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クールな都会派ムードの魅力週刊平凡 : 1978(S53)11月30日号:47歳
おしゃべりジャーナル
クールな都会派ムードの魅力 天知茂
娘を愛人と間違えられ複雑な気持ち…
ききて 鈴木治彦

いつも眉間に深いしわを寄せ、悪と戦う硬骨漢……。
だが、天知茂の素顔は、よく話し、よく笑う魅力的な中年男性だ。アルコールは一滴も飲めないのに、夜のバーではマイク片手にうたいまくる不思議な特技もあり、年ごろのお嬢さんの言動にオロオロしたりもする。味わい深い47歳であった。

プロフィール
天知茂―本名・臼井暢浩(*どうやらこの時期、奥様の風水?の影響からか、この名前が本名になっている。後で書かれている家族の名前もそう)。昭和6年3月4日、名古屋生まれ。2年間の松竹時代のあと、26年、新東宝第1期ニューフェースに合格。『恐怖のカービン銃』でデビュー。新東宝時代『四谷怪談』などに主演し、ニヒルなマスクと渋い演技が注目された。
36年、新東宝解散以来、フリーとして主にテレビで活躍。代表作に『夜の主役』、『非情のライセンス』、『孤独の賭け』、『明智小五郎シリーズ』などがある。
家庭では、友季子夫人とのあいだに、千香子さん(20歳、成城学園大学2年)と、敬貴くん(15歳、成城学園中学3年)がいる。

ベージュのツイードの上着にグリーンのスラックス、そしてやはりダークグリーンのネクタイをきちんと結び、いつに変わらない渋いおしゃれの天知茂。ゆったりと坐ってまずはたばこを一服。アメリカたばこの黒いパッケージも、つや消しをしたシルバーのライターも、すべて計算されつくした小道具のように見えるのは、さすがダンディーの名に恥じない。

しかし、料理の注文ぶりは意外。
鈴木さんが、
「この店は肉がおいしいですよ」
というと、
「じゃ、肉にしましょう」
といい、そのやりとりを知らない店の女性が
「この盛り合わせはいかがですか。グラタンもビーフシチューもフライもセットになっていますけど」
といえば、すぐにうなづいて、
「うん、じゃそれでいいです」
まったく主体性がないのだ。
自分でもそれに気が付いたらしく、
「いやあ、舞台に出ているときなんか、昼の部と夜の部のあいだも、化粧落としや来客の接待で忙しくてね、食事のメニューを考えるひまがないんです。全部弟子が決めて、持ってきたものを食べるんです。そのくせがついてしまって……」
と笑いながらいう。
来年は芸能生活30年。長いキャリアが日常のそんなところにまで現われているのかもしれない。


鈴木:アルコール類は全然めしあがらないんですね。
天知:(苦笑して)申しわけないですね。お茶をいただいてますから、鈴木さんはどんどんお飲みになってください。
鈴木:お酒は飲めないのに、バーやクラブで天知さんを見かけたという人は不思議に多いですね。
天知:つきあいがありますからね。飲む場所にはよく行きますよ。
鈴木:つまらないでしょう。まわりはみんな酒を飲んでるのに、ひとりだけシラフでいるのは。
天知:いやいや、楽しいですよ。ぼくがいちばん先になって、つぎからつぎへとうたったりして、大騒ぎしますよ。ジュースやコーラを飲みながらね。
鈴木:(あきれて)不思議なかたですね。
天知:まわりから見ると、ぼくがいちばん酔っ払ってるように見えるらしいですね。だからよくいわれるんですよ、「こないだ天知さんがすごく酔っているところを見ましたよ」。そういう人のほうが酔っていたのを、ぼくはちゃんと憶えているんですけどね。

