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眉間のシワはダテじゃないアラン(月刊OUT増刊 No.4): 1983(S58)5月号:52歳
インタビュー 探偵とギャングと
眉間のシワはダテじゃない
天知茂

――探偵をやる人は、大体ギャングもやるということになってますが(笑)、天知さんの場合はどうですか?
天知 デビュー作が『恐怖のカービン銃』ですからね。カービン銃事件という、当時実際にあった事件を下地にした作品でした。

――なんとなくなつかしさを感じる題名ですね。いつの作品ですか。
天知 確か23才だったと思います。

――主役でデビューしたんですか?
天知 ええそうです。というのは当時、人々の脳裏に生々しい事件でしたから、なまじ顔の知られている既製のスターより、全くの新人の方がいいだろうというのが企画の狙いで。もっとも役者の世界に足を踏み入れたのはもっと前で、旧制の中学を出てすぐ京都の松竹に入ったんです。今でいえば高卒ですね。その後に昭和26年に新東宝に移ったんです。

――当時と今と、あまり変わっていないのでは。
天知 どちらかというと老け顔でしたからね。しかし、当時の写真見ると、自分ではやっぱり若いなーって感じますよ。今より鋭い顔してるんじゃないかな。

――『恐怖のカービン銃』はヒットしましたか?
天知 まあ、しましたね。これ一本でぼくの名が世間に出たということはありましたから。ギャングものでスターに、という人は当時、わりと多かったんですよ。

――その後、新東宝がつぶれて……
天知 丁度、TVが盛んになりつつある時期だったので、かえってラッキーだったような……

――『四谷怪談』は……
天知 34年頃だったと思います。あれも大ヒットしましたね。ぼくの新東宝時代の中では代表作だったと思ってますけどね。

――芯から怖い映画でしたね。
天知 ええ。四谷怪談というのは色々な監督、色々な役者がやってますが、その中でも一番いい作品でしょうね。

――それから明智小五郎役……
天知 あれは昭和43年に『黒蜥蜴』に出た時に演じたのが最初なんです。三島由紀夫さんが『四谷怪談』をみて、ぼくを明智役に、と指して下さったんです。で、千秋楽に、三島さんが特別出演したり……

――あれ、映画の方ではなかったんですか?
天知 映画は木村功さんがやりました。

――そして『非情のライセンス』。
天知 その前に『孤独の影』(原文通り。おそらく『孤独の賭け』)というシリーズものがあって、これがぼくのTVでの最初のヒットなんです。『非情のライセンス』は昭和40年代に入ってからで、途中で二回ほど休みましたが、約6年間続きましたからね。

――最近の『AカップCカップ』は喜劇でしたね。珍しいのでは?
天知 いえ、けっこうやってるんです。ただ会田刑事とか明智小五郎のイメージの影にかくれてしまっているだけで……。舞台の構成というのは、一本重いのをやったら軽いものをもう一本というように変化をもたせてますから、わりとコミックもやってることになるんです。

――喜劇は好きですか?
天知 ええ、大好きですよ。友達にもコメディアンが多いし。しかし、舞台やってるとわかるけど、お客さんを笑わすということは大変なんです。計算通りにいかなかったり……ここで笑ってくれるはずなのに笑ってくれないとか……我々はそういう反応をみてますからね。喜劇というのはTVとか映画だけじゃだめなんですよね。舞台をふんでないと……お客さんの反応というものをじかに肌にしみこませた経験がないと……。

――話変わりますがお生まれは……
天知 名古屋です。

――どんなお子さんだったんですか。なぜか興味があるんです。
天知 うーん、今でいう、過保護でしょう。

――へぇーっ!
天知 末っ子だったし、親にとっては遅い子だったので甘やかされ、過保護で、ヒ弱な子でしたね。そういうのが突如として役者になるっていって家とび出したから、みんなびっくりしたでしょうね。

――目立ちたがりやということは……?
天知 全然ないです。

――おとなしい……
天知 身体が弱かったせいもあるでしょうが、よく学校も休んだし……あまり目立たない子だったでしょうね。目立ちたいという気持は役者の場合どうなんだろう……内心、あったのかもしれないけど……。

――では、役者になろうと思ったのは何故ですか。
天知 これはやっぱり好きだったからでしょう。一家中好きだったし。そうとしかいいようがないですね。

――天知さんの人生で最も重大なことは何だったと思いますか?
天知 それはたとえば右に行くか左に行くかという岐路にたたされた場合、自分の意志でそれを選ぶことができる時もあれば、そうでない時もあるわけですよね。戦時中、名古屋にいた時に大空襲にあいまして、防空壕に逃げ込もうとして片足を入れたんです。ところがその時、後ろの方にもう一つ別の防空壕があったんですがそっちの方から誰かの声がぼくを呼んだんです。それで、そっちの防空壕に移ったとたん、ぼくが入ろうとした方が直撃弾を受けてこっぱみじんになってしまった、この時、ぼくを呼んだのが誰なのか、いまだにわからないんですよね。神様の声でもあったのか……。これなんか自分の意志ではどうすることもできないような運命であったわけですよね。それから、新東宝がつぶれた時に、あくまで映画の道を求めるか、TVに活路を求めるか……これもひとつの別れ道だったわけですが、こっちは自分の意志で選んだわけですね。

