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渋谷桃色地図 笑の泉 : 1951(S26)11月 : 20歳
東京夜の女体痴図―渋谷の巻―

*記事には筆者の名前はないが、目次では「渋谷桃色地図……天知茂」となっている(しかも筆者の名前ごと赤字で)

東横デパート下
すぐ前にある、もと大宮組マーケット内の飲み屋の女が出張って客を引っ張る。午後九時頃から、東横線の終電までが柿入れ、素人女のように見えて、その手練手管はパン助以上という点が、ここの女のミソ。ショートで七〇〇円まで値切れる。泊りなら千五百円前後。天井の低い屋根裏のお粗末な部屋だが、焼酎の臭いがしみついている板壁の風味は、また乙なものであろう。

元大宮組マーケット
もとはひとかどの雑貨屋、食料品店が軒を並べていたが、いまでは飲み屋の集団地域と変貌し、三転して、飲む、転ばすの巷となる。ビール一本に酔ったふりして、悩ましそうな顔をすれば〈大一コでいいわ〉と簡単と春情を充たしてくれる。

国電ホーム下の植込地帯
場所(ショバ)を持たない、みみっちいパン助が、ここの暗闇に立っている。その多くは未亡人。仲間の女を呼ぶにも〈黒いお召しの奥さん〉とか、〈ピンクの洋装の奥さん〉などと、品のいい敬称をつけている。ショートで最低五百円――この鴨は、すぐ近くの貸席へ連れて行かれる。貸席といっても、表は堂々たる店舗で、裏側を三つぐらいの小部屋に仕切った。ベニヤ板に囲まれた褥。青カンよりましだが、汚いせんべい蒲団は気分を害わす。部屋代が二百五十円で、あとの二百五十円が女の懐中に入る勘定。八百円出せば、桜丘の小綺麗なホテルへしけこめる。泊りで二千円。

テアトル渋谷横丁
約十数軒の飲み屋が並んでいて、どの店にも五六人の女がいる。飲ませることより、別間へあげて汗を流させることのほうが得意。この点、大宮組マーケットの飲み屋と変りない。ショートで千円。泊り千五百円から二千円。まわしはとらない代りに、ベニヤ板に仕切られた、隣室のいとなみが、蝶々ときこえてくる。

百軒店飲食街
入口のアーチに、夢の歓楽街と書いたネオンの灯がけむっている。キャバレーあり、小粋な料理屋あり、バーもあり、どんな酔客のお好みもみたしてくれる、夢の歓楽境――。勿論、アレのほうもOK。ショートなら千円から千五百円。泊りは二千五百円から三千円とはずむのも。近く円山の花柳界を控えた、場所的尊大を誇示するもの。

渋谷東宝前
活動の終わった十時半頃から、一時頃まで、ズラリと並んだ万鑑飾の姐さん達は、云わずと知れた客引きの女。百軒店の飲み屋の女あり、大和田横丁の小料理屋の女あり、その雑多な女模様も、最後の線はみなひとつ。「ねえ、遊んでいかない?」と媚しくよってくる。ショートで八百円から千円。泊るなら二千円ちょうだいと、曰くなり、円山の待合、松濤台の高級のホテルへしけこむ手合は、最低三千円は押してくる。

渋谷松竹わき
ここも、場所(ショバ)をもたない浮遊パンパンの稼ぎ場。進駐軍の高級自動車の駐車している間隙を縫い、闇のなかに、チラホラと散見する。白い女の顔――。五百円でもいいわと、近くの鍋島公園の青カン利円組から、ショートでも千五百円欲しいわと、お高く出る姐さんあり、半処女みたいなパンパンもいて、すぐ欲情して困るわと、こぼしているのも愛嬌があってよきものだ。

忠犬ハチ公附近
渋谷のパン助の正統?の縄張りと云えば、このあたりに屯する一群である。外人向きと、日本人組と厳然たる一線を劃しているが、日本人組は山一證券の建物をぐるりと取囲んで、駅から吐き出されてくる鴨を、手ぐすねひいて待ちうけている。その数約五十、未亡人が十二三人。他はいまを盛りの二十代、美しい花にはとげがあるたとえながら、それほどスレッカラシに見えないところが、上野、新宿あたりと変った渋谷の姐御たち。桜丘のホテルへ連れこんで、ショートで千円。泊れば千五百円でもいいわと、ロングヒッターの多いのも無粋な狩込を怖れての救命策か?

*昭和26年11月といえばまだハタチ。新東宝に入りたて(=芸名貰いたて)の頃とはいえ、ほんとにウチの天っちゃんなのかどうかは半信半疑な艶モノ系記事だが(生憎これだけ読んで判断できるほどアマチ度はまだ高くない)、谷敬さんのポエムとか、同じく新東宝の柳家金語楼さんなどの名前もあるので「おい新米、ちょっと小銭稼ぎしろや」と仕事(?)を回してもらったのかもしれない。

(2007年11月08日)
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