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反マイホーム主義に徹する天知茂週刊平凡 : 1968(S43)3月7日号:37歳
今週のスター
反マイホーム主義に徹する天知茂
仕事=趣味というプロ根性

天知茂、36歳。新東宝解散後、テレビスターとして脚光をあびてきた。現在『一匹狼』(日本テレビ、提供=サントリー、三洋電機、鈴木自動車)にレギュラー出演中だが、各テレビ局でひっぱりだこの人気者。そんな彼の仕事を離れた素顔を、純代夫人はこう見るのである――。

19%の視聴率をあげる男

その人気
「いちばん悪いとき、そう、ボクシングのタイトルマッチがあったときだったかな――そのときで16パーセント近くでした。平均して19パーセントぐらいいってますね」

『一匹狼(ローン・ウルフ)』の視聴率は、製作者としても予想しなかったほど高いという。
ふつう、フィルムもののアクション・ドラマでは、10パーセントを多少越える程度の視聴率が常識。
だから、この大好評に気をよくした局側は、2クール(半年間)で終了の予定を延期して、もう1クール制作を続けることに決定した。
いま、撮影が終わっているのは20回目まで。ぜんぶとりきるには8月ごろまでかかる予定という。
もちろん、主演の天知茂はいま、これ1本にかかりっきり。
このため、『川は流れる』(TBS)のほうは、体があいているときだけ出演する準レギュラーにしてもらった。

それにしても、このところ天知茂の人気はたいしたもの。テレビ局すじでは、「なんにでも使える器用な俳優」と重宝がられ、各局から引っぱりだこのありさまだ。
女優でいうなら池内淳子、中村玉緒――男性では渥美清、天知茂が、テレビスターとしてのトップの座にいるわけ。

「この作品にかかりきりの現在でこそ問題はないようなものの、これが終わったらたいへんですよ。きっと各局の争奪戦になるでしょう……栗塚旭みたいな問題にもなりかねないですね」

とは、日本テレビのあるディレクターの弁。もっとも、日本テレビでは『一匹狼』終了後も続いて出演してもらえると“確信している”らしいのだが……。

それはともかく、天知が今日の人気をうるまでの道程は、けっして平坦なものではなかったようだ……。
「食べるものもロクに買えないほど貧乏した時代もあったらしいですね。いちばんつらかったのは、新東宝の大部屋時代でしょうね。たいした役もつかず、借金はたまるいっぽう。いつもピーピーしてたようですよ」
と、夫人純代さんはいう。

上京したくて俳優を志願

生い立ち
――彼、名古屋の生まれ。旧制の東邦高等商業卒業後、ブラブラすること半年。「べつに役者になる気はなかった」のだが、むしょうに大都会の空気が吸ってみたかった。

たまたまそのころ、新東宝のニューフェース募集が名古屋で行なわれた。「受かれば東京に行ける」というだけの理由で応募、幸か不幸か、合格した。
それから大部屋生活が5年。この間、同期のニューフェースで、大部屋の仲間だった女優の森悠子と知り合う。それが、31年に結婚した純代夫人である。
やがて、悪役専門の中堅俳優として、かなりの人気を得、重宝がられる存在となったが――新東宝がつぶれてしまった。つまり“失業”である。

「新東宝がつぶれたということじたい、現在の映画界不況を暗示する事件だったんですよ。その証拠に、クビになった大勢の俳優を引き取る力のある会社がなかったんですからね」

で、映画界には見切りをつけた彼、これからは、テレビ時代とばかり、フリーになってテレビ界に進出。関西テレビ『黒岩重吾シリーズ』がさいしょの主役だった。これが成功して、以後着々とテレビスターの地位を固めた。

現在、彼は、新東宝時代から住んでいた東京・世田谷区の家に、妻純代さんと千景ちゃん(9歳)慶クン(4歳)の4人暮らし。
彼の不遇時代、3年間にわたる交際ののち、自分から積極的にプロポーズしたという純代夫人――現在でも、家庭での主導権は夫人の手にあるようだ。

「だってうちの主人て、家庭のことにはまるっきりウトいんですもの。十何年もおなじ家に住んでいるのに、お隣にどんなかたが住んでいらっしゃるのかも知らないんですよ」

それどころか、本人の天知にいわせれば、
「十何年住んだ自分の家に、足を踏み入れたことのない部屋がある」
とはまた徹底したもの。もちろん、大邸宅ではないのだからそれはオーバーにしても、
「たとえば、台所の壁を塗りかえたり、フスマを新しくしたときなんかでも、何ヶ月も気づかないことがありますわ」
と夫人はいう。
だから、手がかからないという点では、まさに第一級にランクされる亭主だ。

