「狼男と魔法の剣」がグランプリを受賞キネマ旬報 NO.877 : 1984(S59)1月上旬号:52歳
フロント・ページ
「狼男と魔法の剣」がグランプリを受賞
天知茂
昨年の4〜5月に日本でロケ撮影をやった日本=スペインの合作「狼男と魔法の剣」(La Bestia y la Espada magica)が、ベルギーのブリュッセルで行なわれた第一回ファンタスティーク・イマジナリー国際映画祭でグランプリを受賞しました。当初は「狼男とサムライ」という題名でしたが、最近「××××とサムライ」という題名の映画が多いということで改題されたようです。11月13日に授賞式が行なわれ、11月24日にスペインのマドリッドの2館で急遽封切が決定し、私もそのオープニングに行って来ました。観客の反応も上々で、私も肩の荷がおりた思いです。
撮影中は、それこそ毎回ディスカッションの連続でした。時代劇には約束事があり、現在は日本人でもわからなくなっているので、外国人にわからせるのは大変でした。畳のシーンで、彼らは「すわりっぱなしで動きがない」と言うんです。かといって畳で立った芝居というのもおかしな話ですからね。スペイン側スタッフはそう思ってなかったようですが、映画を見たあと、「お前のいう通りにやっておいて良かった。我々はお詫びする」と頭を下げてましたよ。撮影のやり方も向こうは同じシーンを何回も何回もカメラ・アングルを変えて撮るという方式ですから、とまどいましたね。そんな苦労をした結果の成功ですから、本当によかったと思いました。
オープニングの前夜、ハシント・モリーナ監督は神経質になり、死刑台にのぼる気持ちだったそうです。なにしろ、グランプリ受賞ということで急に公開が早まったので、宣伝が足りないのを補うためオープニングに我々も出席したわけです。映画の上映が終わったあと、みんなから握手を求められたりして大変でした。上映中も狼男とベンガル虎が格闘するシーンや、ぼくの演じる蘭学医が魔法の剣を得るため妖怪と闘うシーンに、特に拍手がきました。彼らにとって、立ち廻りが珍しいらしく、あれが素晴らしいと評判でした。
今回の作品は、とにかくスペインのお客さんに喜んでもらうのを第一に考えてきましたから、彼らの反応を見て、とても嬉しかったですね。スペイン人スタッフの意見を借りて申しますと、日本映画をスペインでやっても見る人は少ない、日本の役者とスペインの役者が四つに組んで一つの映画の中でやることが理想だと思います。合作というのは、それがテーマなわけだし、そういう意味で、今回の「狼男と魔法の剣」は日本とスペインの文化交流の一端をになったと自負してます。次には、日本がイニシアティブをとって、娯楽映画の原点であるアクション映画を作りたいですね。他に今年じゅうにスペイン映画祭といった企画を是非実現させたいと思ってます。(談)
*怖い狼男のポスター(タイトルの下にナッチィさんと天っちゃんの名が入っている)の横に濃い色のスーツ&ストライプのネクタイで立っている小さな写真つき。キャプションは「トロフィーを手に筆者」
*グランプリを取ったのは没後かと思い込んでいたので、本人がちゃんと受賞式に出て喜んでいたのを知って嬉しかった。おめでとう天っちゃん!(しかし、金銭トラブルはこの後なのか?)
*それにしても「狼男と魔法の剣」、ハリー・ポッターのシリーズ名にありそうなファンタジックなタイトルだ。さすが出演者がエルフィン天知なだけのことはある(違うだろ)
*執筆者紹介欄より引用:
天知茂
俳優。1月7日にテレビ朝日系で放映される「禁断の実の美女」で当り役の明智小五郎を演じる。
・・・ちなみに次の号ではその「禁断の実の美女」のプロデューサーさんのエッセイがドラマの写真つきで載っていた。当時のキネ旬には「TVムービー評」というのが付いているので、もしかすると美女シリーズなんかも批評されていたのだろうか?
*そもそもこの号を入手したのは「日傘の女」情報探索のためだったのだが(こちらはもう2〜3号後のようだ)、思わぬ収穫だった。
(2006年11月16日)