かたき役に演じ方あり三十年週刊朝日 : 1979(S54)7月6日号:48歳
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かたき役に演じ方あり三十年……茂
天知茂、今年は芸能生活三十周年ということで、ことのほか忙しい。「雲霧仁左衛門」(フジ系3日スタート毎火曜日夜10:00)のほか、「白昼の死角」(TBS系8月4日スタート夜10:00)や捕物帳(朝日系10月スタート)にレギュラー出演。そして三十周年記念の特別公演を6月22〜28日、東京・日劇でやる。そのあとも大阪・コマ劇場で8月1日〜26日、名古屋・御園座で8月27日、28日と、舞台に立つ。毎日4、5時間の睡眠だそうだが、48歳の男盛り。いたって元気だ。
新東宝のニューフェースとして18歳で映画界入りした天知の出発点は、かたき役だった。
「人より眼光鋭くてニヒルな感じの顔からそうなったんでしょう。いやだったかと言われれば、いいえ、そうじゃあないですね。個性的な役者を目ざしてましたから。この間、何を考えていたかというと、悪人をいかに人間らしくやるか、ということ。悪を悪として演じず、善悪合わせ持つ人間の弱さ、もろさとして表現したかった。映画『東海道四谷怪談』(中川信夫監督)の民谷伊右衛門の役で自分の考えた通りの悪役を演じることができ、演技開眼しました」と語る。
その後、芸域をひろげていったわけだが、このたびの「雲霧仁左衛門」(池波正太郎原作)は盗賊の首領。「盗みはしても人は決して斬るな」をモットーにしている。
「これも悪役といえば悪役だが、残酷な悪人ではない。ドラマはフィクションで夢や娯楽を売るもの。映画のように残酷に描くのはどうかと思います」と五社英雄監督の同名映画にチクリ批判。
「悪人、善人、やるテクニックは違うが、いかに複雑な人間を表現するか、です。芸能生活三十年といっても自分の夢が十としてまだ二か三。ここらでふんどし締めなおそう、という気持ちです」と、『クールでニヒル』が看板の俳優が、熱をこめてよくしゃべった。
*10月スタートの「捕物帳」とは「江戸の牙」。このほかに美女シリーズも4本あったし、たしかに多忙な1年だ。
*珍しく批判めいた言葉が出ているが、五社監督とは以前からの知り合いだからこそ?
*ちょっと笑ったのがタイトル。「茂」といえば天知茂、な認識だったのか当時は。
(2009年10月8日)