名探偵の煙草週刊文春 : 1985(S60)4月25日号:54歳
けむりばなし(3) 天知茂
名探偵の煙草
私は現在、江戸川乱歩先生原作の明智小五郎ものをテレビでシリーズとして演じさせて貰っている。すでに二十四本を数えるに至った。
大体我々が一つの役を演ずるに当っては、如何にその人物を形成して行くかという事前の演技プランが必要だ。原作なり、脚本に指定されているものはいいとして、書かれていない部分で大事なことがあるものだ。その部分が血の通った人間として演ずる場合の、より存在感を肉付けして行くものとなる。
例えば明智小五郎はどんな服を着ているのか。どんなくせがあるのか。どんな酒を飲むのか。どんな趣味があるのか。
同じ名探偵でも、かなり描写がなされている場合もある。
その点明智小五郎は、あまり細かく描かれていない。原作は昭和初期、それを現代に置き換えているだけに、自由な発想も考えられるが、その反面読者がそれぞれの思いでイメージを抱いている点が難しい。これはもう私は私なりの発想で、より幅広い読者のイメージを総括する以外にない。
明智小五郎はどんな煙草の吸い方をするのか。ヘビースモーカーである私にとっては気になる点だ。最近の節煙、禁煙のささやきは私にとっては耳ざわりだが、これを芝居の上で役立ててみてはどうだろうか……。
明智小五郎は煙草が好きだ。人一倍頭を使い、事件を推理して行く上に、煙草は欠かせない条件だ。しかし助手の文代は吸いすぎを気づかい、節煙をすすめ、揚句、事務所の壁にまで「節煙」の紙をはる始末である。しかし事件が解決した時、そっと一本差し出す。明智の嬉しそうな顔……。そこで吸う煙草は本当にうまそうだ。
私もこんな明智を演じ終えた時の一服を本当にうまいと思う。(俳優)
*後期の明智センセイは、文代さんが繰り広げる節煙運動に対して巧みな防戦(?)を繰り広げる様が面白かった。ナイス役作り。
(2006年10月19日:資料提供・naveraさま)