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男が泣くときテレビ・メイト : 1973(S48)3月20日号:42歳
《非情のライセンス》
男が泣くとき
非情の男/天知茂が死化粧した夜をうたった

生島治郎――いうまでもなく、ハードボイルドものの第一人者として著名な作家です。ご承知の通り「追いつめる」で直木賞を受賞、その後「傷痕の町」「黄土の奔流」「死の時はひとり」等、数々の作品があります。
作風は、一方では“ハードボイルドミステリー”であり、他方“男のサスペンス小説”ですが、いずれも、ストーリーはおもしろく、魅力ある主人公が登場します。

この、生島治郎原作の兇悪シリーズに材料をもとめて登場の新作品、《非情のライセンス》は、刑事ものとはいえ、これまでの作品とは、いささか趣が違います。
《非情のライセンス》では、囮捜査の行きすぎや、過剰防衛のために四課を追われ、特捜部に所属する、ひとりの“はみだし刑事”が主人公です。
しかし、“はみだし刑事”とはいっても、いわゆる“悪徳刑事”ではありません。仕事に熱心なあまり、刑事のルールを忘れた男のことで、ぞくにデカ(刑事の俗称)バカといわれる男なのです。
いってみれば、警視庁内部の常識で、よけい者扱いされているのであって、つまりは、庁内での勤務評定的視点からみて、はみだしているというワケです。

《非情のライセンス》は、そんな、男の中にひそむ孤独、悲しみ、温か味など、人間味に加えて、捜査には手段をえらばないという非情な面など、内面にひそむ魅力を、いろんな角度から、描き出して行きます。

“はみだし刑事”の性格

ここでは、天知茂演じる主人公、会田健の性格を紹介しましょう。

彼も、もちろん、“はみだし刑事”のひとりですが、それを恥じるといったコンプレックスは見当たりません。むしろ、楽しんでいるといった趣きがあります。不満を表わすこともなければ、自己嫌悪におちいることもありません。
仕事面では、単独捜査の危険と緊張感に、生きがいを見出しているような男です。

しかし、一匹狼のこの男にも、暗いカゲリが、表情をよぎることがあります。
たったいちど、恋した女の死が、彼の内部深くに、いまだに巣食っているからなのです。その女は、彼が暴力団捜査のため潜入して活動していた、ある組長の娘でした。

そんな、会田にとっての唯一の楽しみは、月にいちどの豪遊です。血の匂いを忘れるために、彼は、一張羅のモヘアのスーツに、濃い目のカラー・シャツ、それに、サイケデリックな派手なもようのネクタイ姿で、身分不相応な銀座に出掛け、ロースト・ビーフの生焼きを、ゆっくり味わいます。
この、いってみれば、自分自身へ挑戦し、自分自身が発揮できる限界の中で、喜びを感じて生きている会田健の姿には、ある種の憧れを感じさせられます。

レギュラーは適材適所

それはさて、この作品のレギュラーは、天知茂扮する主人公、会田健をふくめて六人です。

感情の起伏を表情にださず、部下にやさしい言葉はおろか、事件の捜査にも口出しをしない。しかし、なぜか会田が心ひかれている矢部警視には山村聰。
逆に会田とは、まったくウマの合わない男、東大法科出身のエリート、橘捜査一課長には渡辺文雄。
会田が、月いちど行く銀座のクラブ・レストランの経営者兼ママの河村志津には、村松英子。
江戸ッ子のクリーニング屋で探偵狂、町内の防犯会長をもつとめる竜巻太郎には、左とん平、その妹の順子にはテレサ・野田というそれぞれに、キャラクター豊かな俳優が、キャスティングされています。

そして、事件の内容に応じて、いろんなタイプの刑事を登場させ、著名な演技者の起用で、作品に厚みが盛り込まれて行くことになっています。
なお、天知茂うたう主題歌、“昭和ブルース”は、この《非情のライセンス》シリーズの全てを、象徴しているといえましょう。

木曜《夜》10時 (広島地方は月曜《夜》9時)

【写真】
・蝶ネクタイのボーイに扮してるっぽい会田
・波止場で拳銃をもったワルと格闘している会田
・拳銃をぶっぱなす会田、派手にのけぞるワル
・ブランデーの壜やグラスを前におき、タバコを持った左手の親指を噛んで厳しい表情で物思いに耽る会田
・人が集まっている中、右サイドから後ろを振り向く会田
・波止場でコートを羽織り、手錠を片手にポーズをとる会田(A4サイズ)


*眉間の横皺がデフォルトな会田写真がてんこもり。

*第1シリーズはほとんど見ていないから分からないが、ロースト・ビーフ(原作はそうだが、テレビだとたしかビフテキ)は月に一度でもカラーシャツやサイケなネクタイなんてのはしょっちゅうじゃなかろうか。

*たしかに「昭和ブルース」が番組すべてを表わしているが、この「死化粧した夜をうたった」とかいうフレーズもたいしたものだと思われる。

(2007年2月3日)
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