱五郎の兄弟仲は、私生活まで延長。

大辻:(関東の綱五郎の口調で)あっしにも、ちょっぴり、恨みがねえこともねえ。だいたい、あの鬼吉兄ィは、どうも、女にもて過ぎていけねえ。“女嫌いの女好かれ”っていうのでござんしょうかねえ…。とにかく、こうなんで…。あっしが、ある女にキスをしようと、ムードたっぷり…こうして、こうやって、いままさに…というとき、その女性は、こうぬかしやがるんでござんす。
「お兄さん、天知さんと、お友だちなんですってね」
あっしが有頂天になって、女と遊んでいる無邪気な光景を、想像してやっておくんなさい。そのあっしの帰りぎわに、女がポツンとひとこと“こんどは、天知さんもお連れになってね”と、こんなことばかりなんで(笑)
まったく兄ィは男性の敵……いや、そうじゃァねえ……こいつァ神様がいけねえんだ。よほど頭の悪い神様か、いじわるな神様がいて、あっしのようにいい男を……こんな、悲しい目に……ねえ、そうじゃござんせんか? そんな兄ィが好きなのは、たとえば……あっしの家に火事があったとしまさァね。そんなとき兄ィは“大変だったネ”とポツンとひとこというだけ……。“ミシンが焼けたか?”“貯金通帳は持って逃げたか?”なんて、そういう、くだらねえお慰みは、腹の上からふんずけたっていわねえ男……天候のあいさつも、なにもいわねえ、ぶっきらぼうな、まったく、はり倒したくなるような、実のある男でござんす。

わたしは
あのかたに
よろめきたい
<女優>池内淳子:新東宝の2期後輩。“四谷怪談”で共演した以外、仕事のつきあいはないが、友だちづきあいは長い。

池内:(美しい池内さんの目が、怪しげにキラキラッと輝いて)あのかた……ご立派ですわネ。
――(ドキッとして)どこが?
池内:愛妻家でしょ。それに、あのかた笑うとかわいい感じ。目がチャーミングなのネ。よろめきたくなるくらい……。(笑)でも、わたくし、いま、ひとりですから、よろめくとは、いえませんわネ。
――よろめく気はあるんですね?
池内:(眉がピクッと動いて)誤解されるといけませんから、断っておきますけど、なにもあのかただけに限りません。あのかたみたいに清潔で、男らしいかたなら……。
――こと天知さんに関しては?
池内:このへんで、奥さんをヤキモキさせたらどうかしら、と思います。お会いになったら、お伝えしておいてください。わたしみたいなものもおりますからって……。(笑)どうせ、あのかた信用しないにきまってますけど……。(笑)
――では、打ちあげに、ひとむしり……。
池内:やせているから、あんまりむしると目だけ残っちゃう。でも目だけ残っても魅力のあるかたよ。そうそう、それに、すごく足のきれいなかた……。
――(ドキンとして)えッ、どこでごらんになりました?
池内:あのかたほど、ズボンがすっきり、はきこなせると……。
――(ヤキモキして)もう、彼も年だから、あんまり、細いズボンは似合わないんじゃないかしら。
池内:そうそう、その年で思い出したけれど、あのかたちっとも年取らないかたね。(笑)きっと、20年経ってもあのままよ。口説いた女性が、戸籍謄本見てびっくりするんじゃない。

神様みたいな
ヤツで
むしれない
<TVカメラマン>土屋俊忠:“孤独の賭け”にかけた情熱で、TVフィルム技術賞受賞。名実ともに名コンビ。

土屋:(さかんに目をこすり)むしりようがねえな。弱ったな。(深呼吸して)ヤツの欠点……ズボラなことかな? 今年の2月ごろ、彼、京都から東京へ引っ越して来たんですがね。ことし、幼稚園にはいる子供さん連れてね。いよいよ幼稚園が始まるというころになって、おれントコにすっ飛んできて、あわてて頼みやがんの。「おい、おれの子供、幼稚園へ入れたいんだが、お前、どこかへ入れろ!」ってね。(笑)
――それはひどい。
土屋:ボクは幼稚園の先生じゃないって、いってやりましたが…。
――結局……。
土屋:ヤツの熱意、ヘンな熱意だけどもね。動かされて、なんとか無事に……。
――仕事のほうもズボラなの?
土屋:いや、そっちのほうは大変なファイター。(頭をかいて)むしりようがねえな。弱ったナ。この間も「廃虚の唇」というフィルムを回しに、伊東へロケに行ったんですよね。ほら、すごい崖があるでしょ。あそこへ飛びこむと、死体が上がらないというトコ。その崖を降りてくるシーンがあったんですがね。ヤツ、ぜったい、スタンド・インを使わないんです。俺がやらなきゃ、いいものが出来ないってんで……。さて、フィルムが回り始めた。こっちから見てると平気に見えるから、いい気なもんで「おーい、早くしろ」なんてどなってた。それがね、翌日、残したフィルムを回しにカメラを持って現場へ行って、崖からのぞいてみたんです。
――ぞっとした?
土屋:ぞっとなんてもんじゃない。死に神ににらまれたようなもの。ヤツが平気で降りていったのがふしぎなくらい。それ以来、ヤツが神様に見えるんですよ。

オレハ
ズボラデ
女性ニ弱イ
■天知茂

大辻クン! 頭ノ悪イ神サマガイテ、ボクニ、三枚目ノ役ヲアテガウモノダカラ、キミノ演技ガ光ッテクルノサ。キミニツイテル神サマハ、ホントハ、頭ノイイ神サマナンダヨ。綱! コレカラ、ムシッテキヤガルヤツハ、カマワネエカラタタッ斬レ!

× ×

池内サン! 弱ッタナ。弱ッタナ。ソンナニオッシャルト、コンド、オ会イシタトキ、口モキケナクナルンジャナイカナ。若ク見エルノハ、ボクガ、20歳ノ頃カラ、30歳ヅラシテイタセイデスヨ。(*そのとおりなのでウケた。)

× ×

土屋チャン、オレガズボラ……ソノ通リ。家ジャ、コップモ動カサナイ。崖ノロケ……アノトキャ弱ッタヨ。実ヲイウト、俺、モーレツナ高所恐怖症ナンダヨ。『オーイ、早クシロッ!』ノ鶴ノ一声……。実ハコイツガ効イタマデナンダヨ。神サマダナンテ、悲シイコトイウナヨ。

インタビュー/女美川 信

*俄然人気が出てきた年の雑誌記事。鬼吉兄ィ、見てみたいなあ。そりゃそうと池内さん、「足がきれい」なんてほんとにどこで見たんですかー(あのわずかな初夜シーン@四谷怪談?)

(2008年6月18日)
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