――防空壕の件で、宗教的なものに関心を持ったようなことは……?
天知 いえ、それはないです。

――天知茂さんというと眉間のタテジワがトレードマークなんですが、今は……ありませんね。
天知 あれはお芝居の上でのことで……必然的にというか、たまたま僕の顔の造形がこういったしわを生みだしやすい、と……(笑)

――ことさら意識してやってるわけではないんですか?
天知 そうですねぇ。

――デビュー当時から……
天知 まさかこんなのが売り物になるなんて思ってなかったし、まあ最近ちょくちょく言われるんで初めて気がついたみたいなものです。

――タテジワにもいろいろあるんですか? 悪人のタテジワ、そうでないタテジワ……
天知 もちろんありますよ。

――演じ分けるのはどうやって?
天知 気持から入っていくのが大切です。セリフにしても何にしても。そうすれば自然に外に出てくる。

――そういうものですか?
天知 演技の基礎です。

――ところで、趣味は何ですか。
天知 ぼくは何もないんです。

――なんにも?
天知 ええ、なんにもない。しいていえば、役者が趣味っていえば趣味のようなものです。

――今、いちばん興味のあることは?
天知 やっぱり芝居です。朝起きてから寝るまで、終始そのことばかり。映画にしろTVにしろ。このプロダクションをいかに運営していくか……。

――そんなこと考えてると自然に眉間にタテジワが……すいません、こだわって。
天知 いや。そんなことないでしょう(笑)

――プロダクションの社長さんとなると、色々大変でしょう。
天知 いや、そうでもないですよ。みんな、仲間意識をもってやってますから。最近、スペインと合作映画を作ったんですが、それも仲間があって初めてできることで。

――スペインと?
天知 『狼男とサムライ』っていう映画です。スペインでは「狼男」の映画がシリーズものになっていて、毎回ヒットしていましてね。その狼男が日本の時代劇の中で暴れたらどうなるだろうかという発想で……。

――スペインと天知さんって何となく似合いますね。
天知 そうですか。

――暗くて、かわいていて、ちょっとマイナーで……
天知 うーん。スペイン人そのものは大変陽気ですよ。

――マイナーなんて失礼なこと言ったけど、天知さんってそういうB級の世界で一貫してやってきたという感じですね。
天知 ぼくはTVにしろ映画にしろ、娯楽であると思うんです。しかし今の日本の映画界はともかく面白くない。娯楽になり得ていない。たとえていえば、ヨーロッパの映画界は日本ほど落ち込んではいないし、特にスペインは昔と同じように映画が娯楽の王者であるわけで、そういうところにとびこむのもいいと。ま、ぼくはありとあらゆる種類の作品にでてきたと思うけど、いずれにしろ、ぼくはひとつの信念を持って生きてる男、それが善人にしろ悪人にしろ、何かひとつの信念を持っている男を演じてきたわけで……。

――そういう自分のイメージを保つのに苦労するようなことは?
天知 それは、ぼく自身という人間の反映でもあるわけだから……。

――ちょっと写真をとらせて下さい。……あ、ファインダーの中だと、ぼくの知ってる天知さんですね。
天知 そうですか。職業意識ですかね。しかし、家を一歩出れば役者という意識はやはり切り捨てられませんねー。

――自分で、どれが本当の自分かわからなくなることはありませんか。
天知 それはありますね。ある時は会田刑事ある時は明智小五郎……。役者としての自分を、そうではない、もう一つの別の自分が常に見張っているような。

――くたびれませんか?
天知 そんなことはないです。

――じゃ一つ、グイッと眉間にシワを……
天知 ……(グイッ)!!(とシワを作る)

*この「アラン」という雑誌、少女のための耽美派マガジンということで、特集記事もなにやら妖しい香りがぷんぷん漂ってくるのだが、そんな雑誌の趣旨を知っての上でインタビューに応じたのかどうかは謎である。もっとも、底の浅そうな質問は端的な言葉ですぱっとかわし、自説を分かり易く語ってくれているあたりが嬉しい。

*タテジワじゃなくてヨコジワがトレードマークのような気も

*で、そのシワをグイッと作った写真(ストライプのシャツでタバコ片手)が2枚ばかり、それから「素」っぽい顔のが1枚載っている。ちなみにトップにはブランデーグラス片手に決めまくってるスーツ姿の写真。病弱な美少年時代の写真でもあれば購読者層にはもっとウケただろうにと思う(それもどうか)

*私が買ってみた号は「美中年特集」があったほか(残念な?ことに、ここには名前は挙がっていない)、この番組の誰と誰がイヤーンな仲だとかで盛り上がっている読者投稿欄において、「闇を斬れ」の沖雅也氏との入浴シーン(#17参照)のことが言及されていた。沖さんはキレイだけれど天知さんはくたびれていた(身体が)、そうである。

(2007年4月24日:資料提供・yayoiさま)
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