苦労を共にした新東宝の同窓生はいま・・・

鈴木:天知さんはお若く見えるけど、来年はもう芸能生活30年なんですね。早いものですね。
天知:(うなずいて)そうですね。この前、10月21日だったかな、麻布プリンスホテルで、新東宝の同窓会を開いたんですよ。宇津井健、菅原文太、久保菜穂子、なつかしい顔ぶれが集まりましたけど、昔は若い仲間のつもりでいた連中が、みんなそれぞれ中年になっていましたね。
鈴木:天知さんは新東宝の第1期ニューフェースですね。
天知:ええ。高島忠夫や久保菜穂子が同期でね。ニューフェースの試験のときの審査員に香川京子さんがいたんです。だからあの人には、いまも頭が上がりませんよ。
鈴木:たしかその前は松竹にいらした?
天知:2年間、松竹にいたんですが、まだ子供でしたし、役らしい役もつかなかったから、新東宝に入ったころは、まるで新人同様でした。
鈴木:その新東宝もつぶれてしまったわけですけど……。
天知:36年にね。10年間いたことになります。
鈴木:やがてつぶれる、ということはわかってらしたんですか?。
天知:そりゃ気がつきますよ。ギャラは出なくなるし、まわりでつぎつぎと人がやめていくし……。沈みかかっている船に乗っているというのは、妙な気持ちですね。
鈴木:やめようという気にはならなかったんですか。
天知:やめたかったんですけどね。そのころぼくは新東宝の俳優協会の会長をしていたものでね、やめるにやめられなかったんですよ。それと同時に、会社というのは、そう簡単にはつぶれっこない、という楽観的な考えもありましたしね。
鈴木:ところがつぶれてしまった。その後、いろんなことがありましたね。
天知:(大きくうなづいて)ありましたねえ。新東宝出身の連中は、みんな苦労したけど、ぼくはとくに浮き沈みが激しかったようですね。
鈴木:活躍の場が主にテレビになったわけですけど、あの時代、映画からテレビに移ることには抵抗もあったでしょう。
天知:やはりテレビは一段下に見られてましたからね。(なつかしそうに)それに、いまと違って生放送だけでしょう。NGは出せないし、たいへんでしたよ。顔だけアップになっていて、カメラに写っていない下のほうで衣装を替えたりするんです。帯をしめられるとき、グッと引っ張られて顔がカメラからはずれてしまったこともありましたね。
鈴木:『週刊平凡』も足かけ20年になるんですけど、テレビもその時代から20年近いんですね。長いですね。
天知:(つくづくと)長いですね。自分でもよくやってきたと思いますよ。
鈴木:大きな病気もなさらずにね。
天知:健康でしたね。病気で休んだときはいちどもない、といいたいんですが……。
鈴木:ありましたか。
天知:休みはしませんでしたがね、この8月に新歌舞伎座(大阪)に出ていたとき、熱を出しましてね、あわや休演というところまでいったんです。
鈴木:それは知りませんでした。
天知:ご存じないでしょう。楽屋にお医者さんが来てくれて、診察を受けながら舞台に出ていたんです。ひどいときは、40度も熱があってね。その日の舞台のことは、半分以上記憶にありませんよ。
鈴木:役者根性ですね。
天知:いい勉強になりましたね。健康になまじ自信があっただけに、体にとくに注意したことはなかったんですが、これからは気をつけなければ、と思いましたよ。もう若くないんだから……。