家庭のことにはまるで無関心

日常生活
夫人が苦労することといえば、朝、寝起きのわるい天知を起こすことくらいのものだ。

「ところが、それがたいへん。主人は、いつも30分くらいサバを読んで、おそ目に起こすようにいうんです。だから、寝るまえに聞いたとおりの時間に起こしたのでは完全に遅刻」

そこで夫人も、いわれたより30分ほど早く起こす。するとどうだろう、彼、二重にサバ読んで1時間以上もおそくいう。
「だからこのごろは、寝るまえに事務所に電話して、“あしたの仕事は何時”と聞くんです」

それ以外には、まったく手がかからない。食べものにも、ぜいたくはいわない。朝はパン食、夜おそく帰ると、夜食をとる。がそれも、魚以外ならなんでもいい、チョコチョコっと箸をつければ気がすむ。
酒は一滴も飲まない。が、応接間の棚には、ナポレオンやジョニ黒など、高級な酒びんが並んでいる。みんな接待用だ。

「お客さまに飲ませて、自分は飲まないで、とうとうとしゃべりまくるんです。マネジャーや仕事関係のかたがお見えになるとふだんは無口の彼が、すごく陽気になるんですよ。仕事に関する話なら、朝までしゃべり明かすこともあるくらい」

彼の唯一のぜいたくは着るものに高級品を選ぶこと。月平均1着半くらい、背広やジャケットを新調する。生地は最高級のもの、デザインも自分で指定する。とはいえ、仕事に追われる彼、おシャレを楽しむひまはあまりない。

『一匹狼』出演中の現在、休みもほとんどなく、家にいることはめったにない。
「子供もそれに慣れちゃって、たまにパパが帰ってきても“あ、帰って来たな”というくらいの顔しかしませんのよ。1週間くらいのロケから買えっても、まるで感激しない。ま、戸籍のうえでは両親がいても、じっさいは片親みたいなものですわ。子供と遊びに行くなどということもめったにしません。この数年で思い出しても、ことしのお正月、遊園地に連れていってやったことくらい……。それでいて、人いちばい子ぼんのうなんです。子供の話を楽しそうな顔で聞いていますわ」

そんな彼、もちろんPTAや父親参観日などにも出席したことがない。子供の入学する学校を決めるのもすべて夫人。しつけももっぱらママまかせ。

「けっきょく、主人て、仕事以外のことにはぜんぜん関心がないんですね。趣味も、これといってないようですし……。同じ仕事をしていて、ゴルフや釣りなど趣味の多いかたもいますけど、主人はむりしてそういう時間をつくるくらいなら体を休ませたほうがいいといって……。きっと仕事イコール趣味なんですわ、あの人にとっては」

夫人のいうとおり、彼、仕事の話となるとハッスルする。将来は自分のプロダクションをつくり、自分でプロデュースから主演までやってみるのが夢。
『黒岩重吾シリーズ』と『一匹狼』の中間には、三枚目的な役もかなりやってきた。世間の評価は、いまのような役柄が似合いだというが、
「ぼく自身は喜劇的要素が多分にあると思うんだがなあ……」
プロダクションをもったら、喜劇でいい作品をつくりたいという。

いずれにせよ、彼はこれからも、純代夫人にとっては、「手のかからない一等亭主」の姿勢をくずすことはなさそうだ。

【写真キャプション】
・純代夫人に家事はまかせっぱなし(テーブルに向かい合って珈琲タイムのご夫婦)
・久しぶりに長女千景ちゃんを抱く(おそらく自宅にて。チェックの吊りスカートのお嬢様をぎゅっと抱っこして笑顔のパパ)
・「家庭のことには無関心」という天知茂(黒スーツ&ネクタイ、淡色のベストで語る)
・『一匹狼』で中原早苗と共演する(黒セーター、淡色ジャケットで煙草片手に小難しげな顔)
・「家庭のことには無関心」という天知茂(黒っぽいネクタイ・スーツにベスト姿の三白眼亭主)
・セットを訪れた純代夫人と(椅子に座って台本を読んでる天っちゃんを笑顔で覗き込む奥様)

*「べつに役者になる気はなかった」なんてしらっと口にしているが、実際はなりたくてなりたくて(でも松竹では病気した上にお払い箱で)かなり苦労と努力を重ねている

*そんなに寝起きが悪かったとは!(というよりたぶん、夜更かししすぎ)

(2007年2月25日:資料提供・naveraさま)
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