殺し屋紳士録《邦画編》 ヒッチコックマガジン : 1961(S36)5月:30歳
殺し屋紳士録
邦画編
萩原津年武
日本映画で「殺し屋」という職業の人物が登場したのは、当時新聞紙上で話題をさらった東洋精糖社長横井英樹氏が、白昼、ピストルで撃たれた事件の後である。
元来「殺し屋」なる名刺は、外国映画より輸入されたものである。
故に、邦画界に於いては「殺し屋」紳士諸氏の歴史は非常に浅い。
しかしながら「殺し屋」に準ずる紳士は、現代劇、時代劇を問わず、大分以前より活躍していた。それは「用心棒」であり、或いは一宿一飯の恩義のため、喧嘩の助っ人に馳せ参じた「やくざ稼業」等、名称は違っても「殺し屋」といえば、いえないことはない。その好例が「沓掛時次郎」なる御仁である。彼など「前近代的殺し屋」の代表者であろう。
では、殺し屋とは、どんな職業か? それは「依頼者に金を支払われる事によって、別に恨みも何もない者を殺す職業」と定義づけることができる。そして「殺し屋」たる条件は、幾つかの例外をのぞけば、ニヒルで、病的で、口数が少なく、すごみのある顔つきであるということ。この条件にあてはまるスターが「殺し屋スター」と呼ばれる紳士諸氏である。
では、日本映画、現代劇で活躍しておられる「殺し屋」紳士諸氏を、ご紹介します。
天地 茂 (*原文そのまま。正しくは「天知」)
所属会社:新東宝
本名:臼井昇 (*原文そのまま。正しくは「登」)
生年月日:昭和6年3月4日生まれ、30歳
現住所:東京都世田谷区(*後の住所は略)
身長:168cm
体重:56kg
出身校:名古屋市東邦商業卒
新東宝第一期ニューフェースとして26年入社。29年の大津、カービン銃事件をモデルにした映画「恐怖のカービン銃」でデビュー以来、スター不足の新東宝で「湯島の白梅」等二枚目をやってきたが、やはり、彼は持ち味のギャング、または「殺し屋」といった役の方があっている。「暁の非常線」「無警察」「恐るべき16歳」と最近健在なところを見せている。
*「ニヒルで、病的で、口数が少なく、すごみのある顔つき」、この条件にまさにぴったりな「黄線地帯」と思われる写真が付いている。
*30歳時の「天知茂の身長」が載っている雑誌。他の「殺し屋」メンバーは、天本英世・内田良平・沖竜治・神山繁・宍戸錠・杉田康・曽根晴美・高松英郎・丹波哲郎・高品格・垂水悟郎・中丸忠雄・土方弘・藤山浩一・深江章喜・山本燐一。身長(の低さ)では高品さん(162cm)、藤山さん(165cm)に次ぐ3番目である(ちなみに体重の軽さは天本さんと同率1位←身長差は10cmあるので天本さんの細さは別格)。
(2007年5月18日:資料提供・naveraさま)