ニヒルと根性 男くささの魅力女性明星:1965(S40)1月15日号:33歳
未婚女性1000人が選んだ 茶の間の[レディー]キラー5人の魅力
ニヒルと根性 男くささの魅力
天知茂
*[レディー]部分は切れていたので、もしかしたら[マダム]かも?
「なんてキザな男!」
と思っているうちに、そのキザなポーズやスタイルに、いつのまにか惹かれてしまっている…というのが、天知茂の持ち味であり魅力といえる。
彼もまた、それを十分計算に入れて芝居している。帽子、ワイシャツ、背広、衣装や持ち道具も、それをねらって選んでいる。
「彼のニヒルな感じがすてき…」
という声も実に多い。
天知茂の名前をいっぺんに有名にした『孤独の賭け』で、彼は野望を抱きながら敗北してゆく青年実業家を演じた。
その演技は、なんともアクの強い、いわゆる“くさい芝居”だった。
「まるで地方(ドサ)回りの役者みたいな芝居…」
と、悪口をいう向きもあるが、これも彼は計算ずくだろう。
その証拠に、キザとアクの強さが天知茂のトレード・マークになり、人気タレントになったのだから。『孤独の賭け』に出るまでの彼は、俳優としてはあまり恵まれなかった。
昭和26年、ニューフェイスとして新東宝に入社。『恐怖のカービン銃』という映画でデビューした後、『女王蜂の怒り』などの現代劇の主役を演じたことはあるが、スターとして脚光を浴びるまでにはいたらなかった。
36年、新東宝が解散したことで、一時は生活の苦労も味わったらしいが、まもなくテレビに転進。『孤独の賭け』でおしもおされもせぬ人気テレビスターとなった。
「彼の芝居に、ドロ臭さが感じられるのは新東宝映画の影響だ」
と言われるが、そんな批評なんかはね返せるくらい、彼は“大物”になってしまった感じである。
「新東宝時代は、作品的にも恵まれず、経済的に苦しかったこともあります。でも、新東宝での10年間は、けっしてムダでも回り道でもなかったと思いますね」
と、彼はしみじみ語っている。
役者としての根性も、やはり新東宝時代に身に付けたのだろう。と同時に、夫人のバック・アップも忘れてはならない。
彼には、千景ちゃんという6つになるかわいいお嬢ちゃんがいる。
「最近いそがしいので、娘とゆっくり話すひまもないんです。父親としての資格はゼロに近いですね」
という天知茂の顔には、あのニヒルな影もなければ、キザなポーズも全くない。ほんとうは、地味な人柄なのである。
昭和6年3月4日、名古屋市生まれ。TV『幕末』に出演中。
*アクの強さはともかく“ドサ回りの役者みたい”とは、えらい言われようだ。
*「幕末」に出たのは1回のみだと思っていたが、「出演中」ということは何度も出たのだろうか?
(2010年4月29日:ご本人のスクラップブックより。資料協力・住田忠久様)