ギャラは全部女房に渡します週刊平凡 : 1964(S39)4月23日号:33歳
おしゃべりジャーナル ききて 宮城千賀子
ギャラは全部女房に渡します
ゲスト 天知茂
俳優はお弟子さんをもつと、とかくわがままになるもんですが、天っちゃんには、そんな所がぜんぜん見られません。暇があるとセットの隅でひとりで眠っていたり、お弟子さんの出る場面があると、ちょっとアドバイスするだけ、スクリーンから受けるイメージとは正反対。
「家庭的には平凡でありたい・・・」ということばに、いちばんよく彼の人間性があらわされています。(宮城千賀子)
いねむりばかりしていた
宮城:天(あま)っちゃん、新東宝はいつ入ったの?
天知:昭和二十六年です。初めての主役が、『恐怖のカービン銃』なんです。
宮城:ははァ、それいらい、悪役がついてまわってるのね。(笑)
天知:それが不幸のはじまり。(笑)
宮城:あなた、意外とおとなしいから。(笑)セットの隅で小さくなっていねむりばっかりしてたわね。(笑)ムリなスケジュールばかりやって、さんざん鍛えられたんでしょ。(笑)
天知:そんなことはないですよ。新東宝というところは、仕事にたいしてはきびしかったですけど、みんな暖かみのある人ばかりでしたね、だから、ぼくは最後の最後まで会社はもうだめだとわかっていながら、いっしょにやってきた人たちと別れられなくて・・・。
宮城:最後はもう月給ももらえなかったからね。(笑)どうして生活していたの?
天知:テレビに出るようになったんですけど、単発のドラマばかりで、目立たなかったですね。
宮城:ところで、天っちゃんいくつ?
天知:三十三です。
宮城:若いわね。もっとふけてるんじゃないかと思ったわ。(笑)
天知:正真正銘、昭和六年生まれですよ。
宮城:俳優として一番いいところだわ。あんたは、立ち回りもできるし、ヅラもわりと似あうし。(笑)何もかもそろっている。
天知:新東宝で、やらない役はなかったですよ。いちばん多かったのはギャングかな。(笑) 二枚目もやったんですよ。(笑)
お酒の飲めない悪党
宮城:あんたは、テレビで見る感じとぜんぜんちがうわよね。悪役でも、実際にはビールも飲めないし。(笑)
天知:飲むと気持ちわるくなっちゃうんですよ。(笑) 一口もだめです。
宮城:じゃ、ビールを飲むシーンはどうするの? 番茶かなんかに、セッケンでも入れてアワを立てるの?(笑)
天知:あれは番茶の上にビールの泡だけをのせて作るんですね。セッケンは入れないですよ、ぼくはそんなに腹黒くないですよ。(笑)
宮城:でも、うまそうに飲むわよ。どうしてきらいなのかしら。私、お酒飲めない男の人なんて、不思議でしょうがない。
天知:でも、お酒を飲む人とはよくつきあうんですよ。いつもコーラのストレートですがね・・・。(笑)
宮城:コーラで女の子をくどくの?(笑)
天知:さあ、それはどうですか。ぼくは飲まなくても酔っちゃうんですよ。(笑)
宮城:そんならいいわよ。(笑) ・・・こっちがシラフで、相手が酔っぱらってるというのはくどきやすいのよ。(笑) 私なんかこの人にくどいてほしいなあと思って飲むんだけど、「私はお酒が強いですヨ」とはいえないでしょ。少しはネコをかぶってネ、「お酒召し上がりますか」「はァ少しくらいは」ということで。(笑)そのうち私が酔わないから、ヤケになって「飲みなさい、飲みなさい」というの「そうですか」って飲んでるうちに、相手が先に酔ってだめになっちゃうのよ。(笑)
天知:そういうときは、宮城(ミー)さんがダブル、野郎がシングルで飲まなきゃかなわないですね。(笑)
宮城:そう。でも天っちゃんなんかといっしょだったらどうするかな。(笑)
天知:ぼくはいいですよ。一口も飲まないけど、相手の酔いに合わせて、いかようにも酔ってあげます。(笑)
宮城:でも、だいたい、お酒を飲まない人はエッチだっていうわね。(笑) どう?
天知:そうですか。(笑)
宮城:自分じゃわからないかな。(笑)
天知:エッチでないことはないでしょうね。(笑)
目が光る
宮城:ところで、あんたの悪役が評判なんだけど、演技の上で何か計算してる?