女房が麻雀やって ぼくはお茶のサービス

鈴木:天知さんの奥さまは、たしか女優さんでしたね。
天知:(うなずいて)新東宝の同期なんです。いまは、元女優というムードはまったくありませんけどね。
鈴木:ご結婚なさって、仕事はきっぱりとおやめになった?
天知:本人は芸能界に未練があったようですけどね。ラジオに出るくらいならいいでしょう、なんていっていましたけど、けっきょくはきれいにやめてもらいました。
鈴木:それは、天知さんの意思で?
天知:(考えて)やはりそうですね。女房を働かせるということに、男としていくらか抵抗もありましたし、それに、役者の女房は普通人のほうがいいんです。
鈴木:なるほど。
天知:役者というのは、芸能界というせまい世界の中だけにいるでしょう。どうしても常識に欠けるようなところがあるんです。その分を女房がカバーしてくれなければ困る。だからうちの女房はまったくの常識人ですよ。
鈴木:とすると、天知さんのご家庭は、すべて奥さままかせ?
天知:まさにそうですね。ぼくはなにもしませんし、なにもわかりません。家の壁紙が貼り替えてあっても気がつかない。
鈴木:(笑って)それはかなりのもんだな。じゃ、奥さまとしたら、もうひとり大きな息子がいるような感じですね。
天知:女房もそのほうがいいようですよ。なんていうか女親分の気質があるんですね。近所の奥さんたちを集めて、中心になっていますしね。ぼくは麻雀はやらないんですけど、うちには麻雀部屋があるんです。女房の一派のためにね。
鈴木:奥さんが麻雀をなさっているとき、天知さんはどうなさってます?
天知:(楽しそうに笑って)ぼくはお茶くみですよ。
鈴木:天知さんの意外な一面が現われるということですね。家庭に仕事のことは持ち込まない主義ですか。
天知:なるべく持ち込まないようにしてるんですがねえ……。それでも、役になり切っているときは、どうしてもそれから抜け出せないこともあります。ですから、努力して役者の家庭ではないようにしようとしてるんですよ。
鈴木:お子さんたちにもそう教育なさっている?
天知:(うなずいて)役者の子供だから特別だ、という考えはいっさい持たせないようにしているんです。うちの子はふたりとも成城学園なんですけど、バス通学ですし。本名が天知じゃないから、学校でもぼくの子供だということを知らない人が多いようですよ。
鈴木:お父さんのお仕事に理解はおありでしょう。
天知:それはわかってくれているようですよ。ぼくは忙しくて、参観日に行ったこともありませんけど、そのことで文句をいったりはしませんね。

冗談でも 娘の結婚話はショック

鈴木:上のお嬢さんはもう20歳ですね。
天知:(うれしそうに)いまエレクトーンに夢中なんですよ。子供のころからやっていて、もう何人もの生徒をとって教えています。
鈴木:授業料をもらって?
天知:(うなずいて)かなりの収入になるようですよ。その収入で外国旅行をしたりしてますから。
鈴木:20歳というと、結婚はまだかな。
天知:(首をひねって)まだ恋人はいないようですがね。このあいだはショックなことがありましてね。
鈴木:ほう。どうなさった?
天知:娘がね、「結婚しちゃおうかな」ってつぶやいたんです。あのときはショックでしたね。
鈴木:それで、天知さんは?
天知:それは……問題の核心に触れないようにして、そって避けて。(笑)しばらく黙ってようすを見ていました。本気でいったのか、ただの冗談かわからなかったから。相手の出方を見ていたってところですね。その後、べつになにもいわないから、いまはホッとしているわけなんですけどね。
鈴木:つまり、冗談だったんですね。
天知:そうなんですけどね、たとえ冗談にしても、娘の口から“結婚”なんていう言葉が出たことは、いまだにショッキングですよ。子供だ、子供だと思っていたら、いつのまにかそんな年になっていたんですね。
鈴木:とくに女の子は、急速におとなになっていきますからね。
天知:このあいだね、おもしろいことがあったんですよ。娘の将来のために、うちの近所にマンションを買っておこうと思って、ふたりで見に行ったんですよ。そうしたら、それを見ていた人がいて、天知茂は若い愛人にマンションを買ってやった、と近所で評判になりましてね。娘もついに愛人に見られるようになったか! 複雑な気持ちですね。
鈴木:天知さんには女性ファンが多いから、そういううわさはすぐ広まるでしょうね。女性ファンといえば、なかには熱狂的な人も多いでしょう。
天知:そうですね。ときどきうちにまで押しかけてくる人がいて、困らされますよ。
鈴木:どういう人ですか?
天知:ファンなんですがね、ちょっとゆきすぎの人がいて、夜半にぼくのうちに来て、「わたしは天知さんにお世話になっているものです」というんです。ぼくの見たことも会ったこともない人なんですがね。
鈴木:そういう人が来たんじゃ、奥さまもびっくりなさるでしょ。
天知:(笑って)もう慣れてますからね。ていねいにお相手してお引き取り願ってますよ。定期的にそういう人が現われるようですね。テレビでぼくの新番組が始まったような時期に、決まって登場するようですね。