天知:ことさらに悪役という意識は持たないでやる方針なんですよ。その人間の性格というか、裏付けがしっかりしていれば、ふつうのことをやっても物語がそうなっていれば、悪は悪として表現されるでしょうし・・・。ですから、台本の設定を大事にしますし、納得がいくまで討議するんですよ。ぼくのやる悪の中に、少しでも人間らしいものが出ているとしたら、悪そのものを意識しないでやっているからだと思うんですけど・・・。
宮城:悪役でぐっとくるってのは、天っちゃんの目の感じかな。目が光るのよ。冷たく、ぐっとくるのよ。(笑)
天知:目がワイドにできてるのかな。(笑) ・・・たしかに、ぼくも、目だけには、とくに重点をおいていますね。
宮城:それにまた、時代が変わって悪役ブーム、よかったわよ。(笑) 『廃墟の唇』では、ずいぶん歩くシーンが多いけど、あんたは大股でカッコよく歩くわね。
天知:大ざっぱな計算をしていましてね、歩くテンポを考えているんです。あまりのんびりした芝居というのは、最近はないですからね、演技も、そういう世間のテンポとの間にズレがあっちゃいけないと思ってるんです。
宮城:あんた、アフレコもうまいじゃないの。どこで習ったの?
天知:やはり新東宝ですよ。(笑)
宮城:セリフの覚えも早いけど、勉強する時間あるの?
天知:覚えようと思って覚えたことはないんです。
宮城:それはお酒を飲まないせいもあるな。(笑) ・・・ラブ・シーン、多いでしょ? すごいのがサ。(笑) だれがいちばんやりよかった? もちろん私はのけて。(笑)
天知:人それぞれですね。ぼくはひとから見るとテレてないようで、本人はすごくテレてるんです。(笑) ラブ・シーンというのは、演技ではあるけれど、行為には変化のないものをいかに違って見せるかということで、たいへんなことですね。
宮城:それ、研究したの?(笑)
天知:ことさらにそういうことはないですけど、多少経験も入って・・・。
宮城:ナルホド。私も相当エゲツないのやったけど、ネグリジェの下にステテコパッチなんかはいて・・・。(笑) ・・・アワレなものよね。・・・悪女ってのどう?
天知:役の上の悪女というのは、現実にあるかどうかは別として、おもしろいですね。ぼくらが悪役をやるのと同じですよ。興味がありますね。
宮城:悪女にふりまわされて、くどかれるという役では、天っちゃん、むずかしいでしょ。
天知:受け身というのはやりづらいですね。何か手持ちぶさたになるし、そうかといって、されるがままでもへんだし。
宮城:ひとつ、現実に研究したらどう?(笑) ・・・あんたって、遊ばないから。
天知:ひまがないですよね。(笑)
女房孝行のいい旦那
宮城:忙しくて、奥さんとも会えないんじゃない?
天知:週のうち、半分くらいですね。
宮城:じゃ、いつも新鮮でいいわ。(笑) 結婚して七年目だってきいたけど、浮気したことないの? (笑)
天知:ウン。(笑)
宮城:本気は? 本気で恋しちゃったことある? 嘘いっちゃいけないわよ。
天知:ウンといわなきゃいけないみたいだナ。(笑)
宮城:で、奥さんとは、どういうロマンスなの?
天知:新東宝のニュー・フェースにいっしょに入ったんですよ。ぼくは名古屋の出身だよね、偶然彼女も名古屋で・・・。
宮城:ウンウン、それで休みにいっしょに帰郷したりしてるうちに・・・。(笑)
天知:まあね。(笑) ・・・そのうち年ごろになって、だんだん彼女に縁談がいっぱい出て・・・ぼくが相談を受けたんです。それで「ひとのとこへ行くなら、オレのとこへこい」っていうわけで・・・。(笑)
宮城:いいね。(笑) それで、彼女は女優をやめた。
天知:ウン。結婚する二か月前に、やめさせました。生活は苦しかったんですけど、どんなに苦労しても、女房は働かせたくないと思いましてね・・・。
宮城:えらい。あんた、女房孝行で、奥さんに、自分でデザインした洋服を着せてたっていうじゃない?
天知:いや、むかしのことですよ。いまは家へ帰って寝るだけですよ。
宮城:奥さんはテレビ見るの?
天知:ぼくの出るのだけは見てるらしいですよ。うちの家庭生活というのは平凡なんですよ。ぼくの家庭論ってのはサ、平凡な家庭でありたいと思うだけ。
宮城:いばってる? おかずがまずいとかいうの?
天知:いわない。黙ってたべちゃう。
宮城:そりゃいい旦那だよ。(笑) カセぐしね。こどもは?
天知:五つの女の子と、去年の十一月に生まれた男の子。女の子はぼくに似てるらしいんです。
宮城:ギャラは全部奥さんに渡すの?
天知:そうです。
宮城:幸福な家庭ね。だからこそ、悪役ができるのよ。(笑)
*写真はユルユルの満面の笑みの天っちゃん(つば無しの帽子着用)
*テレない人だと思っていたが、あれでテレていたとは意外だった
(2006年10月26日:資料提供・naveraさま)