この道30年、仕事が唯一の趣味です

鈴木:テレビといえば、『孤独の賭け』がまた始まりますね。
天知:これは、ぼくとしては3回めなんですよ。最初が15年前にTBSでやったんです。小川真由美が相手役で、それをきっかけに人気が出たんです。つぎに東映の映画で、佐久間良子を相手にやりました。こんどの東京12チャンネルの新番組で3回めです。
鈴木:それほど愛着がある作品なんですね。
天知:あの主人公は、年齢的に見て、いまのぼくに近いんですよ。いままでの2回は少し背伸びをした感じもあります。そのかわり、こんどは相手役を若くしようということで、五十嵐めぐみにしたんです。
鈴木:彼女は天知さんの事務所に所属しているんでしたね。
天知:そう。いい子だから、なんとか大きく伸ばしてやろうと思ってるんですよ。12月30日に放送される明智小五郎シリーズの第6作(朝日『土曜ワイド劇場・江戸川乱歩美女シリーズ』)にも、ぼくの助手役で五十嵐めぐみを出していますからね。
鈴木:前の『非情のライセンス』のときには、天知さんは主題歌の『昭和ブルース』をうたって好評だったんですが、こんどは?
天知:主題歌というわけではないんですけど、『男のポケット』というレコードを出すんです。番組の中でも流しますけどね。
鈴木:新番組が始まって、新曲も出るということになると、また天知さんの愛人を名乗る人が現れるかもしれませんよ。
天知:(笑って)それだけはカンベンしてもらいたいですね。

【対談を終わって】
テレビの画面で見る天知茂は、目と目のあいだに深いしわを刻んで、無口で、少しこわい印象だが、素顔はたいへん陽気な人。この日も、お茶を飲みながらよく話してくれたし、よく笑った。
「ぼくが話すと、仕事の話が多くなってすみませんね」
と笑う。酒もゴルフも麻雀も、いっさいなしで、仕事にすべての情熱をかけ、
「それがいちばん楽しいし、仕事をしているときがいちばんしあわせなんです」
という天知茂。芸能生活30年を迎え、来年は自主制作の映画も計画しているという。
楽しみな年になりそうだ。

*シガレットホルダー付き(?)の煙草を右手に挟み、心もち眉がタレ気味の天っちゃん(ネクタイはドット柄)が表紙写真

【写真キャプション】
・『孤独の賭け』(東京12ch)は3度目の挑戦(五十嵐めぐみさんを背後から見つめる、白いコートの襟を立てた天っちゃん)
・シングル盤6枚目の『男のポケット』(EPジャケット写真)
・名作といわれた『四谷怪談』(新東宝)(お岩さんを後ろから斬る直前の伊右衛門サマ。新東宝となっているが、恰幅の良さからいって後年のテレビ版の写真と思われる)
・渋い歌声にファンも多い(バンドの前でマイクを持って熱唱中)
・新東宝のニューフェースだったころの友季子夫人と天知(郊外で二人で右ななめ上を見ている爽やか写真)
・たまの休日は自分の事務所で社長業に専念(外国の町並みが描かれた絵画をバックに、電話やら書類やら灰皿やらが置かれた社長の机で喫煙中)
・ふたりの子供もいまは20歳と15歳(「ニヒル 天知茂」に載っていたのと角度違いの、応接間のような場所でお子様たちと記念撮影する若き日の天っちゃん)
・明智小五郎役で難事件を解決(朝日 12月30日放映の『黄金仮面』)(例のパーティーシーンの一幕)

*『あの主人公(=「孤独の賭け」の千種梯二郎)は、年齢的に見て、いまのぼく(当時47歳)に近いんですよ』とのことだが、原作の千種は30過ぎと書かれているので、60年代に放映されたときの方が適役だったのではないだろうか(その“背伸び具合”がとても千種チックだと思うし)。おまけにヒロインを若くしたんじゃ(しかも“文代さん”)、なにやら別のオトナのお話にみえるというものだ。

(2007年3月6日)
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